【ネタバレ無し】十三機兵防衛圏 ゲーム感想
2020年初以降、「ペルソナ5ロイヤル」から「ペルソナ5スクランブル(P5S)」とアトラスゲームにどっぷりとなり、特にP5Sの中々の出来の良さに「アトラスは他社との協働開発も上手だな(でもダンスはもう禁止。。)」とかなんとか思いながら次のゲーム探ししていた時に、たまたま目に入ってきたのがアトラス×ヴァニラウェア制作の本タイトル。
ヴァニラウェアのソフトは、これまでオーディンスフィアレイヴスラシルをプレイしたくらいで、作品に対して特に思い入れを持つほどではなかった。しかし今、気付けば僕は寸暇を惜しんで十三機兵をクリアし、本作に関するゲーム誌のインタビューを片っ端から読み、神谷盛治社長のクリエイターとしての圧倒的な情熱と突き抜け方に心を囚われてしまっている。ほぼ、恋。お陰でクリアしてからもこの作品の世界観からなかなか抜け出せず、「明日ダイモス来て弊社ぶっ壊してくれねーかなぁ」的な妄想が日々捗ってしょうがない。今でも残業続きの深夜0時頃に、ふと主人公達が大切なものを守るためにロボットに乗り込むシーンを思い出して心のテンションを高めたり、プレッシャーがかかる局面ではツッパリ系キャラクターの肝の据わった姿を思い浮かべてメンタルコントロールしたりしている。
この文章は、作品に惚れてしまってどうにも心の収まりがつかない時に書き散らかすメモを少し整えてみたもので、公開しているのは「同じ趣味を持つ人が周りにいないので気持ちの昂りを完全に持て余している」「可能な限り沢山の人に薦めたい」というオタク気質が爆発した結果だ。好きなポイントを網羅しようとすると一生完成しないので、書きたいものから書いていく。
どんなゲームか?
十三機兵防衛圏は3つの分割されたゲームパートで構成されており、物語の進行を担う2Dアドベンチャーパートと、怪獣とロボットの戦いを表現するタワーディフェンス型ゲームパート(リアルタイム進行で、動く敵から拠点を防衛する系ゲーム)、作中の設定等をまとめるアーカイブパートを自由に選択しつつ進めていくゲームだ。ストーリーパートでは主人公キャラクター13人の「ロボットに乗って最終戦を戦うまで」のストーリーがそれぞれ展開され、他プレイヤーのストーリーの進行度合いやタワーディフェンスゲームの進行具合で新しいシナリオが解放されていく形式になっている。一つ一つの話が5-10分程度の短い区切りで進んでいくため、多忙な方々でも隙間時間を見つけて少しだけ進める、といったことができるゲームだ(ただし、大抵は先が気になって、つい続けてしまう)。
なにが素晴らしいのか?
圧倒的なお約束力。全編に亘って、古典SF・漫画・映画のオマージュがこれでもかというぐらいに取り入れられており、知っている人ならすぐにピンとくるお約束的展開がある。そうした演出がプレイヤーに一種の安心感を与えてくれつつも飽きがこないのは、2D水彩画調というこれまで目にしたことがないグラフィックを通じて見ているからかもしれない。また、特に昨今、オマージュが行きすぎてしまう作品が増えているなか、この作品のバランス感覚は見事だと思う。(神谷社長と那須きのこ氏との対談でも「さじ加減を間違えるとパロディになってしまう」とコメントしており、調整には相当気を使った様子が伺える)
しかし、お約束力が高いからと言って安易に先の展開が推測できるような話にはなっていない。アドベンチャーパートのストーリー構成は非常に細密に練られており、各主人公の目線からはそれぞれに断片的な情報しか開示されない。複数の主人公のストーリーを進める中で、徐々に作品の全体像が滲み出てくるワクワク感は、このゲームの醍醐味だ。また、合間合間のお約束的展開が、メインストーリーの緊張感を和らげる「清涼剤」の役割も果たしており、結果的にメインストーリーに対する興味を上手く持続させてくれる。ここまで含めて構成されたストーリーは見事というほかないし、どれだけの時間をこの調整に使ったのかはちょっと想像ができない。
グラフィックの力。前記した2D水彩画調のグラフィックはヴァニラソフトウェアの大きな強みだが、今回の1985年の日本の描写は本当に素晴らしい。実際見たことはないのに懐かしさを感じる学校風景、街並み、人の雰囲気。ここには「ALWAYS 3丁目の夕日」など過去多くの作品が表現しようとした「昔どこかにあったであろう、『今よりも良かったんじゃないかと思わせてくれる昭和』」が溢れている。特に夕暮れの光の表現が素晴らしい。本当に眩しさを感じさせる描写からは、何かその中で営まれる人々の暮らしにある種の神々しさを覚え、「戦って守らなければならないもの」に感じられる。その感覚が各主人公が怪獣と戦う理由に説得力を与え、キャラクターの存在感を補強してくれている。「懐かしさ」と「リアルな説得力」がこのレベルに至れば、ALWAYSを気持ちいいほどボコスカにしてたライムスター宇多丸氏もきっと褒めてくれるんじゃないかってくらいの出来だと感じる。
クリエイターの力。自分がゲーム(もしくはその他作品全般)に対して期待する楽しみは2つあって、1つは当たり前だけど「作品を通じ、普段実生活では得られないような体験を疑似的に味わうこと」、もう一つが「世の中に極少数存在する、『自分の頭の中にあるモノを現実の世界に表すために命をかけているような人(”つくる人”)』の熱量を間接的に感じ、その高揚感を(勝手ながら)分けてもらうこと」である。これも当たり前だけど、一つ目に比べて二つ目のハードルはかなり高い。それでも探せば時々あるもので、直近だと先日までNHKアニメで放映していた「映像研には手を出すな!」が、こうした”つくる人”の熱量と特性を非常に上手く描いた傑作だった。
なぜこのような説明をするかと言うと、三度当たり前だけど、本タイトルがこの2つ目の高揚感を感じさせてくれた作品だったからだ。ストーリー全編を通して、プレイヤーから見えるプレイ画面、シーン一つ一つに対する拘りが、キャラクターの動きや光の表現の繊細さからひしひしと伝わってくる。その圧はちょっと尋常なものじゃなくて、「一秒たりとも妥協したくない」という製作者の魂の叫びのようなものが聞こえる気がする。ゲームクリア後に知ったことだけど、その製作者こそがヴァニラソフトウェアの社長である神谷盛治氏であり、この事実を知った後暫くの間、僕は神谷盛治氏に関する情報をひたすら集めるネットストーカーのようになってしまった。
作品紹介ページに掲載されている以下の漫画は、神谷社長の本作品に対する拘りを端的に切り抜いた素晴らしい漫画だと思う(漫画内に内容のネタバレはなし)。
作品やってからだとここに書いているちょっとトンでる言動(誉め言葉)がストンと腑に落ちる。また、他のインタビューでも「初期プロットは完成版の5倍あった」「本当は13人×12ルート書く予定だったのに、最終的には半分くらいになった」と言ったり、言動の端々から、「やべぇ、、この人はホンモノ(最大級の賛辞)だ、、」と感じさせてくれる何かが溢れている。
特別版についているシークレットファイルを読むと、その作成過程における情熱のほとばしり具合が更によく分かる。具体的に書くと止まらなくなるのだけど、特に僕がノックアウトされたのは、主人公13人の中でも一番の主人公格であり、一番最初に話を進める「鞍部十郎」編の序盤だ。この編の最初のアドベンチャーパートでは、一つの画面内に時間軸があり、選択肢の選択順番とタイミングを変えることでストーリーが進行するものであった(少々古いゲームだけど、ニンテンドーDS「ゴーストトリック」に似ている。あれも本タイトル同様、日本ゲーム大賞フューチャー賞受賞作だった。)。この構造、初見だとなかなかわかりにくいのだが、気付いた時の楽しさは通常の一本道進行の比ではなく、冒頭一時間でとてもワクワクさせてもらったのを覚えている。シークレットファイルにも書かれている通り、このゲーム構造は「ルート探しが困難なのと、制作工数が天文学的になるので」結果的には幾つかのパートに断片的に使われるのみになっているが、僕にとってはこのチャレンジ一つとっても、”つくる”ことに対する熱意を間接的に感じさせてくれるものであった。
一作を通じて感じたのは、神谷社長は本当に才能がある、根っからの”つくる人”なのだということだ。そして、神谷社長のインタビューなどから漏れ出る構想の深さを聞くと、「あぁ、これはこの人だけが作品をつくってしまうと一生完成しないんだろう」と思う。それを強制的に世に出させるのが”売る人”、プロデューサーの役割であり、その点、アトラスもまたは必要不可欠な役割を果たしたと思うのだが、この”つくる人”と”売る人”の協業の話をすると文章が終わる見込みがなくなってしまうので、一旦ここで終わる。
兎にも角にも、一人の才能あふれる”つくる人”のクリエイティビティが溢れ出して氾濫して結晶化した作品、十三機兵防衛圏。とてもお勧めです。
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