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アオイヤマダ/高村月 アオイツキ 「なにもの。」 赤と青 混沌とした時代に暗黙の了解を突き抜けた鮮やかなショーケース

Dance New Air 

スパイラルホール 2021/10/30  18:30

アオイツキ「なにもの。」レポート

赤と青 
混沌 暗黙の了解
ジェンダーを超える生の表現

暗闇

振り返る、暗い幼い自分の記憶。
うつくしいものへの憧れ。

これも愛、多分愛、、、、愛の水中花が華やかに、流れる中を、暗闇からアオイヤマダが現れる。真っ赤なドレスに大振りの帽子、さながらロシュフォールの恋人達のカトリーヌドゥヌーヴ、ヨーロッパのスタイルと、昭和歌謡の薫りが芳しく混じり合い、舞台に立ち込める。

続く、高村月は真っ青な衣装を纏い、踊るはドラァグクィーン、曲はフェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」のミュージカル版「ナイン」からBe Italian。狂おしいような生と性のエネルギー。パワフルだ。不思議と妖艶さを持ちながら、その若さ故なのか、良い意味で嫌らしくない。バレエダンサーのように無駄のないしなやかな身体は、その佇まいだけで絵になる。剥き出しの感情。客席に注がれる強く鋭い視線。

その後2人の息の合った、情感溢れるダンスから、一転、お悩み相談室へ。エンターテイメントから2人の掛け合いは、さながら漫談だ。コミカルでウィットに富んでいる。
アオイヤマダの声は明るさと、爽やかさ、クリーンな響き、高村月の声は、はんなりとした響きとイントネーションに力強さが漂う。中央に座る二人に、照らされるライトの光。赤と青がよく映える。後々のエンディングに繋がるが、色について。トイレのカラーリング、学校でのカラーリング、赤=女性、青=男性 そんな意識があるが、目の前にいる2人はとても美しい赤と青だ。そこには性別は特にない。女性的とも言えるし、男性的なのかもしれない。いや、どちらでもあってどちらでもない。アオイツキ、ツキと太陽、何事も全ては表裏一体だ。

ややコミカルなトーンで進むお悩み相談室は、生きる、というキーワードから、一転してシリアスな空気に転換する。

そこからとめどなく流れる、谷川俊太郎の「生きる」の詩。そこから流れ出すのは不可思議/wonderboy  生きる。この曲の存在を、今日教えていただいて知ったことだが、確かに10年前、目と耳にしていたはずの不可思議/wonderboy。不慮の事故で亡くなられてから10年。だそうだ。

10年経って、わたしは出会ったこともまた、生きているということ。

肉体は無くても音楽は残る。そんなメッセージをアオイツキの2人は選び抜いたのだろうか。

楽曲に乗せて、繰り出される詩の世界と2人の歌。纏う衣装を脱ぎ捨て、いわゆる肌色の、ファンデーション一つになる。

原色のない、肌の色ひとつ。

あなた、わたし、おとこ、おんな、それ以外のなにか。裸はなにも纏わないから、うつくしい。赤も青も美しいと思った気持ちも本当だが、ありのままで立っている2人は本当にうつくしい。

抱き寄せ合う2人、不思議とセクシャルなイメージではなく、とても清らかだ。
爽やかな風を感じる2人のこころの通い合い。

あるがままの姿の2人はポップなユニットしたダンスを表現する。ありのままの自分、裸の自分。裸足。アメリカンユートピアのデイヴィッドバーンも裸足だった。
床からはしなやかな足のタッチが伝わってくる。ヒールを脱ぎ捨てることも、きっとこの時代には必要なことなのだろう。そんなことを思う。

エアラインなどの乗り物の設定。到着、大きな帽子を入れ替えて被るふたり。
着いたー、何気ない会話に、到着のロビーが見える。行き交う人、その中に立ち止まるふたり。


ここで、裸に、大きなつばの帽子、赤は高村月に、青はアオイヤマダに当初と入れ替わってかぶる。
入れ替わる色の象徴。それは、固定概念として色付けられた、赤と青の交換であり、多様性の象徴のように映る。
暗黙の了解、裏と表、右左。

気づけば立ち位置も変わっている。

赤い高村月、青いアオイヤマダ。
左に赤い月で、右が青いアオイ。

赤いきつねと緑のたぬき。
緑のきつねと赤いたぬき、じゃだめなんだろうか。そんなことが頭をよぎる。

目の前は、最高の絵だ。とっても良いねと、こころが揺れる。

次の瞬間、後方の右手の扉と、左手の扉にネオンライトが灯った。
右は赤、左は青だ。

クライマックス

青の帽子をかぶって、赤のネオンへ駆け抜けたアオイヤマダ、続いて青のネオンへ駆け抜ける高村月。

立ち止まる高村月。

振り返って放ったことばは、


「あなたは男ですか、女ですか、それとも別のものですか」


静寂。


鮮やかに振り返り、猛烈なスピードで青のネオンへ吸い込まれてゆく。


あまりにも生々しく劇的に幕が降りる。
わたしはなにものなんだろう。
わからない。
男性、女性、それとも別のもの。

後に高村月の14歳の作文の一行目だったと知る。タイムリープがあったら、その14歳の彼を訳もなくしっかり抱きしめたい。あなたはあなたでいい

あなた、わたし、この世界にある唯一の個性。

20代の2人がありのままで問う現代の混沌。暗黙の世界と了解。
カーテンコール、充実した晴れやかな笑顔。アオイツキの2人には笑顔が似合う。
ひとのこころを柔らかくする。

こんな素敵なアオイツキが頑張る今日、そして、明日は希望しかないなと、軽やかな足取りで螺旋階段を駆け下りた。
生きる、、いま生きているということ、それはミニスカート、、と口ずさみながら。

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