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コロナの医療崩壊は本当か?

皆さん、こんにちは。脳外科医ふみです。

本来、脳卒中や脳腫瘍の情報発信をしたいのですが、こんなご時世なのでコロナに関してもツイートしております。私は感染症の専門家ではないので、そのつもりで、良ければ読んでください。

最近、コロナ患者さんは増え続け、医師会会長などもメディアで医療崩壊を訴えていますが一部では医療崩壊などはしていないという意見もあります。実際はどうなのでしょうか?

私なりに考察をしていければと思います。因みに私は現在はフランス、パリで手術をしています。私のこれからお話しする内容は私自身の10年以上の日本での臨床経験(脳神経外科医+3次救急医 at 大学病院+市中病院)に加え、最近の私の同僚(日本の大学病院救命医、脳外科医、他科、開業医)とフランスの医療現場の話を総合して出来るだけ客観的に伝えていければと思います。宜しくお願い致します。

まず、日本での医療崩壊は起きているか?

これはYesでもありNoでもあります。なぜか?

一部の医療現場では医療崩壊は確実に起きていて、一部では起きていないから。。です。

まず現在の日本の医療現場、システムの解説を少ししなければいけません。

そもそも日本はコロナの重症患者さんを見れる病院、医師、看護師は全体の10%もいません。その担い手は普段、所謂救急医、ICUで勤務されている先生、看護師さん達です。私も3次救急で働いていた経験があるのでわかるのですが、コロナ前から彼らはぎりぎりの状態で働いています。毎日搬送されるコロナではない他の疾患の重症患者さんに追われ、もともと彼らのかなりの自己犠牲のもと成り立っています。言ってみれば普段から120%、伸びきった輪ゴムの様な状態なのです。

その状態でコロナです。完全に0の状態のものがいきなり場所によっては半分以上のベットを埋め尽くしてしまいました。容易に想像が出来ますが、これは確実に医療崩壊です。もともとギリギリでやっていたところに完全に新しい病気、コロナ患者さんがベットを埋め尽くしてしまったのです。現場にいる医師、看護師は感染の不安に怯え、いつまで続くかわからないこの状況に疲弊しています。一部では差別を受け、給与も減らされ、絶望を覚えている人も少なくないはずで現状、離職者も沢山います。そして本来ICUに入るはずだったコロナ以外の重症患者さんの受け入れは出来なくなってしまいます。これも当たり前の話です。別にコロナ患者さんがいても他の病気が減るわけではありませんからね。ですからコロナ患者さんの多い地域の重症病棟では確実に医療崩壊は起きています。ツイッターで医療崩壊を訴えている救急診療科の先生が多いのはこれが理由だと思います。

一方で医療者でありながら医療崩壊は起きていないという人たちもいます。これも一部は真実です。先ほど申し上げたように医療者の90%以上は重症コロナをみれません。特に開業医の先生はコロナの影響で患者さんも受診を控えむしろ仕事は減っている人が多いと思います。大学病院や比較的大きな市中病院で働く医療者も同様です。他の診療科はコロナ診療のお手伝い(発熱外来などの軽症者)をする事はあってもメイン(重症患者ケア)にはなり得ません。ですから普段から術後にICUベットを使用する診療科以外はむしろ少し仕事が減っていると思います。日本では脳外科でも術後ICUに入らず自分達の病棟で術後管理するスタイルが多いと思うので(特に市中病院では)あまり医療崩壊している実感はないでしょう。

フランスでは、脳外科ですと、ほとんどの患者さんが術後ICUに入室し、ICUの医師が術後管理します。フランスの脳外科医は手術に特化しているのでこれらの管理が正直に言うとできません。気管内挿管、呼吸器管理、中心静脈ラインなどは出来ません。ですからコロナでICUが埋まってしまうと大きな予定手術が組めなくなってしまいます。1か月くらい前は80-90%のICUベットが埋まっていたので手術が必要であるけれども超緊急では無い人が待たざるを得ない状況になってしまったのです。一部待っている患者さんが状態が悪化するケースもありました。これはやはり医療崩壊ですが、一方でフランスの脳外科医は普段と比べると少し暇です。しかしフランスの脳外科医はコロナ重症患者を見れる能力と知識はありません。

私の同僚にイタリア人が多いのですが、彼らの話を聞くと第一波のイタリアは本当にひどかった様です。産婦人科医も皮膚科医も一部医学生も駆り出されてジャクソンリースをもんでいたそうです。これはまさに医療崩壊の末期状態と言えるでしょう。

つまり、医療崩壊という言葉の定義がはっきりしていないので混乱が生じます。現在の日本で、通常の医療が行えていない地域、病院がある、一部医療従事者が疲弊して離職者が出ている。これが医療崩壊の定義であればYesです。そうでなければNoかもしれません。所謂私立の中核病院などは診療報酬の事なども考えコロナは受け入れていないところも沢山ありますし通常運転出来ているところも沢山あります。医療の不均衡が招いた現実です。

では私達はどうしたら良いのでしょうか?答えはありませんが、もちろん国がきちんと保障、助けてくれるのが理想です。しかし現状、それはなかなか難しそうですよね。

そして、自分たちの診療科はいつも通り働いている、別に困っていない、医療崩壊は起きていないと発言するのは少し無責任ではないかと私は考えます。他診療科医師はコロナを他人事に思ってはいけません。誰もやりたくない仕事を救急医、ICUのスタッフが私達の代わりにしてくれているのです。彼らに最大限の補助と敬意の念を忘れてはいけないと思います。もちろん過度にアピールする必要はありません。現実を淡々と説明すればよいと思っています。

医療者、患者さん全体の事を考えるならば今は自分の地域、診療科が医療崩壊していなくても、一部困っている人がいる事実を認識して、コロナの最前線で働く医療従事者と患者さんを守る事が他の医療従事者のすべきことでは無いでしょうか?ではどうすべきか?その答えは残念ながら私は今、持ち合わせてはいません。コロナ診療を手伝える人は手伝える体制を整える事、出来ない人も何らかの形でお互い痛み分け、支えていける事が出来たらいいのではと思っています。

とりとめの無い話で大変恐縮です。一日も早いコロナの終息をお祈りしてフランスから投稿させて頂きます。宜しくお願い致します。





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