アニメゲームオタク視線で紐解く、萌えスロの歴史
昭和生まれの古いギャンブラー、それもスロット打ちはスロットがここまで「萌え」だらけになる未来は想像してなかっただろう。
ギャンブルを毛嫌いするオタクは多い。
素行のよろしくないお兄さんやおっさん、あるいはじいさんばあさんが、煙草の煙に撒かれながら金を無駄に撒き散らす。
暴力を連想させるようなトラブルも多そうだ。
そういうイメージを抱き続けている人もいるだろう。
実際、昭和から平成初期のスロット屋(パチンコ屋)はそのイメージと大きく離れていなかった。
だが、平成後期~令和の実情を知る人は思う。
いや、パチスロなんて右も左も萌えだらけっすよ。
萌え系オタクコンテンツとしてはトップクラスの充実度なんじゃないすか。
いつ、どこから「変わった」のだろうか。
パチスロと「萌え台」の歴史を紐解いてみたいと思う。
○3号機以前のスロットと萌え
パチスロの歴史は「○号機」というカウントがわかりやすい。
ざっくりとまとめてしまうと、
1899年 アメリカでスロットマシーン誕生
1930~1940年代 パチンコが誕生し、パチンコ店が登場
1950年代 米統治下の沖縄でスロットマシーン稼動
1957年前後 国産スロット誕生
1964年 オリンピアという企業が作ったマシンが営業認可。オリンピアマシンと呼ばれる
1977年 アップライト筐体と呼ばれるマシンが登場
1980年 「パチスロ」の元祖とされる箱型筐体が登場
1985年~ 「回胴式遊技機」として法制定。1号機時代
1988年~ 仕様・ルール変更による2号機時代
1990年~ 3号機時代
※参照 パチスロ業界初まとめ
http://slothistory.com/index.html
という流れとなる。この時代のイメージは「カジノのスロット」だ。
ドラクエなどのゲームでも御馴染みのアレである。
パチスロ台そのものを指して「筐体」と呼び、リールとボタンの上下に広がる横長の部分を俗に「上パネル・下パネル」と呼ぶ。パネルは台の看板であり、ビジュアルイメージが集約された、その機種の顔だ。
3号機までのパネルは実にクラシックかつシンプルだ。
社会的にも「萌え」という概念も生まれていない時代、それでも無理やり「萌え」を求めるのであれば、ここらへんだろうか。
・バニーガール(オリンピア)
一般的かつ普遍的なカジノの象徴のようなビジュアルデザインだ。
当時、このパネルを愛でるためにスロットを打つという層がどこまでいたかは難しいところだが、ギャンブルとセックスアピールは本質的な相性が良く、そういった表現に特化したパネルデザインは自然と増えていくことになる。
○パネルデザイン文化の黄金期・4号機
諸説あるが「パチスロが最も輝いていた黄金期」ともされる4号機時代(1992年~)になると、日本のアニメカルチャーの盛り上がりと連動したようなポップかつキュートなキャラクターデザインを採用したパネルデザインが登場しはじめてくる。
特に、95年あたりからその傾向が際立ち出す。
・クランキーコンドル(ユニバーサル)
・スーパーモグモグ2(エレコ)
・ピンクパンサー(山佐)
・ゲッターマウス(エレコ)
基本的にはオリジナルデザインの中、ピンクパンサーはいわゆる「版権もの」だ。スロット業界においても、「有名版権キャラクターとタイアップした台」が登場しはじめた時代でもあった。
そんな流れの中、メーカーが「萌えという概念を認識し、そういうマーケット層を狙ってデザインしたわけではない」が、だがしかし、振り返って見てみればその道へとつながっていくはじまりなのではないか? そんな風に思わせるパネルデザインが登場してくる。
・プチマーメイド(北電子)
・フィフティーズ(サミー)
・ハッピーチャンスA(尚球社)
・温泉天国(テクノコーシン)
とはいえ、まだまだ良い意味で素朴であり、悪い意味でやぼったい。
しかしながら徐々に、令和の萌えオタクの視線からでも「おっ」となるデザインが出てくる。
・マジカルポップス(山佐)
登場は99年。
初代プレイステーションが天下をとり、FF8などが発売されていたこの年、スロット界はPCエンジン~SFCあたりのシューティングゲームパッケージにありそうなデザインをパチンコ屋に降臨させていた。
~豊かになるスロットのゲーム性と、パネルの枠を超えた萌えデザイン~
4号機時代はパチスロ進化の時代とも呼ばれ、ドット表現が可能な液晶搭載機が登場すると、ゲーム性(コインの増減に直結する要素)としての「演出」が花開く。その中で女性キャラクターなどを使って「熱さを煽る」手法も使われはじめる。
・アラジンA(サミー)
・レンキン(サミー)
・ディスクアップ(サミー)
このキャラが出れば熱い。このキャラに会いたい。
そういう動機をパチスロの勝ち負けと連動させる現象は、パチスロの「萌え化」に向けての重要なトリガーとなっていく。
また、ギャルズマジック(サミー)という台は、機種名とパネルデザインからして「狙って作られた」台だろう。
さらに進化するパチスロ台の液晶は、TV画面並みとはいかぬものの、一昔前の携帯ゲーム機並みの映像演出が可能となる。それにあわせて、往年の名作アニメとのタイアップした台も見られるようになってきた。
・ゲゲゲの鬼太郎(サミー)
・ルパン三世(平和)
・キャッツアイ(サミー)
サミーというメーカー名が目立つ。今はセガサミーと聞けば「ああ」となるゲームオタクも多いだろう。サミーはかなり早い段階から、ビジュアルやキャラクターイメージで推すスロビジネスへの嗅覚が強いメーカーだった。そんなサミーもだが独り勝ち独走とはいかず、次々と強力なライバルたちが登場しはじめる。
~大都という業界の風雲児~
マニアックなファンのつくメーカーとしてこつこつと実績を積んでいた、大都(大都技研)というメーカーがある。
シェイクという台はポップなデザインと過激なゲーム性で、一定の評価を得ていたが、そこそこ、中堅、知る人ぞ知るといった冠がつきやすい存在だった。この大都が、業界を震撼させる台を生み出す。
吉宗。2003年に登場したこの台は社会現象を巻き起こした。
パチスロとしての過激すぎるゲーム性で人気が出ただけでなく、姫BIGと呼ばれる「姫がダンスミュージックを踊りながら歌う演出」が、大きな話題をとなる。その結果、はっきりと「姫萌え」というべき現象が発生し、ギャンブラーの枠を超えたムーブメントとなった。
また「爺」というキャラクターが同じぐらい、もしかしたらそれ以上に人気となり、「爺萌え」まで発生していた。
爺はさておき、この姫は「メーカーが狙って送り出した刺客」だったのか、青天の霹靂だったのか。
いずれにせよ。パチスロ業界において「萌え」という概念が、メーカーによる商戦上の武器のひとつになり出しつつあった。
この大都路線は2005年に登場した「押忍!番長」でひとつの完成を迎える。
~ネット×テクモの衝撃~
パチスロの誕生にはあのセガ(の前身)が関わっていたりなど、ゲーム業界との縁はなかなかに深い。まあセガはまた別の話として、パチスロ業界を革命した企業の筆頭をあげるならテクモだろう。
ネットというメーカーが存在する。
変態的かつマニアックな新仕様に意欲的なメーカーとして、マニア評価の高い企業だったが、液晶演出黄金期の流れの中、テクモと組むことで化ける。
いくつかのパチンコ台や「賞金首」というスロット台などで人気を定着させながら、業界をひっくり返す台をリリースした。
通称Rioシリーズのはじまりとなる、スーパーブラックジャック。2003年登場のこの台は、吉宗の姫萌えとはまた異なる方面での社会現象を引き起こした。
カルチャー誌やビジネス誌といった一般業界が注目し、「ギャンブル業界とRioというキャラクターにおける金と萌え」といった記事を特集しだしたのだ。
※画像なしで恐縮ですが、当時そういう雑誌を実際講読してました
Rioというキャラクターは、スロ業界が萌え化している──。その事を業界外にまで発信させるイメージガール。そういう存在となった。
~群雄割拠の萌えスロ戦国時代~
オリジナルキャラクター萌えの二大巨頭として大都・ネットが覇権を争う中、数多の古参・新興メーカーが萌えスロ戦線に本格参入しはじめる。中でも、業界において帝国とまで呼ばれていたアルゼグループや、ルパンなどで早い段階から版権タイアップに手を出し、パチンコ側でキャラクター商法確立に成功していた平和などが気を吐いていた。
・爆釣(メーシー)
・スペースバニー(オリンピア)
・ファイヤードリフト(サミー)
・麻雀物語(平和)
・十字架(ネット)
また、液晶全盛期にパネルデザイン萌えで勝負するストロングスタイルな台まで復活しはじめ、パチンコ屋を覗けば何かしらの萌えが拝めるのが当たり前になっていた。
・ドラゴンクロス(岡崎産業)
・CRすーぱー福の神(山佐)
そんな中、長く続いた4号機時代がついに終わり、5号機時代へと遷移する。そして5号機のはじまりは、「パチスロの萌え化」の本当のはじまりであり、決定打となるべき萌え化ダメ押しの最後の使者が投入される合図でもあった。
○スロット=アニメ&ゲームタイアップ時代の幕開け・5号機
2005年。5号機も最初期、実質的には初の5号機スロとして登場した「新世紀エヴァンゲリオン」は、萌えスロ世界に大きなインパクトを与えた。
4号機初期のピンクパンサーを皮切りに、スロット業界でもタイアップはそれなりに存在した。4号機時代を通して、
・ゲゲゲの鬼太郎(サミー)
・ルパン三世(平和)
・エイトマン(タイヨー)
・玉緒でポン!(サミー)
・しむけん(ダイドー)
・ガメラ(サミー)
・キャッツアイ(サミー)
・ゴルゴ13(平和)
・サラリーマン金太郎(ロデオ)
・K-1レバンナR(エレコ)
・ハクション大魔王S(サミー)
・マリリン(IGT)
・ベティ・ブープ(サミー)
・釣りキチ三平(サミー)
・マッハゴーゴーゴー(アリストクラート)
・ビーストサップ(エレコ)
・ガンダム(ラスター)
・ドロンジョにおまかせ(平和)
・おさるの超悟空(エレコ)
・安西ひろこの黄金の秘宝(ミズホ)
・シンドバッドアドベンチャーは榎本加奈子でどうですか(エレコ)
・梅松ダイナマイトウェーブ(ロデオ)
・お見事!サブちゃん(オリンピア)
・ガッツだ!!森の石松(エレコ)
・闘神雷電花田勝(エレコ)
・ヒデキに夢中!!(オリンピア)
ざっとあげるだけでもこれぐらいのタイアップ機が登場している。
が、これらはよくよく見ていると、そのほとんどが「往年の名作アニメまたは芸能人・有名人」とのタイアップだ。
パチンコ・スロット業界におけるタイアップとはそういうものだった。
これがエヴァと共にはじまった5号機時代になって、比較的新しいアニメ・ゲームとのタイアップ機が急増する。
・新世紀エヴァンゲリオン(ビスティ)
・サクラ大戦(エレコ)
・クラッシュバンディクー(サミー)
・ボンバーマンビクトリー(サミー)
・ザ・キング・オブ・ファイターズ(SNKプレイモア)
・ランブルローズ(KPE)
・パチスロ鉄拳伝タフ(オーイズミネオ)
・GTO(ビスティ)
・機動警察パトレイバー(アビリット)
・デビルメイクライ(ロデオ)
ゲームメーカーが子会社などを作り、続々とスロ業界への参戦を開始したという事情もある。
従来の概念のタイアップも「竹中直人のパチスロ太閤記」「TIMという名のパチスロ機」など継続してはいるが、「新しめのアニメ・ゲーム系とのタイアップ機」こそが業界主流と成っていた。
~パチスロ発オリジナルコンテンツも止まらない~
4号機時代に大都・ネットが生み出したパチスロオリジナル萌えの流れもまた、5号機時代にしっかりと継承されていた。
・快盗天使ツインエンジェル(トリビー)
・マジカルハロウィン(KPE)
・もえろ!ハーレムエース(ネット)
・スカイラブ(SNKプレイモア)
・シスタークエスト(SNKプレイモア)
中でも「ツインエンジェル」「マジカルハロウィン」は5号機萌えスロの顔として、長く時代を引っ張っていく事になる。この時代の特徴は、これらオリジナルコンテンツがIPとして定着し、パチスロ台としてはナンバリングシリーズ化、定着した認知度を背景に歌やグッズ展開と、業界外(特にギャンブルに無関心だったオタク層)への発信力の強化があげられる。
源流である吉宗・番長、あるいはRioシリーズは、それでもギャンブラー以外に対して「認知はしてもそれで打ちにいくほどではない」止まりなところはあった。それが、この時代には特定の萌えスロを打つためにパチ屋デビューするオタクが増加していた。
しょうもない自分語りになるが、筆者もツインエンジェルを打つためだけにはじめてパチ屋に来ました!という見知らぬ他人の目押しをしてあげたことがある。
~その後の萌えスロ~
スロ業界に影響を与えた萌えスロという意味では、この後も大小さまざまな役割を果たす機種が登場する。
技術介入要素のご褒美に萌え絵表示というギミックを仕込んだ
・ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて(JPS)
オールスターコラボあるいはスターシステムを導入した
・ドリスタ ~ミントのヒロイン救出大作戦(ネット)
スロとアニメを別進行で同時に作るマルティメディアプロジェクトで生まれた
・絶対衝激~プラトニックハート~(アリストクラート)
女のケツを叩くほどコインも増えるという狂気の果てまでたどり着いてしまった
・シンデレラブレイド(ネット)
超有名アニメ制作会社&クリエーターにスロオリジナルコンテンツを制作依頼した
・まじかるすいーと プリズムナナ(DAXEL)
普通の台だった過去名作を萌えリメイクするという衝撃を実現させた
・モエるまりんバトる(エレコ)
引き込まれる本格SFストーリーアニメを未完結でぶちこんで、スロよりアニメの続きは!?と言わせた
・2027(JPS)
枚挙に暇がないが、基本的にパチスロの萌え化の流れは5号機初期~中期で完了しており、オリジナル主体→タイアップ主体への変遷はあるものの、この形が6号機時代となった2020年まで続いている。
5号機末期から6号機立ち上がりを盛り上げた萌え台をいくつか挙げておくならば、
・魔法少女まどか☆マギカシリーズ(メーシー)
・バジリスク甲賀忍法帖シリーズ(ミズホ)
・Re:ゼロから始める異世界生活(大都)
あたりだろうか。
すっかり斜陽産業と言われるパチスロ業界、この先に萌えスロの大きな変化、革命はあるのか。
ギャンブル、特にパチンコ・スロットを嫌うオタクは多い。
うさんくさく、ろくでもなく、民度が低く、依存症で、金の亡者で、生活破綻者。
イメージはつきまとう。そしてその全てが的外れでもない。
だが、もうずっと長い事、アニメ・ゲームオタクにとって、きってもきれない重要コンテンツの場でもあるのだ。
スロット(とパチンコの)萌えの未来は、さてどうなるか。
○補足。沖スロという系譜
沖スロという言葉がある。沖縄発祥のスロットは長らく、本土のスロと仕様が違うという特徴があり、それによって生まれた言葉だ。
今は概念が独立して、沖縄とは無関係になっていたりもするのだが、詳しい解説はまあしないとして、沖スロの特徴のひとつに「南国をイメージさせる風景の中の存在する少女あるいは美女」というのがある。
この沖スロ美少女(美女)文化は、スロの萌え化の歴史において果たした役割は大きい。スロット全体が萌え化していく流れの中で、沖スロ美女たちも加速的に萌え化していったが、「パネルに描かれた絵を愛でる」というパネル萌えの源流は沖スロにこそあると言えるかもしれない。
・シオサイ(パイオニア)
・ニューシオサイ(パイオニア)
・島娘(オリンピア)
・島唄(オリンピア)
・南国育ち(オリンピア)
・キュインぱちすろ南国育ち 1st vacation(オリンピア)
・沖ドキ!(アクロス)
・超AT 美ら沖(七匠)
※編集上、時系列を崩して機種紹介している部分があります
※ネットで収集した画像を使用しています
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