Best Movies 2017

といっても「今年観た映画」で「今年上映された映画」の限りではない。

去年の年末に帰国してから早くも1年が経ってしまったが、カナダのノリを引きずっているようで今年は映画館にたくさん行ってしまった。同じくらいの本数観て、かかったお金は去年の2.5倍くらい。カナダ(トロント)は安ければ400円くらいで劇場で観られる。割とバカにならない。ちくしょう。


という訳で、今年観て好きだった映画たち10本。


・No.10

Free Fire (フリー・ファイヤー )

JP info: https://filmarks.com/movies/68568?mark_id=32855214

EN info: http://www.imdb.com/title/tt4158096/?ref_=fn_al_tt_1

スコセッシxタランティーノといった感じの室内劇(実際舞台観てるみたいだった)。この監督のベン・ウィートリーというイギリス人が結構クセもので、これまでジャンル不明瞭な不条理映画をたくさん撮ってきた変態。この作品ではその不穏な雰囲気は控えめで、かなりまとまった軽快なクライムアクションコメディになっている。


・No.9 

Starlet (チワワは見ていた)

JP info: https://filmarks.com/movies/54727?mark_id=41173058

EN info: http://www.imdb.com/title/tt2035630/?ref_=fn_al_tt_1

The Florida Projectの予告を観てこのショーン・ベイカーという監督を知り、この雰囲気にすっかりやられてしまって過去作を漁ってみた。これは長編デビュー作。先述の最新作以外は観てみたが全て演技が絶妙で、必ず素人を起用しているらしく独特の雰囲気を作り出している。音楽にManualの楽曲が使われていて、この監督の映像や西海岸の開放的な空気感との相性がものすごく良い。

ところでこの映画、史上最悪の邦題がついている。映画に関わる人間として正気とは思えないリテラシーの低さに怒りが湧いた。


・No.8 

Boyhood (6才のボクが、大人になるまで。)

JP info: https://filmarks.com/movies/57482?mark_id=39390826

EN info: http://www.imdb.com/title/tt1065073/?ref_=fn_al_tt_1

リアルタイム撮影と言えばこの人、リチャード・リンクレイター。正直この人の作品でど真ん中だったものはこれまでなかったんだけど、これはかなり唸らされた。ある少年とその家族の12年間を実際に12年間同じキャストを撮影し続けるというプロセスで撮られた映画。舞台はアメリカのテキサスなんだけど、同州ではマイノリティであろうリベラルな家族の環境とか、日常を写すなかで見えてくる情報がたくさんあって、あの国で生きることを疑似体験できる。

実際に時間が経ってるから、幸せとも不幸とも言えない平凡な話や聞いたことのあるセリフが重みを持って伝わってくる。とくに最後の母親の告白?はかなりずっしりきた。こういう映画があるなら、自分の人生も映画になり得るよな、とちょっと背中を押されるような映画。"ヒーローにはなりたくないんだ"と歌う主題歌も良い。


・No.7 

Get Out (ゲット・アウト)

JP info: https://filmarks.com/movies/70717?mark_id=39876318

EN info: http://www.imdb.com/title/tt5052448/?ref_=fn_al_tt_1

世界で爆発的ヒットを飛ばしたダークホース。最近のホラーは映像が洗練されてたり尖った感じの映画が多いので、こういう気味の悪いホラーは久々に見た気がする。80,90年代のヌメッとした質感のホラーに近い。

近年激化してる黒人差別関連の運動がかなり映画界にも影響を及ぼしてて、黒人がフューチャーされる映画はたくさん出てきたが、個人的には黒人を持ち上げるだけが差別に対する答えじゃないような、ちょっと一本調子なんじゃないかという気はしていたので、それを逆手にとるような形でそれを描くというか皮肉るというのは見たことなくて新しかった。


・No.6

Forcemajeure (フレンチアルプスで起きたこと)

JP info: https://filmarks.com/movies/58470?mark_id=27749361

EN info: http://www.imdb.com/title/tt2121382/?ref_=fn_al_tt_1

ある意味今年一番怖かった映画。月並みな言い方だけど初期ハネケの緊張感にも通ずる、静かな狂気みたいなものに溢れていて一瞬も目が離せない。これまで知らなかったけど物凄い才能がスウェーデンには居たのだ。

雪崩とともに静かに崩れていく家族という他人同士のあつまりのあり方を描く恐怖映画。ダメ親父映画にハズレなしというのは持論だが、この映画を見てそれを改めて確信した。ヴィヴァルディの「夏」がフレンチアルプスの雪山に突き刺さる。

ちなみにこの監督の最新作「The Square」もやばそう。待てない。

・No.5

House

JP info: https://filmarks.com/movies/28215?mark_id=41613632

EN info: http://www.imdb.com/title/tt0076162/?ref_=fn_al_tt_3

恥ずかしながらゼロ年代以前の日本映画はかなり疎く、大林宣彦という監督をちゃんと知ったのは去年、トロントの日本映画のイベントで「この空の花」を観た時だった。演劇じみた台詞や演技、特撮感丸出しの映像など今まで観たことない映像体験で、かつ内容もその描き方もしっかり面白いという、なんなんだこの映画はという感じだったのだけど、当時は彼の作品を観られる機会などなく、帰国してからようやく長編デビュー作を観たのだがこれが凄かった。

まるでホドロスキーの映画を観てるような異世界感、一瞬たりとも目の回らないシーンのない、映画自体がバケモノのようなとんでもない作品だった。それ以降何作か彼の映画を観ているが、やはりこのHOUSEという映画はちょっと別格みたいだ。

何がすごいってこれが時代の間にひっそり産み落とされたB級ではなく、夏休みにみんなで観にいくようなアイドル映画(当時は国民的行事のひとつであっただろう)のひと枠だったということ。70年代の日本の懐の深さ恐るべしという感じだ。


・No.4

Arrival (メッセージ)

JP info: https://filmarks.com/movies/64759?mark_id=34224373

EN info: http://www.imdb.com/title/tt2543164/?ref_=fn_al_tt_1

とにかくドゥニ・ヴィルヌーヴには全信頼を寄せている。個人的にここ数年では最も信頼してる監督のひとりになっている。これまでSFテイストの映画はあったものの、ハードSFを撮ると聞いた時の不安は杞憂に終わった。ちょうど帰国する頃にカナダで上映が始まり、結局見逃してから半年近く待たされたが待った甲斐があったという感じで、気軽にデートで観に行ったら受け取るものが多すぎて、足が宙に浮いたままその子を帰してしまったのだった。

友達とブレードランナーを観に行った時に、この監督はいつも家族(血縁)の因縁の話を撮ると言われて確かにと思ったのだが、このArrivalもまさに。人間というかこの世界の全ては時間の進行とともに生きているので、その進行から外れた時には全ての価値観が崩壊する訳だけど、それを家族や血のつながりというものは乗り越えられるのか、また、死というものが未来の話ではない(というか過去も未来もない)としたら、自分が生きること、誰かを生かすことに意味はあるのか、というとてつもない禅問答に突入していくのだけど、それに対する最後(最初?)の母親の選択には、映画を観てから消化するのに数日は必要だった。

あと、この映画は言語が人格や時間の感覚に影響を及ぼすという説を元にしているのだけど、これをまさにカナダで英語で生活して、またいろんな言葉を話す国の人たちと接して体感していたことだったのもすごく感慨深いものがあった。

ところで面白いなと思うのは、毎回家族の話ではあるのだけど父親と母親は作品によってどちらかしかフューチャーされないという点。父親だったらプリズナーズ、ブレードランナー。母親だったらこのArrinalや灼熱の魂


・No.3

아가씨 (お嬢さん)

JP info: https://filmarks.com/movies/67919?mark_id=39452263

EN info: http://www.imdb.com/title/tt4016934/?ref_=fn_al_tt_2

今年に入って韓国映画をたくさん観るようになった。これまでは韓国映画の食事を不味そうに撮る風潮が苦手で、それこそポン・ジュノ作品くらいしか熱心に観てはいなかったのだけど、韓国人の友達もできて文化も少し知れたので少し観てみるかと思って手を出したこれに完全にノックアウトさせられた。

破壊的に面白い。面白すぎて笑ってしまったのは去年のドント・ブリーズ以来だ。この笑いは漫画とかで見かける、死の直前に怖すぎて笑ってしまうあの描写に近い感覚。

液晶から甘ったるい匂いが漏れてきそうな全シーンにぶちまけられたフェチズムと映像美、新人を含むキャストの素晴らしく気持ち悪い演技(褒めてる)、ただのフェチ映画に留めないしっかり面白い脚本。このバランス。勢い。最高すぎる。

日本統治下の韓国が舞台で、日本に対しての皮肉もかなり効いている。キム・ギドクの映画でも日本のAVが出て来たり、歴史の汚点が築いた文化という感じなのだが、ある意味結末を考えるとこの映画は日韓の交友を示しているのかもしれない。というのは考えすぎか。


・No.2

この世界の片隅に

JP info: https://filmarks.com/movies/62746?mark_id=41406495

EN info: http://www.imdb.com/title/tt4769824/?ref_=nv_sr_1

上映をカナダで見逃してしまって、今年ようやく観ることができた。いやはや日本のアニメの歴史を変えてしまったというのはよく言われているが、それよりも単純に一本の映画として日本映画史に足跡を残す作品ではないか。

何が個人的に素晴らしいと思ったか。色々あるけどひとつあげるとすれば、この映画の多くのファンからはひんしゅくを買うだろうが、大人気の主人公すずさん、個人的に現実世界ですごく軽蔑しているタイプの人間なのだ。いわゆる古典的な日本人女性というか、世間に流され、強い主張は持たず、夫の影に立って粛々と家庭を支える。こういう女性像は今なお一般の共通認識として良いものとされていて、多くの女性がそれを無意識のうちに刷り込まれながら悩みもせず人生を過ごしている。それが僕はすごく嫌な日本の文化として感じていて、そういう女性と話をすると悲しくなるのだけど、そういう人は往往にしてかなり鈍感で、自分を見つめることをしていない、と思っている。そしてそういうすずさんを戦争は泣かせるのだ。「何も考えないで、ぼーっとしたまま死にたかったなぁ」と言わせるのだ。戦争の救いようのなさをこんなに体現した描写があったろうか。

人は鈍感を心地よく思う。僕はむしろ最近は意識的に鈍感に、平穏に生きていくことを目標にしている。もちろん鈍感と何も考えないことは違う。戦争はすずさんを泣かせた。それはある意味すずさんが、日本人が平和を履き違えて生きてきたツケであり、今まさに日本が向かっている方向に対しての、日本人へのメッセージではないかと僕は思う。

戦争は人を変える。人が先に変わらないといけない。


・No.1

Logan (ローガン)

JP info: https://filmarks.com/movies/68074?mark_id=34724433

EN info: http://www.imdb.com/title/tt3315342/?ref_=fn_al_tt_1

さて、第一位。Logan。大嫌いなマーヴェルの、最低なスピンオフシリーズと散々揶揄していた最後の作品のまさかの大逆転。劇場で涙が出たのはいつぶりだろうか。いい意味でこんなに期待を裏切られた作品は初めてだった。

サムライの大惨事で個人的には見限っていたジェームズ・マンゴールドだけど、彼本来のドラマとウエスタン節が炸裂してて本当に見応えあった。内容もかなりリアルというか、追われるミュータントがメキシコから安全な地を目指して国境越えてカナダへ逃げようとするという、なんというか超タイムリーな話。

世界観も丁寧に作られていて、例えば敵サイボーグの義手の指先が指紋認識できるようになってたり、スローモーションじゃないと分からないけどドアに鉤爪を突き刺した拍子にドアのストッパーが弾けてたり、フェンスを車でぶち破れなくてそのまま引きずったりと細かい作り込みが物凄く、その世界が実際に機能しているかのようで映画から伝わってくる質感が非常にリアルだった。

もともとXメンは他の能天気なマーヴェルシリーズとは一線を引いた、ミュータント=マイノリティの苦難と抵抗をテーマにしている唯一好きなシリーズなんだけど、今作もマイノリティの迫害をよく描いていた。

そしてメインテーマは家族。同じマーヴェルのガーディアンズ〜が前作から一転して説教くさい家族愛をぺらぺら語り出したのにがっかりしたのに対して、ローガンのこの説得力はどうだ。老人と反抗期のガキの世話をする初老の苦労もリアル。

心身ともにボロボロのローガンはもはや"ウルヴァリン"ではなくなっていたけど、ローガンになったことでようやく探し求めていたものを見つけて、同時に何を探していたのか理解する最後は本当に泣ける。



以上、

今年見た映画のbest10である。書いてみて、今年は家族に関する映画が多かったなという感じ。やっぱり好きな映画のことを書くと熱が入ってしまって疲れる。。この調子では継続して書けんな。



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オマケとして今年見て寿命を無駄にした、本当にムカついたクソ映画を載せておく。期待値との落差だったり個人的に怒りのツボに入ってしまったり。とにかく嫌いな映画たち。ひどい順から1〜10

1 新感染 ファイナル・エクスプレス 부산행/TRAIN TO BUSAN

https://filmarks.com/movies/69390?mark_id=37296926

2 怒りRage
https://filmarks.com/movies/60578?mark_id=36268383

3 キングコング:髑髏島の巨神 Kong: Skull Island
https://filmarks.com/movies/64803?mark_id=31634613

4 SCOOP!
https://filmarks.com/movies/65309?mark_id=34913682

5 シング・ストリート 未来へのうた Sing Street
https://filmarks.com/movies/66490?mark_id=32045734

6 Nurse 3D
https://filmarks.com/movies/60130?mark_id=41722217

7 消された暗号 BRICK
https://filmarks.com/movies/17572?mark_id=33550139

8 サイトシアーズ~殺人者のための英国観光ガイド~ SIGHTSEERS
https://filmarks.com/movies/55286?mark_id=32895069

9 It
https://filmarks.com/movies/68060?mark_id=40707843

10 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス
https://filmarks.com/movies/59603?mark_id=33491589

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