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TIVA-コスト-環境汚染-インフラ

TIVAはtotal intravenous anesthesiaの略. 麻酔維持をプロポフォール/レミフェンタニルで行う. 初期研修中の麻酔科ローテではあまりやる機会がないが、きちんと習得すると便利な麻酔法. 誤解を承知で言うと、gas麻酔はダイヤルを捻るだけでもなんとかなる. しかし、TIVAは気をつけなければ「覚醒」するか「深鎮静」になってしまうので注意が必要.
TIVAは術中覚醒のリスクが高いと言われているが、このeducational reviewでは術中覚醒のリスクが吸入麻酔に比べて有意に高いというエビデンスは限定的だとしている. また、術中覚醒の一番の要因はトレーニング不足であると述べている. 自分自身も含めてだが、なかなか数例麻酔をかけただけではTIVAの鎮静/覚醒の勘どころが掴みにくいのが理解不足の原因か.
TIVAの大きな利点は、悪性高熱症のリスクを減らせること、吸入麻酔薬に比べると穏やかな覚醒が可能なこと、吸入麻酔による環境汚染を減らせることが挙げられる.
吸入麻酔で環境汚染!?と初めて聞いた時には驚きだったが、調べてみるとセボフルランやデスフルランはれっきとした温室効果ガスらしい. 最近の麻酔器の堅牢性は高く、手術室が汚染されて術者や看護師が眠りに落ちることはないが、麻酔器に接続されている排気回路から結局は大気中に放出される. こんな論文も見つけた. これもまた次の機会に取り上げたい. 
TIVAからは話が逸れるが、環境に優しく大気汚染を減らすという意味では低流量麻酔 low-flow anesthesiaも大事な考え方. 麻酔器を製造しているdragergetingeは、低流量麻酔によって吸入麻酔薬の減量に成功した病院の例を自社サイトで挙げ、麻酔器の堅牢性・安全性をアピールしている. 低流量麻酔については別の機会に取り上げる.
TIVAは効果部位濃度を設定し、決められた血中濃度モデルに乗っ取って麻酔をスタートする. またこの「決められた血中濃度モデル」と言うのも実に厄介. ディプリフューザーは内部にmarshの血中濃度モデルが組み込まれているが、本当にこのモデルが正しいのか??と思ってしまう. まあ、それは自分が経験不足だからそう感じるだけなのだが. コンパートメントモデルや血中濃度モデルの基本的な理解も専門医取得には欠かせないので学習しよう. 

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TIVAの適応は表の通り(本文table 1 より. 赤線は筆者)だが、基本的にはTIVAは誰にでもどんな手術にでも使える. 逆にTIVAは避けた方が良い場合もある. まずプロポフォールは大豆由来の成分で構成されているので、大豆アレルギーには注意した方が良い. また、小児領域ではプロポフォールによる死亡事故(これはICUでの鎮静目的の使用だったが)が起こり、メディアでも大きく取り上げられた. 添付文書上手術室麻酔におけるプロポフォールの使用は禁忌ではないが、術前の説明で不安に感じる家族もいるので小児手術に使うのを避けている麻酔科医もいるよう. 他の注意点としては、プロポフォールは急速注入時に血管痛を伴うので、事前に冷やしておいたり、患者に声をかけたりして注入時の痛みに対処することが大事. ちなみにプロポフォールの血管痛にはある痛み受容体が関わっているかもしれない. それについてもまた今度.

TIVAはプロポフォールとレミフェンタニルでコントロールするが、high propofol/low remifentanilかlow propofol/high remifentanilのやり方がある. 後者の場合、麻酔の中でもanalgesiaに重きを置いた麻酔となる. 利点としては強い鎮静がかかっているわけではないので、スムーズな覚醒が期待できること. デメリットは呼吸抑制が強いので高齢者で注意することと、薬価の高いレミフェンタニルを大量に使用するので、コストがかかるということ. ただ、強いオピオイド作用は悪性腫瘍を活性化させるらしいので、臓器保護の観点からは悪性腫瘍の手術にhigh remifentanil methodを使うのは避けた方が良いんじゃないのかな? まあ、in vivoで悪性腫瘍手術でのオピオイドの使用が、その後の予後を悪化させるというはっきりしたエビデンスはないので、神経質になる必要はないか. まだまだ自分の経験が浅いのでなんとも言えないが、remifentanil中心のTIVAは見たことがない. high remifentanilで管理した時の脳波や覚醒の良さを僕も経験してみたい. 

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TIVAの注意点を本文table4より. ゲシュタルト崩壊するくらい"Ensure"と書かれている. 僕も上級医に静脈ルートを確認するよう何度も言われた. なぜなら、ルートの滴下が悪かったり刺入部から漏れがあったりすると、体内に確実に投与されていないことになり予測効果部位濃度と実際の血中濃度にずれが生じるからだ. 18Gくらいの太いルートを少なくとも2つ確保し、導入前に滴下が良好であることを自分の目で確認する. また、TCIポンプの設定と電源が確実であること、プロポフォールの在庫が手術室内にあること(TIVAではプロポフォールを大量に使用するから)、TIVAが続行できなくなった時のために吸入麻酔薬のバックアップがあるかどうか、などを確認する. 

TIVAだけでなく、確認するという作業は麻酔業務に必須. 麻酔科は急性期医療のインフラであると僕は考えている. 電気や水道と同じで、普段はその大事さなんてほとんど気づかないしありがたがられもしない. また、インフラを提供する側もトラブルがないことが当たり前になってしまい、一度業務に慣れてしまうと思考停止になってしまいがち. しかし一度それがなくなってしまったり、ミスが起こるとそれを使っている誰もが困ってしまう. 確認を怠らない. 特に余裕が出てなんでもできると錯覚する専攻医が一番危険だと思う. 自省の念を込めて.

今回の論文はこちら


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