「選択しない」という選択

Pixivのファンボックスというサービスがある。イラストレーターへ月額500円払うというサービスである。ファンクラブのようなもので、イラストレーターがお礼としてスポンサーだけが閲覧できる絵を描いたりする仕組みだ。イラストレーター以外にも、たとえば昨年まで流行っていたVTuberの多くもファンボックスを活用している。

月額はイラストレーターが自由に設定できるのだが、だいたい平均すると500円くらいが多いように思える。月額500円といえばコーヒーを我慢する、外食を控えるなどすれば生活に響かない範囲でやりくりできる額だ。しかし、それは1人だけサポートする場合の話だ。大抵の場合は好きな人を何人かサポートする。

月額500円が複数人かさんでくるとさすがに生活に響き始める。おそらく、生活に負担をかけずに支援できる限界は5000円、10名くらいだろう。つまり、「好き」を取捨選択しなければならないのだ。昨今は選択の自由があまりに増えすぎていて全部選びたくなってしまう。そこであえて好きを取捨選択する考えはこれから大事になると思う。

これは何も有料コンテンツに限った話ではない。サブスクリプションブームの渦中においては尚更「選択しない」ことは難しくなる。観放題、聴き放題となればとにかく消費したくなるのが人間の性だ。ただし、サブスクリプションに慣れてしまうときっと「好き」を形成することが難しくなる。

おそらく20代の誰しもが子供の頃に全巻そろえた漫画があるはずだ。そして、おそらく何度も何度も読み返したのではないだろうか。僕の場合はドラゴンボールがそれに当たる。本当に何度も読み直したし、ストーリーも事細かに覚えている。

これは当時は持っている漫画を読み直すしかできなかったからである。「選択できなかった」のだ。だからこそ同じコンテンツを何度も読み返した。サブスクリプションサービスではこういったことは起こりづらい。一度観たものを観るよりは他のものを観たくなるからだ。最近の僕はあえて同じ作品を何度も見返したり読んだりしている。一度観たはずが案外覚えていなくてビックリする。

サブスクリプションによって好きが分散しやすくなってしまった昨今、あえて好きを絞るのもいいのではないだろうか。

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