Love & Solidarity 働く女性たちへ 愛と連帯を

大椿裕子(おおつばきゆうこ)

世界を揺るがすような大不況が起こる時、最初にクビを切られるのは非正規労働者やフリーランスだ。緊急時、「雇用の調整弁」である非正規労働者は真っ先に切り捨てられる。「多様な働き方」などと聞こえのいいことを言って持ち上げておきながら、こういう時、個人事業主のフリーランスには労働基準法の保護が及ばない。4月7日、政府によって発出された「緊急事態宣言」は、容赦なくその冷酷な現実を突き付けてくる。

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労働組合や弁護士がホットラインを開設すれば、コロナを理由にした解雇や雇い止めの相談が、息つく暇もないほどかかってくるという。その多くは非正規労働者からの相談だ。3月30日付の東京新聞に、「厚生労働省の直近のまとめでも新型コロナで解雇や雇い止めが確定した人は994人に上る」と掲載されていたが、1週間以上たった今、その数はいったいどれだけ膨れ上がっていることだろう。政治家たちは「不要不急の外出は避けてほしい」と自粛を要請しながら、それに伴って生じる経済的な損失については現金給付を出し渋る。やっと方針が出たかと思ったら、限りなく対象者は限定的。「おまえら庶民にくれてやる金なんてねえ!」という政府の凄まじい執念を感じる。自分の友達や支持者には税金使って優遇したり値引きするくせに、私たちに対しては、驚くほどケチだ!どケチだ!こんなケチな奴ら見たことがない!補償をしたくないから、「緊急事態宣言」を出した後も通勤は可能。えっ、本気?感染拡大を防止する気なんてないでしょ?日本にだけ「神風」が吹くとでも思っているの?吹くわけねぇから!あぁ、怒りが湧いてくる…こんなことをしている間に、どれだけの人々がクビを切られ、職を失い、路頭に迷っていることだろう。

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ここで、この社会の現実を知るために、少しだけ数字の話をしよう。多くの人が知っていることだと思うけれども改めて。2019年、日本における非正規労働者数は2187万人。前年度より35万人も増加。全体の38.4%、約4割が非正規労働だってこと。安倍首相は、「アベノミクスで雇用は増えた」と言うけれど、増えたのは非正規労働者ばかりというのは、みなさんもすでにご存知ね。男女比を見てみよう。男性非正規労働者数698万人、女性非正規労働者数1489万人。なんと男性の倍以上!女性労働者の総数2668万人の内、正規は1179万人で、非正規はそれを上回る1489万人。非正規労働者はその多くが女性であり、女性労働者の5割以上が非正規で働いていることが、この数字から見えてくる。(参照:労働力調査(詳細集計)2019年10~12月期平均結果の概要

緊急時、まずクビを切られるのは非正規労働者、そして非正規労働者の多くは女性。ならば彼女たちは今、新型コロナウイルス感染拡大の中でどうやって生き延びているのだろう。「感染は怖いけれど、休めば収入が減る」「仕事が減って収入も減った」「契約更新されると思っていたのに雇い止めされた」「緊急事態宣言と同時に、1カ月の休職を言い渡された」「貯金もないのに、どうやって生きていけばいいの?」すでにそんな相談は山ほど寄せられているが、昨日の緊急事態宣言を受け、その勢いはこれから更に加速していくことだろう。コロナは、緊急事態に陥れば、数週間で職を失い、ただちに経営も生活も立ち行かなくなる「溜め」のない人たちが、この国には山のようにいることを顕在化させた。

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かつて私も非正規労働者だった。時代は就職氷河期。大学卒業後、様々な非正規労働を渡り歩き、2006年、障害学生支援コーディネーター(障害のある学生の就学上の支援を行う)として、関西学院大学(兵庫県西宮市)に就職した。しかし、上限4年の有期雇用を理由に2010年3月末で雇い止め解雇に。あれからちょうど10年が経った。

「仕事があるにもかかわらず、数年ごとに労働者の首を挿げ替えるのはおかしい」「同じ労働契約なのに、上限4年を超えて継続雇用されている人がいる。人によって扱いを変えるのはおかしい」と思った私は、労働組合に加入し、継続雇用を求めて闘うことにした。雇い止め解雇された後も争議は続き、トータル3年9ヵ月闘ったが、結果は全面棄却。職場に戻ることは叶わなかった。

私は勝つことは出来なかったが、労働運動を通じて、クビを切られてもタダでは終わらない闘い方を身に付けることが出来た。それと同時に、「4割の非正規労働者が本気でストライキを打てば、この社会は絶対に回らない。当事者が立ち上がれば社会は変えられる」という確信を持つに至った。感染拡大の問題さえなければ、これほどゼネラルストライキ(一企業や特定の労働組合によるストライキではなく、全国的な規模で行われるストライキのこと)が必要な時はないだろう。他国で早急に経済政策が打ち出された背景には、「補償を提示しなければ必ずゼネストが起こる。そこでさらに感染が拡大する」という危機感があったからだと思う。要するに、私たちは舐められているのだ。「こいつらにゼネストなんて出来ない。補償を提示しなくても、緊急事態宣言を出せば静かに言うこと聞く」と。バカにするなよ。

もし、これを読んでくれているあなたや、あなたの家族・友人が、今、解雇や雇い止めに直面しているならば、「コロナだから仕方ない」と諦めないでほしい。ひとりで結論を出してしまう前に、労働組合や労働者弁護団に相談をしてほしい。今、全国各地の労働組合が電話相談を行っている。「コロナ・労働組合・相談・ホットライン」などのワードに加え、地域名を入れ検索してみてほしい。この窮状の中、何を使ってどう生き延びるか、どうやって労働者としての権利を守るために闘うか、その具体的な方法をあなたに伝え、一緒に闘ってくれる人たちがいる。

闘うことはとてもしんどいから、私たちはこれまで誰かにお任せしてきた。自分が立ち上がるのは嫌だが、誰かに変えて欲しいと。しかし、当事者が立ち上がらない運動は、結局のところ誰も変えてはくれないことを、私は自分の労働争議を通して知った。もしあなたが女性の働き方を変えたい、女性が安心して働ける社会にしたいと思っているなら、誰かが変えてくれるというあてのない期待を少しずつ手放そう。誰かに委ねたくなる恐怖は、思いを同じにする人々と手をつなぐことで乗り越えよう。そして、あなたのそばで誰かが立ち上がった時は、ひとりで闘わせないために寄り添おう!

まずは今を生き延びよう。反撃はそれからだ。

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大椿裕子(おおつばきゆうこ)
クビを切られた元非正規労働者
前大阪教育合同労働組合執行委員長
2019年、社会民主党から全国比例代表で参議院選挙に出馬するも落選
現在は、社会民主党全国連合常任幹事・大阪府連合副代表
オフィシャルサイト https://ohtsubaki.jp/ 
Twitter  https://twitter.com/ohtsubakiyuko

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