初めての美術館で起きたプチ事件
僕は今まで、美術館というものに一切興味がなかった。
せっかちな性格なので、ひとつの作品をゆっくり堪能する前に、どんどん先へ進みたくなってしまうのだ。
そんな僕が、とある芸術家の個展に興味を持った。"落合陽一"だ。
落合さんは『科学×アート』を得意とし、研究者でありながら芸術家としても活躍している。
その落合の個展が、東京で1ヶ月間開催されていたのだ。偶然にも東京に行く機会があった僕は、「ちょっと寄ってみよう」という軽いノリで個展へと向かった。
大学生以下の入場料は無料である。これは落合自身が大学教員であり、教育者としての粋なハカライだろう。カッコいい。
ーいざ個展へ入場ーー
支配人「チケットはお持ちでしょうか?」
パーカー「大学生なんですけど、どうすればいいでしょうか、、?」
支配人「大変失礼しました。学生証はお持ちですか?」
学生証を渡すと、
支配人「え!!わざわざ神戸からいらしたんですね!」
パーカー「あ、そうです(小声)」
軽いノリで来たはずが、関西からはるばる訪れた「落合信者」と思われてしまった。
また、入場時に「エポスカード」というクレジットカードの申し込みを勧められた。ここで申し込めば、2000円の割引クーポンがもらえるらしい。
めんどくさそうなので、丁重にお断りし、逃げるように展示の方へ向かった。中に入ると、驚くことにほとんど人がいなかった。もはや僕以外にお客さんはいなかった。
会場はドーナツ型になっていて、ぐるっと一周すれば再び同じ場所に戻ってきて終了である。慣れない僕は、せっかちが発動して最初からどんどん奥へ進んでいってしまった。
ドーナツ型の半分に差し掛かってようやく、「あんまりじっくり見ていないな」と気付いた。
正直、ほとんどの作品を理解せず進んでいたので、僕はUターンしてもう一度最初から見直そうと考えた。
後ろ振り返ると、さっきの支配人がいた。人が少なくて暇なのか、やたらと僕の動きを監視しているように感じた。
ここでUターンすれば、「あれだけ猛スピードで進んでおいて、何も分かってなかったのか」と思われかねない。
仕方がなくそのまま奥へと進んだ。
ただ、その後見た作品はどれも楽しかった。科学の「不思議さ」と「厨二病っぽさ」に満ちたカッコいいアートだった。
そして一番最後のグッズ売り場にやってきた。タオルやクリアファイル、ケーキなど充実の品揃えだ。
それを見ていると、再び支配人が来て、「カードのお申込いかがですか?」「すぐに2000円のクーポンを発行できます」と言ってきた。
ちょっとしつこいと思ってしまった。どんだけカード作ってほしいんだよ!!
ただ、せっかくの思い出として、僕はグッズを買うことにした。値段を見ると、落合ミネラルウォーターが300円、落合タオルが2000円、落合トートバックが4000円だった。
タオルが欲しかった僕は、「やっぱりカード作っても大丈夫ですか?」と聞いてみた。
さっきまで散々断っておきながら、いきなり手のひらを返したみたいになり、さっきまでの自分を反省した。
でも、支配人は嬉しそうに「もちろんです」と答えてくれた。というかめっちゃ喜んでいた。あまりに喜んでいたので、もはや良いことをしたみたいな気持ちになった。
10分ほど手続きをして、クーポン付きのカードをゲットした。支配人とも打ち解けた僕は、個展をUターンしてもう一回じっくりと作品を見ることにした。
途中、シャボン玉を使ったアートがあるのだが 、スタッフがシャボンの原液を薄めるために300円の落合ミネラルウォーターを使っていたのを目撃した。見てはいけないものを見てしまった気分になったが、「これもアートだ」と自分に言い聞かせて平常心を保った。
結局グッズ売り場に戻り、クーポンを使ってタオルとお菓子を買った。さらに、グッズの購入者限定で抽選ができるらしい。レジの横にipadがあり、画面を押すとA賞、B賞、C賞のどれかが表示される。
A賞はトートバック、B賞はステッカー3枚、C賞はステッカー1枚である。驚異のステッカー率。
僕も抽選をすることになったのだが、なぜかipadの電源がつかない。2分くらい店員さんが格闘しても、いっこうにつく気配はない。僕と店員の間に気まずい空気が流れ始めた。
この時僕は、
(自分だけ抽選できなくなるとは残念だな。)
と思い、諦めて帰ろうとした。
しかし、事態は思わぬ方向へ進むことになる。
突然店員さんが紙を取り出し、A、B、Cと文字を書き始めた。
その紙を見せながら、周りに聞こえないよう耳打ちで、「どれがいいでしょうか?やっぱりAですよね?」と聞いてきた。
よく分からないまま「はい」と答えると、そのままトートバッグを貰えた。抽選なしでA賞を獲得するという奇跡を起こしてしまったのだ。
その直後にipadの電源が入って、とんでもなく気まずい空気が流れた。店員も「抽選やり直します」とは言えなかったようで、僕は落合トートバッグを貰ったまま帰路についた。
もし僕がクレジットカードを申し込まなければ、タイミングがずれてipadが壊れることもなかっただろう。あれだけ鬱陶しかったクレジットカードの勧誘が幸運をもたらしてくれたのだ。
「嫌いで避けていたものが、実は自分を助けてくれる」ということは往々にしてある。
最初から「これはしょうもない」と偉そうにしていると、気付かぬうちに自らチャンスを捨ててしまう。
一期一会という言葉があるけれど、人に限らず日常の小さな出会いを大切にしようと思った一日でした。
p.s.
個展の写真撮影&投稿がOKだったので、皆さんにも共有したいと思います。
①ジャボン液に映像を映してキラキラした蝶を再現するアート
②1本300円の落合ウォーター
③この人が落合陽一
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