人の夢の人



夢を見た事があるだろうか?

おそらく、ほとんどの人がイエスと答えるだろう。
では夢とはなんだろうか? 


夢には、記憶の中にある物しか出てこないという説がある。これは耳にした事があるんじゃないだろうか。有名な説だ。しかし、夢の中の展開は自分が経験した事のない事、つまり自分の記憶にある人物や場所は出てくるが、そこから始まるストーリーは記憶には存在しないのだ。

 
無意識に脳がストーリーを作りだしている。だとしたら人は皆、ストーリーを作りたがっている。心の中では物語を作りたがっているんではなかろうか。 


いや、既に夢という媒体で幾つもの小説を紡いでいる、人は皆小説家であるんではないだろうか。永遠に終わりのこない物語を書く小説家ではないだろうかと時々考えてしまう。


これは僕が高校生の時の話。二年生だったかな。 


まぁ、その何の変わりもない日常の中、夢を見た。
夢の中で夢とわかる現象。明晰夢、それだった。
僕は学校にいた。何故か3年のクラスだ。普通、夢の始まりとゆーのは、たいてい覚えてないものだ。何故なら、何故ここにいるかという事を自分が悟らないため、つまり難なくストーリーを進めるためだ。 


だが、明晰夢となれば話は別、僕は(何で学校?どうせならプライベートビーチで美女達とくんずほぐれつ…)などと稚拙な事を考えていた。

「君、見た事ある」

僕は声がした方に振り返った。
そこにはブレザー姿の女子が驚いた顔で立っている。見た事のある顔だったが、よく考えれば当たり前である。

二年近く通った自分の学校で女子に会う。見た事のない顔のハズがない。

これが夢でさえなければ。

「2年だよね?」

彼女が言う。僕は少々戸惑いながらも頷く。

「何で僕の夢に?」

僕は当然ともいえる疑問を投げかける。ま、夢なんだから意味不明の事を答えると思ってはいたが。

「え?私の夢なんだけど…」

彼女は驚いた顔で答える。

それから、少し話したが、どうやら、僕と彼女の夢は繋がってるらしかった。
彼女は、口元のほくろがセクシーな明るい女子だった。

夢が覚めた。

学校に行き、なんとなしに3年のクラスに向かった。
彼女は居た。
そして、ドアの窓から覗く僕を見つけると照れたように微笑んだ。

それから僕は何かと彼女と話すようになった。クラスの話、好きな人の話、そして夢の話。
彼女は、小説家になりたいと言っていた。
夢で会ったのは一度きりだったが、僕らの仲は時間が立つにつれ深まった。 


一度彼女がこんな事を言った。

「夢の中の私は、自分が想い描く理想の自分。もっと、明るくて少しセクシーなの。私が作った私」

夢と違い彼女は決して明るくはなかった。

ある時から、彼女は学校に来なくなった。 


もちろん僕は電話したり、メールを送ったりした。 


何でもすごい話を思いついたとかで、こもりっきりで創作活動に勤しんでいるらしい。 


もともと学校をサボったりで真面目じゃなかった僕は、夢のため好きな事のために学校を休む彼女に、学校に来いと催促する事はなかった。

彼女はその間、僕に会えないとも言っていた。

ある日、夢を見た。

明晰夢、それだった。 


僕は彼女を探した、彼女はクラスのいつもの席に座っていた。

そこからはあまり覚えていない。

夢の中で夢と認識しなくなったのだろうか、僕にもわからない。

ただ何か彼女と話した事だけは覚えている。

目が覚めた。

いつもはだらだらとして遅刻してる僕だが、すぐに学校に向かった。

学校に着くとカバンも置かずに3年のあのクラスへ向かう。

何故か彼女が来ている様な気がしたんだ。

僕の予想通り彼女は居た、数人の男子や女子に囲まれて談笑している。 


彼女は僕の姿を見つけると

「久しぶりだね!」

と近寄ってきて、肩をポンっと叩いた。 


「ヒューヒュー」だとか「熱いねー」だとか周りが冷やかすなか、彼女は「ちょっとうるさいなー」と笑いながら、みんなの元に帰って行った。


記憶力に自信はない、だから思い出せなかった。


彼女の口元にほくろはあっただろうか。 


そして、彼女はあんなに明るかっただろうか。 


気軽に男子生徒と話す様な人だったろうか。

彼女の言ったセリフだけは覚えている。 


「もっと明るくて少しセクシーなの。私が作った私」

それから彼女とは話してない、例の夢も見ていない。

彼女の変化については誰にも話してない。 


内緒だ。




そしてもうひとつ。

これは僕が作った話だって事も内緒だ。

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