ずっと誰かのヒーロー
生まれて初めて「ふなっしー」ガチ勢を見た。
と思った。
電車の中パステルイエローのボアスヌードを被ったお姉さんと降りる駅が同じだった。 目の前で立ち上がった彼女は黒のマーイドスカートをスラリとした体躯で履きこなし、どう考えてもレインボーカラーのド派手なリュックを持つタイプには見えなかった。
その賑やかすぎる色味に思わず驚いて目を向けると、それはアグレッシブなポーズをとった「ふなっしー」が散りばめられたリュックだった。もちろん「ふなっしー」が描かれた缶バッチがいくつも付けられており、お姉さんのスヌードはおしゃれな春の色味ではなく「ふなっしー」の推しカラーに違いない。どこからどう見ても「ふなっしー」ガチ勢である。
人語を巧みに操り梨汁を撒き散らす彼のことは嫌いではなかったけど、ブームはもうとっくに過ぎており過去の人だと思っていた。
しかしそんなのは私の偏見で今も彼は人の心にやる気だったり優しさだったりを与えるキャラクターとして生き生きと生きていたのだ。
驚いたなぁと思いながら乗り換え駅のホームに立つと、目の前は「ふなっしー」ガチ勢のお姉さんだった。
彼女の持つボストンバッグはもちろん「ふなっしー」のものなのだが、よく見ると自作のくるみボタンがキーホルダーケースに入れられている、そしてその生地はボストンバックのものと同じである。まさか…、失礼とは思いつつ私がボストンバックをよく見ると
「自作」
間違いない。ハンドメイドを嗜むから分かる。自作。便利なポケットが多数ついたそのボストンバックは作るのにかなり手間だったと思う。丁寧に作られた自作ふなっしーバックは使い込まれしかし大事にされている様が窺える。はみ出したポーチはもちろん「ふなっしー(公式)」のものである。
愛が強い。愛は、強い。
足元を見ると、チャムスのペンギンがチラリと見えた。
「ふなっしー」!靴を!靴を作ってあげて!
「ふなっしー」を飛び越え彼女を応援している私に気がつく。
仕方ない。限定品の発売はきっとリスクが大きい。靴は流石にないか。と目を逸らした先には
「ふなっしー」のワッペンが縫い付けられている。
お姉さん!!!
彼女は「ふなっしー(自作)」ダウンジャケットを着ていた。
こんなに「ふなっしー」を愛している人を私は生まれて初めて見た。彼女が「ふなっしー」を思い、「ふなっしー」にかけた情熱を思うとあまりにも輝いて見えて、もう勝手にお姉さんが人生に絶望したときにふとテレビを見たら「ふなっしー」がいて生きていく希望をもらったとか、テーマパークでたまたま絡まれたけどファンサが異常に良くて推さずにはいられなかったとか、お姉さんのないことないことを考えて泣きそうになってしまった。いや、目から梨汁をブシャァと出しそうになってしまった。
誰かを想う気持ちは美しい。