「ジェンダーギャップ121位」の記者会見



南  彰(新聞労連委員長、MIC議長)

まるでジェンダーギャップ指数121位の日本社会を投影するような記者会見だった。

「1世帯当たり30万円」

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が「緊急事態宣言」に踏み切った4月7日。男性の政権幹部や専門家と一緒に会見に臨んだ安倍晋三首相が、支援策として真っ先に挙げたのは、「世帯主」の所得を基準にした給付だった。

2011年の東日本大震災のときにも、被災者生活再建支援金などが世帯主の口座に振り込まれるため、女性が困窮する問題が起きている。国連女性機関(UN Women)が「支援金は家庭ごとではなく個人ごとに」と今年3月に示したチェックリストも無視する内容だった。

しかし、そうした日本政治の遅れたジェンダー意識を支えているのは、監視する側のメディアにもあるのではないか。政治部の官邸記者クラブのキャップが主に参加したこの日の記者会見で、質問した12人のうち女性は2人(うち1人はフリーランス)。DVに関する質問は出たが、世帯主への支給の是非が問われることはなかった。
 
メディア関連労組でつくる「日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)」は3月、メディア業界における女性管理職比率の調査結果を初めて公表した。

新聞・通信社は平均6.4%。在京・在阪のテレビ局には、報道部門、制作部門、情報制作部門に女性管理職(局長相当)は1人もいなかった。新聞・通信・テレビともに「女性役員ゼロ」の社が多数を占めた。

新聞・通信社の新規採用者ではほぼ男女同数になってきたが、意思決定権者でみると圧倒的な男性優位が続いている。
新聞労連が昨年10~12月に実施した組合員アンケートでは、メディアで働くうえでの性差別が顕著になった。

「賃金・待遇や働く上で、性別による差別があると感じますか」という質問に、女性は6割が「ある」と回答。男性の6割が「ない」「わからない」と答えたのと対照的だった。特に女性からは「政治、経済部などの昔ながらの本流の領域は男性記者となることが多い」という意見が目立った。女性管理職が少ない影響について、「ニュースの取捨選択や編集方針が男性中心主義的な価値観にもとづいている」という指摘は男女双方から上がった。

「女性管理職調査」と「組合員アンケート」で中心を担ったのは、新聞労連が昨年創設した「特別中央執行委員」の女性たちだ。

新聞労連の役員会も長年ほぼ男性だけの状態が続いていたが、2018年4月に財務事務次官による女性記者に対するセクシュアルハラスメント問題が発生。同年12月の役員会の直前に、100人を超す女性組合員らから「新聞業界の未来に向けた提言書」が寄せられた。

《これからも新聞メディアが存在感を持ち、世論をリードしていくという気概を持つのであれば、読者の信頼を得るためにも、このジェンダー・ダイバーシティーの実現は避けて通れません。新聞労連がいち早く、道筋をつけるべきではないでしょうか》

同じ趣旨で「積極的是正措置」を求める個人名の意見書も寄せられた。その中には「新聞社はまだまだ男性社会。私自身もここで働き続けられるのか、未来があるのか、不安に襲われます」という悲痛な声も綴られていた。

こうした意見を受け、「女性ゼロ」だった役員会は、従来の中央執行委員と同じ権限を持った女性役員(特別中央執行委員)を公募することを決定。翌月の臨時大会で規約改正し、昨年7月の定期大会で8人の特別中央執行委員が選出された。女性の組合員たちの声が労組を動かしたのである。新聞労連の役員は現在33人中11人(33%)が女性になった。

前出の組合員アンケートの結果は、今年2月に日本新聞協会にも提出。メディア業界の方向性を決める協会の理事会(現在女性ゼロ)にも、新聞労連同様の積極的是正措置を講じるよう求めた。

「もう少し時間が経っていけば…」
協会側はかわそうとしたが、要請に参加した女性役員たちが次々と訴えた。
「協会として明確な目標数値がないといくら時間を経ても変わらない」
「若手はどんどん業界からいなくなっている。積極的な意思を持ったアクションを求めている」
最終的には協会側も「思いを十分受け止める」と述べた。

新聞労連の女性役員たちはこのほかにも、長崎市幹部から取材中に性暴力を受け、訴訟を闘っている現役記者を支援するシンポジウムやフラワーデモを開催。また、今年3月の国際女性デーでは、ジェンダーギャップ指数121位の日本社会を変えていく報道を連携して展開した。メディア業界を、ボトムアップで変えていく原動力になりつつある。

新型コロナによる学校の一斉休校などで、通常の出勤が困難になった女性記者も出ている。しかし、危機の状態においてこそ、「男性中心」に陥らないよう、多様な角度からの取材・検証が必要だ。会見場に集まらなくても質疑に参加できるオンライン上の記者会見・ブリーフを積極的に導入するなど、公的機関と報道機関はジェンダー・ダイバーシティーの確保に全力を尽くす必要がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?