どうしても食べられないものについて


 今よりずっと幼くて体の小さいころ、私には食べられないものがたくさんあった。椎茸やピーマン、茄子と葱に秋刀魚や鶏のむね肉、メロン。両親からアレルギーがあるとは聞いていなかったから、おそらくそのどれもが私の「好き嫌い」だった。だけどその野菜や魚、鶏肉やメロンたちは私の舌にのせるとひどい不快感をもたらしたので、幼く素直な私は迷わず口から出すのだった。そのおよそ一〇年後の今、前述した食べものは大人の仲間入りをする前に好きになった。椎茸は風味が豊かで美味しいし、ピーマンは歯ごたえが好き。茄子はくたっとした身と味のバランスがよくて、葱は料理の大事なアクセント。秋刀魚は大根おろしをかけると最高だし、鶏のむね肉はとろけるチーズが合うね。メロンは瓜らしい食感だけどもったり甘いのがいい。

けれど、唯一まだ食べられないものがある。それは夏の友だち、スイカである。水分をたっぷり含んだしゃりしゃりの赤い身と、真っ黒なしずく型の種。砂糖水ほどのあっさりとした甘さは私の好みではないというよりも、どう感じたら美味しいと思えるのか誰かに尋ねたいぐらい。それでもこれまでに三回ほど口に運んだのだけれど、どの挑戦も惨敗に終わった(すでに私は大人になっていたので、吐き出すことはしなかったが)。スイカを無理に勧められたことは一度もないし、スイカが食べられないことで困ったことはない。これからも困ることはないだろう。けれど私は勝手だから少し寂しい。私はこれからもスイカをうまいと思うことはなく、スイカの美味しさを誰かと共有することもなく生きていくのだ。そう考えているとやはりスイカを食べられるようになりたい、と切実に思う。

しかし、まあ、結局は「みんなの食べている美味しいものを私も食べたい、ずるい」ということなのだが。


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