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信頼ってなんだろう(二郎系な夫)

私は夫と別居している。

夫の帰らない家で娘と2人で生活するようになり
娘が眠った後少し泣いたりもするが、基本的には波のない穏やかな日常を過ごしている、と思う。

勤務時間が不規則で、娘を寝かしつけている途中にガチャガチャと音を立てて帰ってくる人はいないし、部屋を散らかすのは娘だけ。
何度言っても不快な咀嚼音を立てる夫の椅子は、「ちゃんと戻して!」なんて言われる事なくダイニングテーブルに綺麗に収まっている。

私と夫の関係は完全に崩れ、
私は毎日毎日、クローゼットやタンスの中を覗いては「出来る予定だった第二子」の為に残していた長女の小さな服や使わなくなった抱っこ紐を処分している。もう絶対に、二度と、夫とセックスをする日は来ない。

夫と結婚して3年と少し、
娘が生まれて2年、
夫の不倫が発覚した。

話し合いの中での夫の様々な悲しい発言や、
発覚するまでの不審な行動、
色々と思い出しては苦しくなるが、
夫が不倫相手に熱を入れる前から私たちの信頼関係が崩れていた事に気付いたエピソードがある。

それは、にんにく。

夫は生にんにくを摂取するとその後24時間、体がえげつなく臭くなる。
「昨日にんにく食べました?」なんてものではない。夫のいる空間全てが、世界で最も酷い加齢臭を1年間にんにくと閉じ込めて寝かせたような香りになる。そしてそれは半日換気しても部屋から消えることはない。

匂い成分を分解する力がとても弱い体質なのだと思う。お付き合いを始めた頃から、二郎系ラーメンを食べた後の夫は死神だった。
その都度「ガチのマジで匂いがヤバイ」という事は伝えてきたが、本人は気付かないようで「にんにくだからなあ」と笑いながらマスクをつけていた。マスクの横からは薄汚れた黄色い吐息が漏れていた。

恋人同士の頃には「ガチのマジで匂いがヤバイ」としかいえなかったが、妻という立場を手にして2年ほど経った頃、生にんにくをたっぷりのせた二郎系ラーメンを食べて帰ってきた夫に対し「世界規模の悪臭で、数百メートル先まで死人が出るレベルなので生にんにくの摂取を控えるべき」だと伝えた。夫は笑っていた。

それからも二郎系ラーメンで生にんにくを摂取し帰宅する夫に、私はついに「いい加減にしろ」とブチ切れた。ブチ切れて、寝室から追い出した。だって寝室が世界規模の悪臭なのだ。

次の日、まだ日本国内が悪臭で重傷者数名の匂いを放つ夫がマスクをつけて帰宅した時、

「俺、にんにくやめるよ」

と申し訳なさそうに言った。
職場で「臭すぎる」とクレームを受けたのだそうだ。

「俺ずっと、ぱぴこさんは大袈裟だなと思ってた。そんなに臭いと思ってなかった。」と夫は言った。
夫にとって、ガチのマジで臭いからとブチ切れて寝室から追い出す妻の言葉より職場のクレームの方が信頼できたのだ。

夫はそれ以来、私が知っている限りでは二郎系ラーメンを食べていない。

この夫には、私がどれだけ必死に何かを訴えても伝わることはないのだと思う。
私が今、夫の不倫でどれほど心を病んでいるのか、
毎晩何度かある娘の夜泣きに1人きりで対応するのがどれほど大変なのか。
育児をしながら自宅で仕事をするにはどれほど時間があっても足りない事、
大人1人と幼児1人の食事はとても作りにくい事、
にんにくの匂いを嗅ぐと夫の私への信頼の無さを思い出す事。

ガチのマジでヤバイ夫には、伝わる日は来ないのだ。

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