こどものころ

子供のころ
おばあちゃんの店(呉服屋)とその店のある商店街が「世界」だったな。
向かいのおもちゃ屋さん
並びの本屋さんとお好み焼き屋さん
突き当りのお茶屋さん
ちょっと奥にある公衆トイレ
子供ながらにも怪しいおみくじとか売っている店もあった。あれは何の店だったんだろう。
長い長いアーケード。実際には大したことなかったのだろうけど、
子供にしてみれば端まで行くのはちょっとした冒険だったな。
どのお店の中も大人ばっかり
駅に向かう人、駅から出てきた人
アーケードを行きかうのはやっぱり大人ばっかり
自分はほとんど店の奥の部屋で
本を読んだりテレビを見たりして過ごしてた。
小学校に入るまで自分の周りは大人ばっかりだった。

もう何十年も前にその商店街はなくなった。
駅前再開発とかで取り壊され、
いくつかの店は新しくできた地下商店街に移った。
おばあちゃんは取り壊しのタイミングで店を閉め
ほぼ同時に退職したおじいちゃんと新しい家に移った。
自分も一緒にその新しい家の住人になった。

今まで暮らしてきた駅前とはちがって、
新しい家の周りは田んぼが広がっていた。
大きな虫が飛び込んできたり、カエルが鳴いていたり。
まさに「田舎」だった。
そして、空があった。
日が暮れれば夜になった。
少し歩けば川があった。ドブ川じゃない川があった。

もう少し大人になって、新しい家の周りの「田舎」もまだまだ「都会の一部」だったとわかるのだが。

新しい家の周りはどこまでも住宅地と田んぼだった。
ところどころにスーパーが存在していたが、森はなかった。
どこまでも広がる灰色と緑色の大地。
思い出したように飛び出た煙突から雲が沸いていた。
良く晴れた日、地平線のかなたに「山」を見ることができた。
小学生だった自分は、まだその地の果てなる「山」に行ったことはなかった。
川は1日2回流れの向きを変えた。満潮になると今までと逆の方向に水が流れた。

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