【ハート型のconchiglia】

【ハート型のconchiglia】
※瀬名泉視点/時期的には2年生冬頃/捏造多いので、何でも許せる方のみ・自己責任でお願いします


潮の音が騒がしい。海が映える季節ではないものの、夕日はとても綺麗でたまに遠回りしてここに来る。見慣れた景色。

「今日は予定入ってないからここでゆっくりするのもありかな」

使い古したiPodで、俺のために作られた音楽を聴く。
俺の下手な歌声、時折入る雑音、『王さま』の声、それに応える俺の声。いつもなら恥ずかしくて、聞きたくなくて、そっと別の曲に変えていたのだろうが、今日は妙に変える気にもなれなくて、そのまま指は動かさなかった。

あぁ、この曲は。俺の頭に風で枯れ葉が付いちゃって。気づかずそのまま『王さま』に会いに行ったら「ちょっと待って!動かないで!霊感が!」って叫んでそこら中に音符を書きまくったよねぇ。そのせいで俺まで蓮巳にまとめて怒られた、あの借りまだ返してもらってなかったよねぇ?

『ちょっとセナ!この曲歌ってみて!』って。あんたの曲難しいんだからさぁ、そんな簡単に歌えるわけないでしょぉ?っていつも言ってんのにあんたは俺の話に耳貸さないし。

ライブ直前までアレンジはやめないから、時間間に合わなくて一回衣装のボタン止めずに歌ったこともあったよねぇ。踊ってる途中、後ろの方向く一瞬でボタン止めててさぁ。俺笑っちゃいそうになったよ。

あんたと近くの公園行った時、子供みたいに滑り台とか滑って。スラックスが汚れてるってのに『霊感が沸いた!』って言って。めっちゃ目立って恥ずかしかったんだけど?まあでも、この曲、明るい曲調で嫌いじゃないよ。

これはロングトーンがある曲だよねぇ?あんたは一発で録れたけど、その頃俺は普通に歌うのでやっとだったから。何回も録り直してたよ?それ見てあんた笑ってたよねぇ?

ターンとか難しいフリもたくさん入れるよねぇ、あんたに教えてもらうのとか絶対嫌だから、俺一人で練習何時間もしてたんだよぉ?なのに本番で急にアレンジするしさぁ、着いていく大変なんだからねぇ?

数分前から、ずっと陰鬱な曲しか流れない。曲に活力が無い。きっと、このぐらいの時期は、希望も潰えた___

気づいたら俺は泣いていて。
慌てて鞄に入ってたハンカチで擦らないよう拭う。

俺の綺麗な顔があんたのせいで台無しになっちゃうんだけど。

嫌なことは思い出したくない。ため息をつく。
あたりはもう真っ暗で、綺麗な三日月が昇っていた。

「そろそろ帰らないとねぇ」

砂浜の中を音を鳴らしながら歩く。静寂の中、俺の足音は異様に響いた。

少し固いものが靴に当たった。小さな固形物を手に取ってみると…貝殻?ハート型なんて珍しい、綺麗な貝殻。
裏には黒い文字が書かれている。さすがに辺りは暗くて文字は読めない。こんな貝殻一つに馬鹿馬鹿しいけど、スマホのライトで文字を照らした。

“5.5. Leo Izumi”

『王さま』の誕生日……。

『セナ!ここに埋めとくからまたいつか拾いに来よう!』
「そんなの時間経ったら海に流れてくからどうせ見つかんないんじゃない?」
『じゃあ、海から遠いところに埋めておけばいいだろ!な!』
「じゃあもう好きにすれば〜」

……そういえば……昔、来たねぇ、二人で。
あんたの誕生日、遠くに出かけて、帰りに『帰りたくない』って駄々こねて、寄り道してここに来て、『ここに来た証だー』とか言っていつも楽譜に書くために持ち歩いてるペンで書いたんだっけ。

“またいつか”

馬鹿みたい。叶わないのにさぁ。
俺たちの希望は、もう潰えちゃったの。

俺たちも革命を成し遂げられなかった。
俺たち『Knights』が埋もれた後、他のユニットも衰退して学院はゆっくりと腐敗していった。
もう、あの煌びやかな青春の日々には戻れない。

最後に会いに行った時。
部屋の扉から顔を覗かせて、体は震えていた。
涙を流して必死に助けを求めていた。

「泣きたいのは俺もだよ」

右手の手の中に入れた貝殻を、いつからか俺は強く握りしめていた。

俺が砂浜によく通っていたのも最初は俺が忘れたくなかったからで__
「そういえば」なんて嘘だよ、ちゃんと覚えてるよ、何回も忘れようとしたけど。

涙で濡れたブレザーの右ポケットに、静かに貝殻を入れた。

『王さま』はもう壊れて、戦えるのは俺しかいない。
俺はここに残るから。
あんたが残してくれた武器でちゃんと場所は守り抜くから。

『王さま』___あんたも戻ってきなよ、

待ってるね。

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