見出し画像

[社労士監修] 障害者雇用情報まとめ 2020年5月現在

2020年5月現在の日本国内における障害者雇用の情報をまとめております。今後制度も変わっていくため、内容はよりブラッシュアップしていきます。

経営者や会社の労務、人事に関わる方は興味があれば読んで下さい。

法定雇用率とは

法定雇用率とは、一定数以上の労働者を雇用している企業や国・地方公共団体を対象に、常用労働者のうち障害者をどのくらいの割合で雇う必要があるかを定めた基準のことです。障害者の職業の安定を図った障害者雇用促進法により、企業には法定雇用率の達成が義務付けられています。

法定雇用率を下回ると、どんな不利益があるか?

現行では、法定雇用率2.2%を満たす必要があり、労働者が45.5人以上いる企業は障害者を1人以上雇用しなければなりません。実雇用率が法定雇用率を下回った場合には、行政による指導が行われます。どのような対応がなされるのかをご紹介します。

行政指導

実雇用率の低い事業主に対してまず行われるのが、「雇入れ計画」の着実な実施により障害者雇用を推進することを目的とした、ハローワークによる行政指導です。行政指導は、「雇用状況報告」に基づき、「雇入れ計画作成命令(2年計画)」を受けた企業の計画実施状況が悪い場合に、「雇入れ計画の適正実施勧告」「特別指導」という順で進みます。

(参考:厚生労働省『障害者雇用率達成指導の流れ』)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/11_7.pdf

企業名の公表

「特別指導」を受けてもなお、障害者の雇用状況が改善されない場合、企業名が公表されます。企業名が公表されると、企業に対するイメージが悪化し、業績に影響が出る可能性も否定できません。企業名の公表に至る前に、障害者の雇用を増やすことが望ましいでしょう。

障害者雇用納付金制度

障害者に働いてもらおうとした場合、作業設備や職場環境などの改善が必要になり、企業に経済的負担がかかる可能性があります。障害者を多く雇用している事業主の負担を減らし、事業主間の負担を平等にすることを目的に、「障害者雇用納付金制度」が設けられています。この制度では、実雇用率が法定雇用率に達していない企業のうち、常用労働者が100人超の企業は「納付金」を支払う必要があります。納められた納付金は、実雇用率が法定雇用率を上回っている企業に支給される「障害者雇用調整金」や「報奨金」として活用されます。

(参考:厚生労働省『障害者雇用納付金制度の概要』)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000065519_2.pdf

知らずに水増しになってしまうケース

2018年、中央省庁の約8割が実雇用率を水増しして報告していたのが明らかになりました。「障害者手帳や診断書などによる確認を行わず、実際には対象外の人を障害者として雇っていた」「すでに退職した人を雇用中だということにしていた」といったケースが、水増しにつながったと言われています。人事総務担当者の確認漏れや認識不足による実雇用率の水増しは、中央省庁だけでなく、民間企業でも起こる可能性があります。「障害者手帳を必ず確認する」「障害者のカウント方法を理解する」といったことにより、水増しを防ぎましょう。

障害者雇用に関わる助成金

障害者雇用納付金制度に基づく助成金は、事業主等が障害者の雇用にあたって、施設・設備の整備等や適切な雇用管理を図るための特別な措置を行わなければ、障害者の新規雇入れや雇用の継続が困難であると認められる場合に、これらの事業主等に対して予算の範囲内で助成金を支給することにより、その一時的な経済的負担を軽減し、障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることを目的とするものです。

また、障害者職場実習支援事業は、障害者を雇用したことがない企業が、障害者雇用を進めるにあたり職場実習を受け入れる際に、職場実習受入謝金等を支給することで、障害者と接し、ともに働く機会を増やすことを支援する制度です。

特定求職者雇用開発助成金

高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。

本助成金を受給するためには、次の要件のいずれも満たすことが必要です。(1)ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること(2)雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であると認められること。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_konnan.html

障害者雇用安定助成金

障害特性に応じた雇用管理・雇用形態の見直しや柔軟な働き方の工夫等の措置を講じる事業主に対して助成するものであり、障害者の雇用を促進するとともに、職場定着を図ることを目的としています。

本コースでは、柔軟な時間管理・休暇取得、短時間労働者の勤務時間延長、正規・無期転換、職場支援員の配置、中高年障害者の雇用継続支援、社内理解の推進、といった7つの措置を講じる際に受給することができます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07078.html

障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金

障害者作業施設設置等助成金は障害者を常用労働者として雇い入れるか継続して雇用する事業主で、その障害者が障害を克服し作業を容易に行えるよう配慮された施設または改造等がなされた設備の設置または整備を行う(賃借による設置を含む)場合に、その費用の一部を助成するものです。

障害者福祉施設設置等助成金は障害者を継続して雇用している事業主または当該事業主の加入している事業主団体が、障害者である労働者の福祉の増進を図るため、保健施設、給食施設、教養文化施設等の福利厚生施設の設置または整備する場合に、その費用の一部を助成するものです。

http://www.jeed.or.jp/disability/subsidy/shisetsu_joseikin/index.html

障害者介助等助成金

障害者を労働者として雇い入れるか継続して雇用している事業主が、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助等の措置を実施する場合に、その費用の一部を助成するものです。

http://www.jeed.or.jp/disability/subsidy/kaijo_joseikin/index.html

重度障害者等通勤対策助成金

重度身体障害者、知的障害者、精神障害者または通勤が特に困難と認められる身体障害者を雇い入れるか継続して雇用している事業主、またはこれらの重度障害者等を雇用している事業主が加入している事業主団体が、これらの障害者の通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成するものです。

http://www.jeed.or.jp/disability/subsidy/tsukin_joseikin/index.html

重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金

重度身体障害者、知的障害者または精神障害者を多数継続して雇用し、かつ、安定した雇用を継続することができると認められる事業主で、これらの障害者のために事業施設等の設置または整備を行う場合に、その費用の一部を助成するものです。

http://www.jeed.or.jp/disability/subsidy/juta_joseikin/q2k4vk000001yt70.html

障害者職場実習支援事業

障害者を雇用したことがない事業主または精神障害者を雇用したことがない事業主が、ハローワーク等と協力し、職場実習を計画し実習生を受け入れた場合に、謝金等を支給することによって、障害者の雇用経験の乏しい企業に対する支援を行うものです。

http://www.jeed.or.jp/disability/subsidy/jishu_joseikin/shokuba_jisshu_sign_language.html

法定雇用率の見直し頻度

雇用されている労働者や障害者の総数は、毎年一定ではありません。そうした変化に対応するため、障害者雇用促進法では「少なくとも5年に1度は法定雇用率を見直すこと」が定められています。見直し後の法定雇用率は、厚生労働省のHPで公表されます。

(参考:厚生労働省『障害者雇用率制度 障害者の法定雇用率の引き上げについて』) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaisha/04.html

法定雇用率が導入された背景

法定雇用率が導入された背景には、「採用の自由」が関係しています。日本では、憲法により定められた基本的人権の1つとして、全ての人々に「職業選択の自由」が認められていますが、同様に雇用主にも採用方針・採用基準・採否の決定などといった「採用の自由」が認められていると言われています。採用の自由の下では、「誰を」「どのような条件」で雇うかは企業が任意で決めることができます。しかし、企業が採用の自由ばかりを追求すると、障害者の就労機会が閉ざされ、社会参加が妨げられてしまう可能性があります。そこで、障害者が適当な職業に雇用されることを促進することにより、その職業の安定を図ることを目的として法整備が行われ、「一般雇用主の雇用義務」と題して、雇用主は障害者を法定雇用率以上に雇用するよう努めなければならないとする制度が導入されました。

(参考:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク『公正な採用選考を目指して』
https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/basic.html

法定雇用率の推移

法定雇用率は1960年に企業への努力義務として導入され、1976年に義務化されて以降、何度か見直されてきました。義務化された当初、法定雇用率は1.5%でした。その後、1988年に1.6%、1998年に1.8%と段階的に上昇。2013年には、民間企業が2.0%、国・地方公共団体などが2.3%、都道府県などの教育委員会が2.2%となり、民間企業の法定雇用率が初めて2%台に上りました。またこの年に法改正が行われ、2018年4月から精神障害者も雇用義務の対象になることが決まりました。それを受けて、2018年に民間企業で2.2%、国・地方公共団体などで2.5%、都道府県などの教育委員会で2.4%となり、現在に至ります。なお2021年からはさらなる引き上げが予定されています。2021年4月までには、民間企業で2.3%、国・地方公共団体などで2.6%、都道府県などの教育委員会で2.5%と、現行よりも0.1%ずつ上昇する予定です。

法定雇用率に含まれる障害の種類

障害者の雇用義務制度が創設された当初は、法定雇用率の対象は「身体障害者」に限られていましたが、その後1997年に「知的障害者」が加えられ、さらに、2018年の法改正により、「精神障害者」の雇用も義務付けられたことで、法定雇用率の対象となる障がいの種類は、「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つに拡大しています。また発達障害、高次脳機能障害においても手帳交付対象となっているため、下記ではそれぞれの障害について説明します

身体障害
身体障害に含まれる障害の種類としては以下の通りとなっています。

① 視覚障害
② 聴覚又は平衡機能の障害
③ 音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害
④ 肢体不自由
⑤ 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害
⑥ ぼうこう、直腸又は小腸の機能の障害
⑦ ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害

障害の種類別に重度の側から1級から6級の等級が定められています。
(7級の障害は単独では交付対象とはなりませんが、7級の障害が2つ以上重複する場合又は7級の障害が6級以上の障害と重複する場合は対象となります。)

知的障害
知的障害では重度のAとそれ以外のBに区分されます。

重度(A)の基準
① 知能指数が概ね35以下であって、次のいずれかに該当する。
食事、着脱衣、排便及び洗面等日常生活の介助を必要とする。
異食、興奮などの問題行動を有する。
② 知能指数が概ね50以下であって、盲、ろうあ、肢体不自由等を有する者

精神障害
次の精神障害の状態にあると認められた者に手帳が交付されます。
精神疾患の状態と能力障害の状態の両面から総合的に判断し、次の3等級とされます。

1級:精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級:精神障害であって、日常生活が著しく制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級:精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの

発達障害
「発達障害」とは、自閉症・アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥、多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、通常低年齢で発現するものとして政令で定めるものをいいます。

正式な診断を受けるためには、「一定期間(半年以上)」続けて通院し、症状が続けて現れることを医師が確認する必要があります。よって障害者手帳の申請には、初診から6ヶ月以上経過している必要があります。

高次脳機能障害
高次脳機能の説明は以下の通りになります。

1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

高次脳機能障害によって日常生活や社会生活に制約があると診断されれば「器質性精神障害」として、精神障害者保健福祉手帳の申請対象になります。

[参考]
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf

法定雇用率の計算式

法定雇用率は、「常用雇用で働いている障害者の人数」と「失業中の障害者の人数」の両方を考慮した上で設定されています。法定雇用率の計算式は、以下の通りです。

各種障害者の常用労働者数・失業者数/常用労働者数・失業者数

※ 「常用雇用で働いている労働者の総数」とは、週30時間以上勤務している「常用雇用労働者」と、週20時間以上30時間未満勤務している「常用雇用短時間労働者」の人数を足したものです。

障害者を1人以上雇用する必要がある企業の規模

2019年現在、障害者を1人以上雇用する必要があるのは、常用雇用で働いている労働者が「45.5人」以上いる企業に限られています。しかし、2021年に法定雇用率が引き上げられることで、常用雇用で働いている労働者が「43.5」人以上いる企業が対象になります。そのため、常用雇用で働いている労働者が43.5人以上45.5人未満の企業の場合、現行では障害者を雇用する必要はありませんが、2021年以降は障害者を1人以上雇用する必要があります。

グループ会社における法定雇用率は

法定雇用率は、事業主ごとに適用されます。そのため、通常の「親会社」「子会社」といったグループ会社では、グループ全体ではなく各社ごとに法定雇用率を満たす必要があります。「企業グループ算定特例(関係子会社特例)」が認められるのは、「親会社が、当該子会社の意思決定機関(株主総会など)を支配していること」「親会社が障害者雇用推進者を選任していること」など、特定の要件を満たしている場合に限られます。

(参考:厚生労働省『「企業グループ算定特例」(関係子会社特例)の概要』)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha/dl/71.pdf

事業所が複数ある場合の法定雇用率は

法定雇用率は、企業全体で満たしていれば問題のないものです。そのため、「本店」「A支店」「B支店」といった事業所ごとに法定雇用率を満たす必要はありません。

障害者のカウント方法

実雇用率を計算する場合、通常は常用雇用で働いている労働者の人数をそのままカウントします。しかし勤務形態によっては、1人を2人分としてカウントする「ダブルカウント」や、0.5人分としてカウントする「0.5カウント」になるケースもあります。さまざまなケースで、どのように障害者のカウントを行うのかをご紹介します。

ダブルカウントになるケース(重度身体障害者、重度知的障害者)

「重度身体障害者」と「重度知的障害者」を雇用している場合には、1人当たり2人分としてダブルカウントします。なお、重度身体障害者に該当するのは身体障害者手帳の等級が「1級」「2級」の人、重度知的障害者に該当するのは療育手帳の区分が「A」の人です。

0.5カウントになるケース(短時間労働者)

「短時間労働者」の場合には、「1」ではなく「0.5」としてカウントされます。短時間労働者に該当するのは、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者です。ただし、「新規雇入れから3年以内または精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内」かつ「2023年3月31日までに雇入れ、精神障害者保健福祉手帳を取得した」精神障害者は「1」としてカウントすることができます。なお、週20時間未満の勤務の場合は、カウントから除外されます。

(参考:厚生労働省『障害者雇用対策について』)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000482197.pdf

業種により除外率の設定も

企業によっては、障害者の雇用が難しい職種が大半を占めている場合もあります。そのため、「障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種」については、法定雇用率を算出する際に計算から除外できる「除外率制度」が設けられました。除外率制度自体は、ノーマライゼーションの観点から2004年に廃止されました。しかし企業への負担が大きいため、段階的な除外率の引き下げ・廃止を念頭に置きつつ、現在では経過措置として除外率設定業種ごとに除外率が設定されています。実際に、2004年4月と2010年7月に、一律10ポイントずつの引き下げが実施されています。たとえば、常用雇用労働者が1,000人の企業で比較すると、除外率が0%の企業の障害者雇用義務数は1,000人×2.2%で22人になるのに対し、除外率20%の企業の場合には(1,000 人-200人)×2.2%で17人になります。

(参考:厚生労働省『除外率制度について』)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/4-1-2_5.pdf


ぜひこれらの情報を参考にして自社の状況を見直すきっかけにしていただけたらと思います。

より読者のみなさまのためになる記事執筆の活動費にあてさせてもらえたらと思っています。もしよければサポートお願いします!