まいどばかばかしいお話を一席がこわい
いつの時代も野郎が集まって酒を飲むと、くだらない話が始まるもので、勝手知った友人同士が飲み屋で盛り上がっていると、"こわいもの"の話になった。
「俺は妻の怒ったときがこわい。細かいことで噛み付いてきて2時間も3時間も口論になる。」
「わからなくもないな。」
「俺は虫がこわい。クモとかムカデとか足がいっぱいあるから。」
「ほう、厳密には昆虫ではないな。5才からやりなおしな。」
「俺は色違いの食べ物がこわい。キャベツとかアスパラとかスイカとか、色を変える意味が分からん。メロンは問題ない。」
「うーん、何をいっているのかさっぱり分からん。」
そんな中、最後のひとりがこんなことをいった。
「俺は"まいどばかばかしいお話を一席"がこわい。」
「なんだそれは。落語の口上のことか。」
「そうだ、マクラもこわい。噺もこわいし、オチもこわい。」
「ふーん。」
「俺は"まいどばかばかしいお話を一席"がこわくてこわくて夜も眠れねえよ。」
後日、男たちがこんなことを話した。
「…とまあ、あんなことをいっていたから、今度俺たちであいつに"まいどばかばかしいお話を一席"お見舞いしてやろう。」
「そうだな。あいつの怖がる姿を拝んでやろう。」
「ばかばかしい話かー。」
そんなわけで、あいつを交えて一席を設けたってわけ。
「なんだい、おまえら。」
「いや、話があるんだ。」
「ふーん。」
「まいどばかばかしいお話を一席、…ツルー。」
「こわい」
「えー、まいどばかばかしいお話を一席、よろしくお願いします。…あんまり長すぎてもうしぼんじまったよ。」
「こわいこわい」
「まいどばかばかしいお話を一席、…え、ネコかと思っちゃいましたー。」
「ずこー」
男たちはいくつか落語を披露したが、そいつは怖がる様子でもない印象がある。
「おいお前、ひょっとして"まいどばかばかしいお話を一席"がこわくないんじゃないのか。」
「うん、そうだ。いまはこわくない。」
「それなら何がこわいんだい。」
「そうだなー、いまはまんじゅうがこわい。」
「…肉まんなら、あるよ!」
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