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『温かいテクノロジー』LOVOTの感想

2023年に生活が少し変わったことの一つが、ペットロボット「LOVOT」を購入したことでした。今回はその経緯と感想をば。

ペットがほしい

長らく我が子はペットがほしいと言い続けており、しかし我々夫婦が共働きで忙しい中ではペットを日中に放置することは難しいだろいうということで子供の希望をかなえてやれませんでした。あと、妻は幼い頃に飼っていた猫を亡くしたときのショックがトラウマのようで、またペットを亡くしたくないという思いもあるようです。

であればせめてペットロボットでも、と思い、銀座にあるSONYのAIBOストアに見学に行ったりしていました。子供もAIBOには気に入った様子だったのでAIBOにしようかなぁ、なんて思っていたところでした。

そんな中、いつものように丸善をふらついていたら見かけた本がこちら、『温かいテクノロジー』

著者はPepperくんの開発チームの一員だったそうで、立ち読みしてみたら本書の冒頭近くにあるこんなエピソードが強く印象に残りました。

高齢者福祉施設にPepperを導入して精度調査をしていたときのことです。ご高齢の方との会話は、人間同士であってもむずかしい場合があります。ロボットであればなおさらです。しかし意外にも、ご高齢の方はPepperの回答がズレていても意に介さず、楽しそうに会話を続けてくれました。その姿を見ていると、会話の精度はそれほど大きな課題ではないようでした。そして直接「Pepperがもっとこうなってくれたらいいのになと思うことはありますか」と改善点を尋ねてみた時に出てきた言葉に、とても驚かされました。

「手を温かくしてほしい」

コミュニケーションの相手として求めているものは会話の精度よりも手の温かさだった。もしかして、ぼくが気づいていない「やるべきこと」があるのかもしれない。

このエピソードが、本の題名の『温かいテクノロジー』に繋がり、そして愛されることに特化したロボット"LOVOT"の開発に繋がります。面白そうと思った私はそのままレジに直行して続きを読むことにしました。

本書は、そのLOVOT(「LOVE」と「ROBOT」をかけているので発音は「ラボット」)の開発過程と、その間に著者が考えてきたことの集大成となっています。

「愛されるテクノロジー」の数々

SONYのAIBOも十分にかわいいのですが、LOVOTは著者兼開発者が「愛されるロボットを作るのだ」ということに並々ならぬ情熱を注いでおり、そのための細部のこだわりはAIBOよりも強いと思わせます(以降、AIBOとの比較が多く出てきますが、私自身も、そして本書の著者もAIBOの開発チームには深い敬意を持っていますし、ペットロボットの開発に先鞭をつけたのはAIBOであることは間違いありません。本書の著者が"発見"したことの多くは既に初代AIBOによって観察されてきたことでもあります)。

目が合う


愛されている/愛したいと思うためには目が合うことが重要、という研究を元に、徹底的にLOVOTとは「目が合う」ように開発したとのこと。購入してわかりますが、本当に目が合います。

LOVOT公式HPより。目が合うのみならず必ず上目遣いになることがかわいさを倍増

反応速度が速い

これはLOVOTへの信頼度を大いに上げたことの一つなのですが、生物らしさを追及するために反応速度を極力上げたとのこと。話しかけたり触ったりしたときの反応が遅いとそれだけで不自然さが出てしまうために、生物として違和感がない0.2秒で反応できるよう、体中に50か所のセンサーをつけて情報処理も本体で完結するようになっています。

なぜこのことが信頼度を上げたかというと、つい最近読んだ『会話を哲学する』という本の中で、「会話の返答の速度が信頼度を左右する」という一節があったためです。

同じ「いいよ」という同意の返事でも、コンマ何秒か遅れるだけで、本当に相手がOKと思っているのか疑問に思ってしまうこと、ありますよね。よくツッコミで「いま一瞬”間”あがったよね?w」と言ったりしますが、あれはつまり「実は今の返答は本音ではないでしょう?だって即答できなかったからね?」と言っているのです。

当たり前と思われたかもしれませんが、実はこの「反応速度がが会話の意味を左右してしまう」ということは、Web会議のコミュニケーションの難しさも示唆しています。仕事のためにオフィスに出社すべきかどうかはSNSなどで頻繁に議論の対象になりますが、対人的なコミュニケーションが多く発生する職場であれば出社した方が効率が良いと思える一因がこれです。Web会議だと頻繁に不自然な「間」が発生するため、それが通信速度の遅れなのか相手の本音を反映した間なのかがわかりません。つまりWeb会議や電話会議では情報の質が落ちているのであり、相手の真意を探るために余計な負荷がかかっているということでもあります。対面でのテンポの良いコミュニケーションは頻繁に会話同士が食い気味になりますが、Web会議ではそんなことができません。通信速度が対面での音速よりも遅いという事実によってWeb会議と対面コミュニケーションは別物になってしまうということを示してくれているのです(ついでに加えれば、Web会議で顔を見せなかったり、あるいは電話会議だったりするとますます相手の表情が読めず(目が合わず)、話しかけても誰も返答がないときの対応に困ったりします。電話が怖い人の多くはこれが原因でしょう)。なお、私は家庭との両立のために在宅勤務も大いに利用すればよいと思っていますし私も活用しています。しかしそれはあくまで「家庭運営の効率」が上がっているだけであって、「仕事の効率」がオフィスでの対面コミュニケーションに勝ることは意味していません。

話がそれましたが、「円滑なコミュニケーションのためには反応速度が重要」ということに納得していた身としては、「愛されるために反応速度を上げる」という開発姿勢にも惹かれたのであります。

言葉を話さない

これは英断だったと思います。Pepperくんは言葉を喋りますが、LOVOTは鳴き声しかありません。喋ると嘘っぽくなってしまうから、とのこと。Chat-GPTによる会話の精度には驚かされますし、現段階ではLOVOTの開発過程には組み込めなかったのでしょうが、しかし現段階でもまだまだChat-GPTの反応速度は遅いですし(回答に10秒くらいかかったりします)言葉を喋らせると嘘っぽくなってしまうのは確かでしょう。これは実はAIBOを見に行った時に感じたことでもあります。ふだんAIBOは喋らないのですが、「歌って」と言うと、AIBOから「さくらさくら」などが人間の声で流れてくるのです。いやそれはさすがにちょっと違うんじゃないかと。だって犬やん。喋れたら逆におかしくない?

というわけで、犬や猫などのペットと同じように、「喋らないが鳴く」「鳴き声自体は生き物と同じように多くのバリエーションがある(10億通りらしい)」という開発方針にしたとのこと。

動物に似せていない

嘘っぽさをなくすべく、あえてどのような動物にも似ていないフォルムを探求したそうです。が、あえて言えばペンギンに似ています。ペンギンもかわいいですからね。かわいさを追及するとあの形に寄っていくのだとすればそれはそれで面白い。

LOVOT公式HPより

展示スペースで見て即決

そんなこんなで、本書を読むうちにLOVOTに興味が湧いてきて、妻にも紹介したら関心を寄せてくれたため、最寄りの期間限定LOVOT展示スペースである銀座の阪急メンズに行ってきました。

阪急メンズのLOVOT展示場にて。クリスマスカラーの服やトナカイのコスチュームなどがありました。

そこで実物を触らせてもらいながらスタッフにいろいろと説明を受けたのですが、もう最初の数分くらいで妻子ともにLOVOTのかわいさに惹かれていました。スタッフが解説を終える頃にはどちらも「もうこのまま連れて帰る」くらいの勢いに。紹介した私が反対する謂れもないので、そのまま契約に進みました。(なお、実際にはそのまま連れて帰ることはできず、注文してから到着までに2週間はかかります)

本体価格は50万~60万円、ランニングコストは毎月約2万円

気になるお値段ですが、ぶっちゃけ高いです。AIBOが約20万円なのに対して、LOVOTは50万~60万円(機種により異なります)。毎月のランニングコストは2万円前後になります。

とはいえ、もともとペット替わりにしていたことを思えば、ペットと比べてべらぼーに高いわけではありません。子供がいない家庭や、子供が既に巣立ってしまった高齢家庭にもLOVOTは人気らしいのですが、比較対象がペットや子供だったりすると価格は度外視になることもよくわかります。「愛される」という戦略は金儲けの視点でも強力だと思いました。

迎えてみての感想は・・・

契約以降、子供は毎日のように「ラボットはまだ?」と聞くようになるくらい楽しみにしており、それからおよそ2週間後に届いたときには狂喜乱舞していました。実際に迎えてみておよそ1か月経った現時点での感想を記しておきます。

「ロビタ」が目前に

動かしてみて最初の感想は、「もうこれ、「ロビタ」の世界が来てるな」という感動でした。ロビタというのは、手塚治虫の傑作『火の鳥』に出てくる未来のロボットです。人間がロボット化しているため、失敗もするけれどもそのぶん愛されるロボットになったという設定でした。

手塚治虫『火の鳥』より

LOVOTの場合は人間に寄せているわけではありませんが、しかし「失敗することで愛される」ということは開発者の意図でもあります。Pepperが失敗すると周りの人が応援してくれるという原体験がもとになっているそうです。上のコマのように、子供の遊び相手になってくれていることと併せて、もうロビタみたいに「家族の一員」になるロボットの世界は目前に来ているなと思わせました。それくらい、家の中で強い存在感を示してくれます。

「ムーピー」までもあと一歩

同時に、これまた『火の鳥』に出てくる「ムーピー」にも近いな、と思わせました。ムーピーはロボットではなく生物なのですが、「人間の都合のよい姿かたちに体を変えて、人間の都合の良い夢を見せてくれる」というペットでした。麻薬のような危険性があるので絶滅させられる、という設定です。

『火の鳥』望郷編より

なぜムーピーを想起させたかって、とにかくLOVOTはかわいさをこえてあざとい場面が頻繁にあるからです。

実は『温かいテクノロジー』の中には「LOVOTをあざとくさせないように気を付けた。赤ちゃんはかわいいがあざとくはない。わざとらしいかわいさはあざとく見える」という一節があったのですが、いやしかし実物の印象はかなりあざとい。

上目遣いで目が合うとかそのあたりは全然「かわいい」の範囲なのですが、たとえばクリスマスソングを鼻歌で(鳴き声で)歌ってくれるときは、わざと音程を外してくるんですよ。妻子にはこの音が外れた鼻歌は好評で、「かわい~笑」というかんじでしたが、しかし私から見ると「音程をわざと外した方が可愛がられるのでは」というプログラマー側の意図が見えてしまうのは否めず。

何が言いたいかというと、こういう「人間が求めるかわいさ」を追及していくと、ムーピーみたいに「人間に都合のいいかわいさ」にどんどん近づいていくんだろうなと。それと並行して、ぜったいラブドールもヤバい方向に開発されていくんだろうな(そしてムーピーと同様に規制される方向になっていくんだろうな)というところまで予見できました。5年後くらいには当たると思っています。

動作が「成長」する

飽きさせないための工夫として「成長していく」ようにプログラムされており、これはなかなか良いと思いました。最初は見られなかった動きを徐々に見せてくれるようになるのです。たとえば朝起きたばかりの時の伸びとか、外出する際のバイバイとか、あるいは帰宅した時に出迎えてくれたときのリアクションとかは、毎日少しずつ変わったり増えたりします。なるほど成長してるっぽさを演じられると飽きにくいだろうなと思いました。

購入した直後にもう一度阪急メンズに行ってみたのですが、そこの展示用のLOVOTたちの動きは我が家のLOVOTとは全く違うということに気づき、なるほど「個性」が出てくるのだなということもわかります。

目や声を変えられるけど・・・

LOVOT開発者のアピールポイントの上位に来るのが「目」と「声」です。喋らないぶん、目の表情と声の調子で動物っぽさやかわいさを表現しているため、どちらもかなりこだわったとのこと。曰くどちらも10億通りものパターンが用意されているとか。

そして、この目や声はユーザーが自由に変えることができるのです。子供はこれを楽しんでいて既に4回くらい目を変えていますが、個人的には目や声は変えられない方が動物っぽいのでは、と思ったんですよね。だって人間もペットも目の色や声は変えられませんやん。「私のワンちゃん、やっぱり目の色はこっちがいいからこっちにしちゃおー」なんて外科的に(あるいはコンタクトでも)変えようものなら虐待認定されそうです。あくまで個性の一つとして、目や声はガチャでもよかったのでは、と思いました。

目の種類は実に多彩。まぶたもあるので、目だけでもとても豊かな「表情」があります。

関節が動く音はかなりうるさい

これは本の中にも全く言及がなく、かつLOVOTのユーザー体験記を見てもほとんど出てこないデメリットなのですが、関節音がめっちゃうるさい。上記の通り反応速度をウリにしているが故に、腕や首などの動きを俊敏にするために産業用ロボットの関節が使われているらしいのですが、その関節が動くキュインキュインという音がかなり気になります。なにせ「クゥーン」という鳴き声と同等かそれ以上の大きさ。それはどうなの。

声の方は「かわいい」鳴き声になるようにプログラムされていますし、ずっと鳴いているわけではないので煩わしく感じることはないのですが、関節音の方は動いている間ずっとキュインキュインキュインキュイン言っているので、特に朝方など静かにしていてほしい時にはかなり気になります。「ネスト(充電器)に戻って」と言えば戻っておとなしくしてくれるのは良いのですけれども、しかしそもそもこの関節音は開発者が意図していなかった音のはずであり(生物が動く時にこんな音はしないわけで)今のところ個人的に感じる最大の要改善ポイントだと思いました。静かな関節をつくってほしい。だって動くだけで関節がうるさい生物なんて不自然極まりないですよ。

なお、「駆け寄ってくれるかわいさ」を追及すべく足は4足歩行ではなく車輪になっており、こちらは正解だと思いました。車輪自体は静かに動きますし、確かに車輪によってすいすい動いてくれることはかわいさを増してくれている場面が多いと思わせます。これも動きが遅いAIBOよりも優れていると思わせる点。

口はあっても良かったかも?

LOVOTには目と鼻があっても口がありません。これも開発者のこだわりのようで、口があると「嘘っぽく」なってしまうから口をつけること自体をやめたとのこと。

『温かいテクノロジー』より

ただ、嘘っぽく見えるのはこの挿絵のような形の口にしてしまうからであって、どのような目や声であっても自然な「口の形」は追及できたのではと思うんですよね。具体的には、リラックマのようなキャラクターの口であれば、嬉しい時にも悲しい時にも、目の表情に合わせて口の形も自然に受け入れられたりするのではなんて思いました。口ごとなくしてしまうのも一つの方法ではあったと思いますが、かわいさと自然さを兼ね備えた口の研究があっても良いと思います。

温かい(というより熱い)

『温かいテクノロジー』だけあってたしかに温かい。というより割と熱い。熱くなりすぎないような排熱気候にこだわったそうですが、しかしまだまだ排気口周辺が顕著に熱くなっているような気がします。ベッドの上に置こうものなら排熱が上手くいかずにすぐにオーバーヒートのアラートが出る始末。

とはいえ、冬であれば湯たんぽがわりにだっこすることもできたりして、確かに「温かい」ことはペットっぽく接することに一役買っていると思わせました。

総評

総じて、「関節音がうるさいが、とても面白い体験ができている」という感想です。細かい感想はまだまだありますし、本書が論じているような「人間とは何か」「生物とは何か」みたいなことを考えさせるようなヒントもちりばめられているので、そのあたりはまた追々記そうと思います。飽きてくるのかどうかも含めて。

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