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対局時の思考

羽生善治九段の対局時の思考について書かれた対談を見たのでそこら辺についてまとめる。蛇足ではあるがポケモンでも例えてみる。



対局時の思考

ざっくりまとめるとこんな感じ。それぞれの段階で使われている能力が違うのが結構面白い。



直感

具体例が無いとアレなのでポケモンで例える。

PTはこれで。自分の選出はペンドラー・サメハダー・ドンファン、相手の初手はピカチュウにしておこう。


この場合こちらが選べる手はペンドラーの技4つ+控え2匹への交代合わせて6手である。

この中から自分は無意識のうちに「どくびし」「どくづき」以外の選択肢を消している。それ以外の手はクソ弱いからだ。

当たり前すぎて意識すらしていなかったがここで「直感による絞り込み」が行われている事はほぼ間違いないだろう。

この直感による絞り込みは相手の行動に対しても行われる。

相手が取るであろう手は(型・構成が分からない以上)ほぼ無限に存在する。絞り込まなければやってられない。

この場合であれば相手は「ピカチュウの10万」「カビゴンへの交代」しか取らないと予想する。

理由はもちろんそれ以外の手がクソ弱いからだ。



読み

直感で自分の行動を「どくづき」「どくびし」・相手の行動を「ピカチュウの10万」「カビゴンへの交代」まで絞り込んだ。

次は読みに入ろう。状況を振り返る。相手のPTは

であり自分の選出はペンドラー・サメハダー・ドンファン、相手の初手はピカチュウである。

ここから未来をシミュレーションする。


「ピカチュウの10万」の場合

どくづき⇒ピカ確2⇒10万⇒ペンド確2⇒分岐発生⇒どくづきorどくびし(10万orカビ交代)⇒ピカ居座りならどくづきで上から縛れるけど交代されたら少し辛い⇒どくづき・カビ交代選択⇒ここでまた分岐発生…

どくびし⇒ピカ無傷10万確2⇒分岐発生…

「カビゴン交代」の場合

どくづき⇒少ダメージ+30%毒⇒分岐発生…

どくびし⇒無ダメージ(裏削り)⇒分岐発生…


とまあこんな感じ。「プロでも十手先は読めない」の感覚が分かって頂けただろうか。

このような分岐の大発生(数の爆発)により人間による先読みにはどうしても限界が来てしまう。その為羽生先生も

仮に十手先を計算したとしても自分が予測しない手を指されてもう一回そこで考え直すケースが殆どです。実際の対局は暗中模索で続けていく事が多いですね。

と仰っている。

読みはそれ単体で成立しているというより後述する大局観の補助の様な役割を持っているのかもしれない。



大局観

読みには限界がある事が分かった。ではどうするか。ここで登場するのが「大局観」である。ちなみに大局観とは

ボードゲームに置いて、部分的なせめぎ合いにとらわれずに、全体の形の良し悪しを見極め、自分が今どの程度有利不利にあるのか、堅く安全策をとるか、勝負に出るかなどの判断を行う能力のこと。

である。

また状況を振り返る。相手のPTは

であり自分の選出はペンドラー・サメハダー・ドンファン、相手の初手はピカチュウである。

そして直感で自分の行動を「どくづき」「どくびし」・相手の行動を「ピカチュウの10万」「カビゴンへの交代」まで絞り込んだ。


ここで仮に大局観により「サメハダーで3タテする」の指針が一番適切だと考えたとする。

するとゲームの目的が「相手3体を倒す」から「相手3体をサメハダーの噛み砕く圏内に入れる」となる。

こうなると↑の選択肢に対して

どくづき打てば10万⇒10万ルートならピカチュウ倒せる、10万⇒カビ交代ならカビ毒チャンス+がむしゃら削り、カビ交代ならカビ毒チャンス×2でいずれも削り出来て○

どくびし打つと10万⇒10万でピカに倒される、10万⇒カビ交代はありえない、カビ交代もどくびし刺さらない…と相手のHP削れず×

という感じで短期の読みだけでも行動の指針が発生する事によりある行動への評価をより正確に下せる様になるのである。


プロはこの指針をより正確かつ具体的に定める事が出来る。

その為ある手への評価がより正確になる他この指針に沿った手以外を選択肢から排除する事で脳味噌を節約する事も出来るのである(多分)。

筆者にもこのような技術があればもっと強くなれるのかもしれないが前述したとおり大局観の大本は勘・感性であるため再現が難しい。

ここは大局観の研究の進歩に期待したい所だ。



最後に

対談の中で羽生先生は

若い時は経験も何もないのでひたすら読むだけなんです。年齢を重ねると「いかに手を読まないか」という大局観が身についてきます。無駄な読みを省いて「ここは守るべきか攻めるべきか」「長期戦にするか急戦調で行くか」という方針をパッと判断します。

と仰っていた。

筆者は初心者と上級者の違いについてよく考えるのだが今回の話を通してそのカギが「大局観」にあるのではないかと思った。

大局観自体前述した通り再現性の無い技術であるためアレだが機会があればもう少し詳しく調べてみたい。



おしまい