ダージリン・シッキムの山旅⑦          ~緑濃い 美しき道 避暑地まで~

 ダージリンの天候がさえないのでトレッキングを後回しにし、9月14日からカリンポンとシッキムに足をのばすことにした。

  ダージリンは前日から雨模様。長いひさしがトタンぶきのホテル・ベルビューは、夜半の激しい雨にすごい音を立てていた。木造りの落ち着いたロビー兼食堂で朝食をしている間に、タシデレおじさんが心配してジープのオフィスに電話を入れ、 席を予約してくれる。一人30Rsx5、150Rsで行かれる。

 実は前夜、ホテル近くでタクシーをあたってみた。しかし、 700Rs といわれて予約はしておかなかった。バグドグラ空港からダージリンまでが2時間半(ホテル探しを含む)で400Rs だったから、同じようなボリュームで700Rs はボラれそうな気がしたのだ。

 荷物の半分くらいをホテルに預けて、しばらくの間おじさんたちとお別れ。幸いに雨のあがったつづら折れの道を、ジープ・スタンドヘと下りて行く。

 ダージリンは坂の町なので広々としたスペースがない。ジープ・スタンドはバスやタクシーの発着所でもあり、広場でもあり、バザールヘの人口でもある。

 私たちがそこへ着いた時には、カリンポンヘのジープは出発したばかりだった。次の便まで1時間程待たなくてはならない(遅れても予約は生きているようだ)。

 小さな待合い室は満員で、子供3人だけ何とか腰を下ろす。大人は外で待つのだが、そこはクラクションがけたたましく鳴りひびく車の大洪水。そのあい間をぬって、水たまりだらけの道を大勢の人が行き交う。

 雨量の多いダージリンは建物が苔むしていてぬるぬる、びしょびしょしている。その上、待合い所のすぐ裏の建物は屠殺場なのだ。羊や山羊ばかりなのだが、殺されるのは赤い印をつけられてひとまとめにつながれている。どうやって殺すのかは分からないし、悲しい叫びは聞こえてこないが、解体作業が延々と続き、そのにおいがたまらない。

 やっとのことでジープがやって来て、荷物もろとも乗り込む。前列はドライバーの他に3人、中列は私たちで、後ろは向き合わせで5~6人。足と足の間には荷物を重ねる。荷物の量だけでもかなりのもんだ。

 ドライバーもまっすぐ座って両手でハンドルという訳にはいかず、斜めに構えて座る。さらにギアーは隣の乗客の股のあいだからのびている。坂道のためドライバーの手がしょっちゅうそこへのびるのはなんとも奇妙な感じだが、気にしているのはこちらだけ。

 思ったより乗心地の良いジープは、どんどん下って行く。ビュンビュン風は肌寒く、ヤッケをとり出す。茶畑を走りぬけ、風が暖かくなってくるとバナナの木が目立つようになって、下りきった小さなバザールがチェック・ポスト。ダージリンで取得しておいたパーミットとパスポートのチェック。のんびりしていて、厳しさは感じられない。

 日本の南アルプスヘのアプローチのような風景が続く。上り・下り・ゆれが激しいので、後列のインド人の母子たちはゲーゲーとやっている。こういう道での横座りはきついのだ。

 チェック・ポストからはまた上りが続く。緑美しい気持ち良い風景の連続で、3時間程のジープの旅が終わるころ、小高い丘のむこうにそれらしき町が見えてくる。ダージリンと同じイギリス人の避暑地、カリンポン(西ベンガル州に属している)だ。ここはダージリンよりも 1000m 低いので、暑ささえ感じる。

 車から降りると、さっそく 2~3人の客引きお兄さんたちがやって来た。ホテルの紹介だが、断るとしつこく付きまとってもこない。あらためて宿探しをしなくてはならないが、その前に腹ごしらえとトイレ探しがある。お父さんと子供2人はどこでも良い。けれども、私と8歳の姪っ子にとってトイレ
は確保しておかなければ、食事ものどを通らなくなるのだ。

 すぐ近くの、階上がホテルになったこぎたない食堂に入る。どの食堂でもチョウメンやヌードルスープがあるのが子連れには嬉しい。でも、はえがプンプン飛び回り、拭いたことの無さそうなケチャップやしょうゆのびんにたむろしている。

 まず手と顔を洗いたいが、かっこうだけの蛇口から水は出てこない。水差し一杯の水をもらい、みんなで洗う。女性用トイレは洋風便器だが、便座が
ない。それに目玉のでっかい大ゴキプリが一匹浮かんでいる。“どうやってするんだ!”。

 しかたない、泊まる気などない階上のホテルの部屋を見せてもらう振りをし、トイレを使う(店の人には他のホテルも案内してもらったり、なんやかやとお世話になったのにこんな表現でごめんなさい)。

 ツーリスト・バンガローがあるというので、行ってみる。大きなザックを背負い、子供の手を引いて歩いていると汗ばんでくる。町からちょっと出たところのそこはあいにくと部屋がなく、いただいたホテルリストをたよりに 2軒目をたずねる。

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