裏表ラバーズと陽炎

2015年10月31日、吉祥寺CLUB SEATA、ドキ生R 2015。

ボカロPがバンドセットで自身のボカロ曲を演奏するという、当時にしては珍しいイベントだった。主な出演者は「ダブルラリアット」のアゴアニキ、「ペテン師が笑う頃に」の梨本うい、そして「裏表ラバーズ」のwowaka。

梨本うい目当てで友人とチケットを予約した翌日、シークレットゲストとしてヒトリエが発表されたことをよく覚えている。既にメジャーデビューし、ワンマンで赤坂BLITZを回る程のバンドが、こんなラッキーパンチで観られるなんて、とめちゃくちゃ興奮した。

あの頃の僕はボーカロイド文化にどっぷり浸かっていたし、そこから輩出されたバンド・歌手についても同じくだった。上京したての僕にとってこのライブは、初めて生でインターネットを体験できるというとても貴重なものだった。絶対に100%楽しんでやる、という意気込みのもと、ヒトリエの過去のライブのセットリストを読み漁る。ワールズエンド・ダンスホール、ローリンガール、アンハッピーリフレイン、数々の名曲はセルフカバーされ、既にライブの定番曲になっていた。

「そこら辺も良いけど、せっかくだから裏表ラバーズも聴きたいね」と話す友人に、「過去一度もライブで演奏してないので無理だと思う」と返した。まあ息続かないよね、無理だよな、ミクにしか歌えないよな、と笑いながらヒトリエの出番を待った。

ライブはデビューシングルのセンスレス・ワンダーから始まった。ワールズエンド・ダンスホール、シャッタードールと続き、中MCに入る。初めてのヒトリエの感想としては、演奏技術が抜群に上手い。一気に魅了される。wowakaさんが歌うだけでこんなに違うんだ。あと、インターネットの曲をみんなで合唱するのってこんなに楽しいんだ。そんなことを考えながら汗を拭いていた。

中MCも終わり次の曲紹介になる。「初めてやる曲をやります、初めてなので知らないとは思いますが、万が一歌えたら歌って下さい」と言って、客が湧いて、ギターが「ピ、ピ、ポーン」と鳴って、裏表ラバーズが始まって、地下一階のライブハウスがはちゃめちゃに揺れた。僕の初めてのヒトリエは最高の体験になった。

その後、裏表ラバーズは二度と演奏されることなく、そして二度と観ることが出来なくなってしまった。


思えば似たような経験をした。


2009年8月28日、山中湖のほとり、SWEET LOVE SHOWER 2009。

大小2つのステージが設営されたフェス、その小の方の最前列でフジファブリックを観ていた。銀河、虹、Sugar!!。フェス用ということで完璧なセットリストだった。たくさん飛び跳ねたしたくさん大声で歌った。でも、僕が一番好きだった陽炎は歌ってくれなかった。

目当ての曲があるライブはいつもドキドキする。この次かな、最後かな、アンコールかな、やらないのかな。本当は頭空っぽで楽しむのが一番なのに、それを分かっているのに、どうしても頭の片隅で考えてしまう。

ライブが終わる。陽炎聴きたかったな、まあいいか、十分満足なセトリだろう、今度ワンマンに行って聴こう。そんなことを思っていたのに、半年後、志村正彦の陽炎は二度と観れなくなってしまった。



僕はあの日聴けた裏表ラバーズを一生誇りに思うし、あの日聴けなかった陽炎を一生後悔するんだろう。もうこれ以上誰一人死なないのが理想だけど、そうもいかないので、観たいものを観れる内に観ようと思います。

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