本物

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 First Live “with You”の感想文です。




この間、友人宅のdアニメを利用して虹1stを観る機会があった。せっかくだし、見知った声優さんたちの若かりし姿でも拝むかという気で、本当にに軽い気持ちで見始めてしまった。

虹ヶ咲のソロ曲は、アニメに登場したもの以外はあまり聞いていなかった。優木せつ菜さんの曲だけは、虹ヶ咲にまともに触れる以前からSpotifyで聞いていたので例外で、それ以外の子たちの曲については殆ど何も知らないに等しい状態だ。
だから、1曲目のTOKIMEKI Runnersの後は基本的にずっと知らない曲が流れていて、申し訳ないけど大きく感動することはなかった。テレテレパシーは結構好きだったかも。相良茉優さんのダイヤモンドは見ていて楽しかったし、指出毬亜さんのダンスは当時からキレキレで素晴らしかった。でも、夏の5thライブで目にしたパフォーマンスを思えば、どうしてもキャストみんなの場馴れのしていなさが目についてしまう。まぁ2019年だものな。まだぼくは高校生だった時期だし、そういうものだろう。

そんな気分を一変させてくれたのは、久保田未夢さんだった。そういえば、冒頭の全体曲パートでも、一人だけ存在感が全然違ったのがこの人だ。あまり詳しくはないけど、久保田さんは当時既に声優アイドルユニットでの場数がそれなりにあって、大きな舞台で歌って踊る経験値ではメンバーの中で頭一つ抜けている状態だった、などと聞いている。とにかく、久保田未夢さんのパフォーマンスは一味違った。余裕のある表情で観客を煽って見せたかと思えば、艶のある朝香果林らしい歌声で圧倒して見せる。キメる所はしっかりキマっているのにどこか余裕を感じさせるダンスが、申し分なく朝香果林を体現していた。このライブを見て良かったと心から思えた。今度のDiverDivaのライブが楽しみだとか、そんなことすら考えていた。その時だった。

恐らく会場のビジョンに、そしてこちらでは画面に、優木せつ菜さんの姿が大写しになる。確かに優木せつ菜さんの歌唱順は最後だったが、なんでもヘッドライナーという制度によるものだったらしい。歓声の大きさが人気と期待の程を物語っているように思えた。

1曲目はCHASE!だった。何度も繰り返し聞いた、馴染みのある高音がスピーカーから溢れ出す。そうそうこれ。アニメで知ったソロ曲の中でも、最も好きな曲のひとつがこのCHASE!だ。ラブライブ!シリーズに親しみ始めたばかりの、まだメンバーの名前すら覚えられていなかった時期に初めて聞いて、その時すぐにSpotifyのお気に入りに登録した。アニメでは侑と歩夢の人生を大きく変えることになる、最高にカッコいい一曲。
楠木ともりが歌う。踊る。そういえば、5thライブの時の楠木ともりは、体の不調のせいで基本的に踊っていなかったんだった。そうか、楠木ともりの全力のライブパフォーマンスを見るのは、これが初めてだったのか。
楠木ともりのパフォーマンスは、というか優木せつ菜ちゃんのライブは、これぞソロアイドルのライブというべき、本当に完璧なものだった。聞き馴染んでいる音源から寸分も狂わない歌唱も、ステージをめいっぱい使って走り回る姿も、スタンドマイクを活かしたパフォーマンスも。全部が。
憑依型という言葉がふと脳裏を過ぎる。そうだった。このライブは、2019年に行われた、虹ヶ咲の1stライブ。今目の前にあるこれは。観客全員を虜にする、素晴らしく完成された、それでいて若々しい力が漲っている、そんなライブ。何を見せられているんだ。とっくに伝説となった国民的アイドルの若かりし頃の姿を拝見しているような、そんな気持ちだった。
これが、アイドル。こちらが見ようとしなくても、パフォーマンスの細部からキャラクターへのリスペクトを探したり、目を薄めてキャラクターと重ね合わせてみたりしなくても。否応なしに心を鷲掴みにされる、そんな存在。アイドルゲームのストーリーで何度も目にしたそんな言葉が、いや、そんな言葉なんて要らないくらい、目の前の優木せつ菜は、というか楠木ともりは、完璧なアイドルだった。

とんでもないものを見てしまった。こんなもの、もう一生忘れられないに決まっている。いつの間にかCHASE!が終わって、MELODYが流れている。サビの歌詞が存外かわいらしい曲だが、CHASE!の衝撃が大きすぎて、個人的にはそこまで印象が強くない。はずだった。
楠木ともりが歌う。会場が湧く。心が踊る。こんな時、人は何も考えられないんだ。最早何もできることはなくて、ただただ呆然としていた。漫画だったら口をあんぐり開いたままにしているか、魂が口から流れ出て空に飛んでいってしまうか、そんな気分だった。

体を縦にしていることもできない。横になる。
楠木ともりって、全然違うんだ。
こんなライブ、見たことがない。本当に。

パフォーマンスが終わって、久保田未夢さんと指出毬亜さんが出てきて。少し上気した顔ではにかみながら話す楠木ともりは、それなりによく知っている、年上のお姉さんたちに囲まれた19歳に戻っていた。

でも、今見てしまったライブは。ソロアイドルとして、あまりにも完成されていたステージは、いつまでも心の中で響いていて。

あの時の楠木ともりさんはあまりにも完璧な偶像だった。ということは、今抱いているこの感情は、崇拝とでも呼ぶべきものなのだろうか。

そんなことを考えながら、今もCHASE!を聞いている。

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