週記44【颱風】

ちりんちりんちりん
いらっしゃいませ。
こつこつこつこつこつこつ
ぎぎいー
あれ、クリームソーダ、辞めたのかい?
ああ、はい。寒いし。そろそろ、まともなコーヒーも飲めるようにならなきゃな、と思って。
確かに、値段も安いからね。カフェラテよりも、豆乳ラテよりも、クリームソーダよりも。
はい。百円ぽっちの違いですけど、毎日頼んだとして36500円余分に払うことになりますから。
塵も積もればなんとやら、だな。
でも、思ったんですけど、コーヒーとラテの違いって何なんですか?
それは、コーヒーにミルクを入れるかどうかじゃないか?
ですよね。でも、それだけですよ。しかも普通のコーヒーと同じ容量ですからね。てことは、コーヒーの量、減ってるんですよ。
かちっ
すうう
ふー
でも、その分手間がかかるじゃないか。普通のコーヒーには必要なかったミルクを用意し、ミルクを入れる。金額が上がるのも当たり前だろう。
でも百円ですよ、百円。一杯百円は、ちょっとやりすぎだと思うんですよ。
何言ってるんだ。コンビニのATMで色々するときに手数料がかかるだろう。それと一緒だよ。
一緒じゃないですよ。
一緒だよ。もっと言えば、正直カフェラテの方が良心的だ。あれ百円だけ下ろそうとしても手数料で百円かかるんだぞ?倍かかるんだぞ、倍。
いや、小銭下ろせるATMなんてなかなかないでしょ。
ほら。小銭も下ろせないようなATMでさえ手数料を取ってくるんだ。それに比べたら、君が余分に払う百円は、店員さんの手間と等価だと思わないか。
まあ、それと比べたらそうかもしれないですけど。



ずずず

アイスコーヒーひとつ。
かしこまりました。




がたっ
コレ、何?
分かんないです。前の客の忘れ物かな。
サイコロみたいだけど、目がないな。
がさがさがさ
何に使うんでしょうね。
がたん
うーん。あ、あれじゃないか?昔、教育テレビでこんなキャラクターがいただろ。
ああ、ぼてじん。
そうだ。ぼてじん。よく名前覚えてるなあ。
好きだったんで。でも、ぼてじんなら、面に文字が書いてあるはずですよ。
あれだ。これは、自分で好きなフレーズが書ける、みたいなやつなんじゃないか。
ああ、ありそうですね。そういうの。でも、ぼてじんの顔もないですよ。全面、まっさらです。
じゃああれだ。顔も自分の好きなように描けるんだ。
ああ。でも、それじゃあぼてじんじゃなくなるんじゃないですか?ぼてじんみたいな奴、にしかならないですよ。
じゃあ、本当に何なんだ、これは。
全然分かんないですね。




がたっ
トイレ。


ぎぎぎい
ばたん




ぎぎぎい
がたん


ぎぎっ

何あれ。
何がですか。
トイレのやつ。
何ですかそれ。今日トイレ行ってないんで分かんないです。
これがあったんだよ。これのもうちょっとでかいやつ。色違いの。
本当ですか?
こんなことで嘘はつかないよ。なら自分で確認してくればいい。
えー。


ぎぎぎい

ぎぎぎぎばたん

ことん
確かに。こっちのほうがちょっと茶色い。なんか、ぼてじんの友達みたいな感じですね。
え、ぼてじんって友達いたのか?
忘れました。
忘れたのか。
多分いないです。
いないのか。取ってきちゃったのか。
はい。サイズ確認したくて。本当に、ぼてじんよりちょっと大きいですね。
そんなに私は説得力がないのか。
説得力がどう、とかより、さっき初めて見たものと、今初めて見たものを、並べずにサイズ比較なんてできないだろ、と思って。しかも合ってるし。何ですかその、一度見たものの大きさを頭の中で比べられる能力。
義務教育で身につくだろ、それは。
あれ、このでっかい方、なんか点ありますよ。
本当だ。黒点だ。もしかして、ここだけちょっと冷たいんじゃないか?
これ、やっぱりサイコロだったんじゃないですか?
おい無視するなよ。あとこれは絶対にサイコロではない。
どうしてそう言い切れるんですか。
サイコロの目は、上から塗るんじゃない。削って作るんだ。

がさがさ
ほら、この通り。
ああ、ほんとだ。というか何でサイコロなんか持ってるんですか。
何かの拍子で内ポケットに入れて、そのままになってるだけだ。とにかく、この二つはサイコロじゃない。削れてた痕跡もないし、そもそも1の目は赤いはずだからな。
じゃあ、なんですかこれ。
かちっ
すうう
はああ
君は鈍感すぎないか。この黒点。どうみてもあれだろう。
え。ほんとですか。
まだ何も言ってないよ。
いや、ちょっと見当はついてました。これレンズですよね。
そうだろうな。つまり。
誰かがトイレを盗撮しようとしている?
そういうことだろう。



いや、警察に言いましょう。
いい。いいいい。警察沙汰にする必要もない。
何言ってるんですか。いつから付いてるかも分からないんですよ。どれだけの被害者がいるかも分かりません。警察沙汰になる前に、警察沙汰にしておかないと。
がしゃん
あ。
こっちも。
いや、ちょっと待ってください。壊すんですか?
そりゃあ、そうだ。壊せば大丈夫だ。
いやいや、メモリとかに保存されてたとしたら、これを壊しても関係ないんじゃないんですか。
君は本当に慎重だな。将来が心配だ。
どういうことですか。
すうう
ふうう
もう被害者は存在してる。それは仕方ない。被害を最小限に抑えるのも大切だ。しかし、元凶があるのならまずはそれを断ち切る。そうしないと、最小限の被害がたくさん出現してしまう。まさに、何かも積もれば山になる、というわけだ。
塵です。さっき言えてたでしょう、そっちは。
だから、こっちのぼてじんも、壊す。
いやいや。こっちはレンズも何も付いてなかったですよ。壊す必要はないでしょう。
どうせ盗聴器かなんかだよ。まあ、それも、壊せばわかる。
ああ壊すのは良いですけど、別に肘じゃなくてm




音声はここで途切れた。





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