2021年春④ 抗がん剤入院
実家で家族で食卓を囲んだ。いつもと変わらない風景けれど、いつもと違うのは父が膵臓癌を患いまもなく入院するということ。笑顔でいながらもひとつひとつ記憶に残そうと頭が働いていた。写真も割と撮った気がする。
父の抗がん剤入院の前日。父はまだ家の1階の部屋で英語の個人指導をしていた。父のレッスンの邪魔にならないよう赤ちゃんと2階の寝室でごろごろしていた。赤ちゃんに「じぃじは入院前日まで任務(仕事)をするんだよ。すごいね」と話しかけながら。
夜は、大きなトランクに入院グッズをみんなで荷造りした。
願っても止まらない時間。夜、母と同じ部屋で寝た。おやすみ~と言い合って電気が暗くなってもなんとなく寝られなかった。ふと、お母さんが「パパ、今回入院したら戻ってこない気がする」といった。その言葉に、詰まっていた涙が溢れだした。縁起でもないと、あまり頭にも会話にも出さなかったことだったけれど、このままだと1か月、抗がん剤で6か月と言われたのを思い出したからだ。「大丈夫だよ。まずは一週間入院で、それから抗がん剤通院で、良くなるんだよ。」と震えながら言った。泣きながら朝を迎えた。
朝は父の好きなアジの開きやお味噌汁をすすりながら、「癌に打ち勝つぞ」と言い合った。膵臓癌4b、手ごわいかもしれないけれど、父なら何とか乗り越えられるだろう、思いを込めて。
病院へ入っていく父は、病人どころか「お見舞いに来た人」のように見えた。父の背中を見届けて、私は赤ちゃんと関東に戻る準備をしていた。上りの新幹線、指定席人がガラガラ。これじゃJRも大変だと思いながら東京についた。「帰ってきちゃった。。。」
東京駅から別の電車に乗り換えた際、涙が滝のように流れた。乗り物酔いも重なり、体中が熱くなり抱っこ紐で赤ちゃんを抱いていられなかった。抱っこ紐をはずし、赤ちゃんを直抱きした。駅に降りたとたん、ホームに座り込んでしまった。時間をかけてなんとか家についた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?