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【考察】こどもの一生②

前回からの続きです


【みっちゃんに死んでほしいのは誰だ?】

①で述べたとおり、みっちゃんが昏睡状態から戻らないのは『そうあってほしい』と願う人がいるから、という説が有力である。

では、誰がみっちゃんの死を願っている可能性があるだろうか。

可能性を検討していこう。

・子供達

子どもたちは、無邪気であるゆえに『みっちゃんをいじめよう』という残虐な行為に至った。
しかし、エミちゃんは先生に対して『みっちゃんを助けて』と懇願しているのである。
つまり、彼らはみっちゃんに『生きてほしい』と思っているので、今回の候補からは除外される。

・先生と井手ちゃん

ここで1つ可能性が高いのが、先生と井手ちゃんである。

MMMクリニックは『投薬治療を行わずに病気を治す画期的な医療施設』である。

実際、治療の効果はありそうだ。
たとえば藤堂は山田のおじさんを前にして強迫観念にうちかっているし、淳子も快感につながらないスリルの恐ろしさを知ることとなっただろう。

彼らがもつ病気は、確かにこの島で改善される余地があったのだ。ひょっとしたら、きのこの幻覚作用でなんらかとトラウマを打破するような仕掛けもあるのかもしれない。
彼ら自身が集団の中にルールをしき、変化するように仕向けているのだ。

しかし、みっちゃんはほかの子供たちとは違う。

躁病に関しては完治が見込めるが、彼の本当の問題はそこではない。

みっちゃんは生来のサイコパスであり、そこに治る余地はないのだ。彼の場合は、病気ではなく備わった性質の問題なのだ。

つまり、先生と井手ちゃんは治らない問題を抱えた患者を受け入れてしまったのである。

勿論、単にみっちゃんの性格の悪さから受け入れられないという理由もあるだろう。
ただ、二人にとってみっちゃんが邪魔だったことは間違いない。
なによりクライアントが死にかけているのに、割と二人の対応はドライである。

また、この二人の怪しさに関してはまた別の角度から検討し後述する。

・柿沼

最有力候補は柿沼である。

なぜなら、柿沼だけが『みっちゃんを恨みうる人間で、最後まで生きていた人間』だからである。

たとえば人が死んだ時点でその意志が無効となるならば、そもそも死んだ先生と井手ちゃんにみっちゃんの死を願い続ける力はない。
だから、柿沼は必ずこの問題に関与しているのだ。

みっちゃんが死ぬ必然性?

みっちゃんの昏睡状態が解けないという結末は、繰り返していうが小説版にはない。
舞台のために新たに設定されたものであり、その結末変更のために、同じくなんらかの設定変更があるはずだ。

ちなみにこれも繰り返しになるかま、新たに付与された設定として、『柿沼二重人格設定』がある。

柿沼は『しのぶ』という気の弱いネガティブな人格と、『三郎(?名前忘れた、なんだっけ?)』というポジティブな性格をもっている。

しのぶは三友と過ごすストレスに耐えきれず、自分自身を守るために2つの人格をもっているのである。

そして、この舞台で山田のおじさんに打ち勝ったのは『しのぶ』ではない。

隠し潜めていたもう一つの人格が、山田のおじさんに打ち勝ったのだ。

では、しのぶはどこにいったのか?
しのぶは柿沼の中から消えたのか、それとも二人の人格は溶け合って同一の存在になったのか?溶け合ったというのが正解に近いかもしれない。
なにしろ、二人目の柿沼自身が、井手ちゃんに行った通りわ『足して2で割りたい』と願っていたからだ。

どちらにしろ、柿沼はストレスに打ち勝てる存在になったのだ。彼にはもう、三友に従い続けるだけの我慢強さはないだろう。


つまりいまここにいる柿沼は、『二人がとけあった新しい柿沼』なのである。

そして、三友にストレスを感じながら我慢をしていた柿沼しのぶは、柿沼の肉体において一方的な主導権を失った。

しかしどこかに、柿沼しのぶは『いる』のである。

しのぶの持っていた『逃げたい』という感情こそが、無意識下の『あったらいいな』の正体であり、山田のおじさんの本質である。

そして、しのぶはその願いを手放せていない。
なぜならみっちゃんは『変わることのないサイコパス』であり、しのぶは今後も暴力を受け続けるからである。

■MMMクリニックとは何なのか

ここで、一つ考えたいことがある。

なぜ子どもたちは、洞窟はまだしも灯台にいってはいけないのか、である。

洞窟が危ないことはわかっている。縦穴があり、実際じゅんちゃんが落ちかけているのだ。
でも、なぜ灯台にいっては行けないのだろうか。

過去に揉め事を起こしたというのは、本当なのか?
なんらかの伏線ではないだろうか?

・きのこを食べさせたい

ところで、マジックマッシュルームをてんこもり毎晩食事に出していた井手ちゃんは、果たして幻覚作用に気がついていなかったのだろうか?

エミが『きのこを食べたくない』といったとき、井手ちゃんは『いいのよ』といいながら、『食べられるだけ食べなさい』と言っている。

このことからもわかるように、井手ちゃんは子どもたちに『きのこを食べさせたい』のである。

マジックマッシュルームーーーより正確に言うとヒカゲシビレタケであったがーーーは2022年現在は法律で栽培、所持が禁止されている。
大麻取締法違反である。

つまり、違法薬物をつかった治療をしているのがMMMなのである。

先生と井手ちゃんは、『彼らの中で新しい憲法ができるのをみまもる』『介入しないのが治療』と言っている。

つまり、彼らにとっての正義は、違法な方法で患者の精神を開放し、彼らの中の退行した知能と清らかな心が出す正解を見届けることなのである。

そのために、理解した上で、違法なきのこを利用している。
おそらく彼らの中では、この取り組みは『人体実験』ではなく『治療』なのだ。
法をかいくぐった治療である。

10歳の子供に戻った患者には難しいことはわからない。でも、大人に戻った彼らには、そして、灯台にいる患者ではないまっとうな大人にはどうだろうか。

みっちゃんは『この医療施設のノウハウを盗む』ことを目的にしている。
みっちゃんが自分自身に起こったことを大人に戻って自覚したとき、そしてこれが事件化したとき、果たして彼らの『正義』はどうなるのだろうか?

密かに育てられているそのきのこたちを、どう二人は守るだろうか?

山田のおじさんがきたとき、『まだ仕事が残っているので』と、二人は食堂を抜けた。
そのとき、二人の間でどんな話がなされていたのだろうか?

きのこをどうやって隠すかを、話し合っていたのではないだろうか?

■わたしのたどり着いた結論

ということで、私の出した結論は下記の通りである。

・MMMは違法な方法で治療を行っており、善意のもとで治療として子どもたちを10歳に退行させている
・違法性がバレないように、またきのこの秘密がばれないように灯台と洞窟にはいってはいけないルールになっている
・島にはかつて兵士が生み出した『人の希望の形に変化する何か』が潜んでいた
・子供たちの『いたらいいな』によって『何か』は山田のおじさんになった。
・どんな治療をうけても、サイコパスであるみっちゃんだけはその凶暴性が治療されない
・医師と井手ちゃんの『世間にばれないためにもこのまま眠っていてほしい』という意識と柿沼の『三友の下にいたくない』という気持ちが、みっちゃんを眠らせている

というのが、一番スッキリ納得できた結論である
勿論、全然違う可能性は大いにある。

ーーしかし、『あったらいいな』という想像がもしも形をつくるなら、『この島』『医師』『患者』その全てが誰かにとっての、たとえば『三友から逃げたい柿沼の』想像の産物かもしれないなとおもうのである。


ひょっとしたらこの世界自体、柿沼の描いた『欲望』そのものなのかもしれない。


おわり

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