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パンドラの箱

勉強のために買った
中古の動画プレイヤーには
なぜか日本のアニメが入っていた。

もともとアニメには興味がなかったし、
「何で初期化してから売らないの?」と
疑問に思いながら
何気なく中のファイルをチェック。

色んなアニメの中に、
1つだけドラマが入っていた。

「電車男? なんだこれ?」と
再生ボタンを押してみた。

サイケデリックな音楽、
アバンギャルドな映像、
3分で「気持ち悪い」と思い、
画面を閉じる。

しかし、3日後、
不思議なことに
「もう一回観てみたいな」と
思うようになった。

「クサイ!」って言いながらも
何度も匂いを嗅いでしまう、
そういう感覚に近いものだろう。

すると3分が、10分、30分と
どんどん長くなり、
2話、3話と、次のエピソードを
探している自分に気付く。
完全に「電車男」というドラマに
ハマってしまった。

見た事ない風景と
斬新なネタ、
奇抜な演出、
スピーディな展開、
日本のドラマは全く新しい娯楽であり、
大事な趣味となっていた。
予定のない休みの日は
1日ずっと家に閉じこもり、
ドラマ三昧。

ドラマにハマっていると
いつからか字幕が無くても
意味が分かるようになった。
ドラマで物足りなくなってからは
字幕のないバラエティまで観るようになった。

「実際日本人に会ってみたい」と、
韓国で行われていた韓日交流会にも
参加するようになった。

当時住んでいた地域は
韓国外国語大学の近く。
自分が住んでいたマンションの上の階に
外大の語学学校に通う
日本人が住んでいると分かると
大家さんに頼み、
その人を紹介してもらうこともあった。

次第に日本人と一緒に遊ぶことが多くなった。
仕事が終わると「お疲れ様〜」と来る、
その一言が嬉しかった。

ドラマ、バラエティで覚えた
日本語が通じるその感覚は、
他の人には分からない
暗号が通じるようなもので、
妙な優越感すら感じさせる。
日本語を使うことが楽しくて仕方がなかった。

ある日、日本人の友達に
自分が抱えている
学歴コンプレクスの話をして、
自分が受験生であるとこを明かすと、
「日本の大学に行ったら?
あなた日本好きなんでしょ?」と
言われた。

当時は
「いやいや、留学なんて…」とごまかした。
しかし、時間が経つと、
日本に対する興味は、憧れへと、
そして確信へと変わっていった。

そして、ある瞬間、
「そうだ、日本の大学へ行こう!」
と決心する。

聴く、喋るだけで
「あいうえお」すら書けない僕は、
旅行ですら行った事ない国で
留学する事を決めた。

2009年、
私は日本の大学受験の専門の塾に
通い始めた。