「裁判とパリテ」

井戸まさえ(東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会・共同代表、 ジャーナリスト、元衆議院議員(立憲民主党東京都第4区総支部長) )

2018年7月、東京医大による女性・年齢差別入試が発覚し、社会に衝撃が走った。多くの医学部入試で同様の操作が行われ、長期間にわたり、女性受験生や多浪受験生が組織的に排除されてきたことが明るみになった。私は作家の北原みのり氏とともに共同代表として「東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会」を結成し、医学部入試で不当な扱いを受けた受験生たちの支援を行ってきた。

公正であるべき大学受験が女性、年齢が上、身内に医師がいないなどの属性で、受験生をあたりまえのように排除してきたことへの驚愕と絶望感は、受験生当事者のみならず、多くの女性たちが社会で感じる理不尽と共通する。

私たちの会の最初の相談者だった三浦さくらさん(仮名)は、東京医大、順天堂大学、昭和大と3校に合格していたにもかかわらず不合格とされ、浪人生活を余儀なくされた。翌年、別の大学に合格し医学生となった三浦さんは自分のためだけではなく同じ思いをしている医学部受験者や、これから医学部を受ける人たちのためにも、法廷できちんと問いたいと、損害賠償請求訴訟を決意し、現在も係争中である。

しかし、大学側は不正発覚後自浄作用を働かせるどころか、法廷では自己保身に終始しているように見える。一つの壁となっているのは、2次試験で行われる面接試験の評価である。どんなに優秀な生徒でもそこで意図的な操作が行われたならば、不合格に合理性があったと主張できる。裁判所はその「ブラックボックス」をどう評価するのかが、問われている。


私は無戸籍問題についても取り組んでいるが、この国は法の条文が矛盾に満ちているとわかっても法律を変えることではなく、法解釈と裁判判例をもとに実態に入何に対応することで、法改正という作業を回避して来た。法改正を阻むことが「権威を守ること」であると勘違いしているのである。

公平・公正を保つことができない理不尽な法律を放置すること、また、世の中の不正により損害を受けた際に、その不透明な過程を明らかにするために裁判はある。多大なコストを払って、被害者が時にはさらに傷つく恐れがあることに対して、躊躇がないわけではない。しかし、「『権威に弱い』権威」に対抗するためには、裁判は最も有効な手段のひとつである。

だからこそ、三浦さんを、また他の被害者たちの裁判を支えていかなければならないと思っている。 

政治の現場にも、同様の「ブラックボックス」が存在する。
女性の衆議院議員は相変わらず1割、パリテも遠い。制度がまっとうで、運用が適切に行われていれば、少なくとも女男の割合が1対9などという、人口比とかけ離れたジェンダー構成にはならないはずである。現状を変えるためには候補者選考過程、また比例代表制度を活用する必要があることは自明なのに、十分に対応している政党はない。それは幹部に女性が少ないことにも起因する。問題点を指摘すると、「小選挙区で勝っている女性議員もいる」「女性だけ優遇することは逆差別になる」と決まって同じことを言い返される。落選した候補者たちは、あたかも勝利できなかったのは自分の資質に問題があったかのような言われぶりに傷つき、「自分が悪い。努力が足りなかった」と自らを責める。
構造的問題にもかかわらず、個別ケースに矮小化されてきたからこそ、今の状況があるというのに、女性候補者たちはそれに気づかないか、気づいても声を上げられない状況に追い込まれるのだ。そもそも、比例代表の活用は「優遇」ではない。制度のゆがみで起こるジェンダーバランスを「是正」するための試みだから、女性候補も皆で堂々と要求すればよいのである。ただ、同じ政党にいても候補者同士は互いがライバルでもあるので、シスターフッドを生成する間もない。自分が当選する可能性が高まれば、他の候補者のことまで考えられない。密室で行われる駆け引きの中で、結果的には「黙る」しかないないのだ。まさに医学部不正入試と同じ不透明な構図=「ブラックボックス」が女性政治家の誕生を阻んでいるとも言える。

私は、それを変えることができるのは、それでも「連帯」しかないと思っている。

東京医大の女性差別入試が発覚した翌日、校門前でマイクを握ったのは、被害を受けた受験生ではなかった。でも、皆、広義の意味で被害者だという自覚があったのだと思う。

「声を上げられない人」の存在を知っているからこその行動だったのだ。だからこそ「「声を上げる人」を、ひとりにしない。

「裁判」も「パリテ」も、だ。 

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