見出し画像

なぜ僕は「竜とそばかすの姫」に魅了されるのか

今日、『竜とそばかすの姫』を見てきた。率直に、非常に良い作品だと感じたし、ちょっと泣きそうになった。

一方で、噂によると、本作は案外賛否両論となっているようで、やはり人によって見方が色々あるのだなぁ、と思った。なので、僕個人としての視点で、なぜ本作が魅力的だと感じたのかを書き記してみようと思う。

★★★★★ネタバレあると思うので、注意してください★★★★★

圧倒的な映像と音楽

まずシンプルに、映画序盤、仮想空間「U」の映像と、常田大希作詞作曲・歌:中村佳穂による楽曲“U”のサウンドが圧巻だ。

YouTubeの画像では感じられないが、立体感のある映像は肉眼ですら3Dのように感じられるほど綺羅びやかで美しい。また物語後半の大合唱シーンの映像もまた壮大な光の魔法がかかったようで美しく感動的である。

正直、これを見るだけでも映画館に足を運ぶ価値は十分だと思うが、僕が魅了された理由はこの観点ではなく、むしろ作中随所に描かれる社会の暗部にまつわる部分だった。

作中で描かれる社会課題

本作中で描かれるインターネット上の仮想空間「U」では、ログインするユーザーの生体情報に基づいてアバターが自動的に生成される。そして、「竜」はアバターにもかかわらずその醜い容姿と行動の凶暴性を揶揄され、恐れ忌み嫌われる存在として認識されている。

「生体情報が醜いアバターを生成する」ということが僕は本作の肝だったのだと思っている。実際、竜の正体は14歳の中学生で、父親からの虐待を受けて、世の中の「助ける」という言葉に完全に背を向けた存在だ。つまり、社会に絶望を抱き、破壊的衝動が生体情報から生成されるアバターにすら反映されてしまっているほど彼の心は荒みきってしまっている。ともすれば、おそらく彼は「U」内での暴虐では済まず、いずれ実父を手にかけてしまうことすら想定できる存在なのだと僕は感じた。

そういった背景は当然仮想空間上では理解されることなく、ネット社会にはびこる同調圧力や、「自己中心的な正義」を振りかざして攻撃を加えようとする集団によって責め立てられる。現実でもバーチャルでも敵意に囲まれ、「信用」という言葉を失くしてしまった14歳の少年。そんな見ず知らずの他人を救おうと思ってしまうことの是非を問うてすらいる、という本作の主題に僕は作中度々泣きそうになってしまった。

インターネット上での誹謗中傷は、幾度となく取り沙汰され、瞬間的には人々に自戒を植え付けつつも、すぐに忘れ去られてはまた次の標的と被害が現れてしまう。そんな世界の有り様に対するメッセージを含んだ作品は、『竜とそばかすの姫』に限らず昨今多く展開されている。ゆえに本作がこの点のみに優れていた、というつもりは無い。

僕がこの作品に対して見出した光明が二つほどあった。

二つの世界と二つの光明

一つは、すず=Belleという存在。そしてもう一つが、すずの幼馴染である「忍くん」の言葉だった。

前者は言うに及ばず、「もうひとりの自分」を体現した存在としての論考なので、僕がわざわざ書き記すことではないと思うので、後者の観点について書いてみようと思う。

忍くんは作中、記憶がおぼろげではあるが、だれかに「すずのお母さんみたい」と表現される。「大丈夫?」「言ってみな」と、母親のようにすずに幾度も語りかける。つまるところ、すずの庇護者としてありながらも、物語後半では、Belleがアンベイル(アバターを捨てて本当の姿を晒す)する後押しをする存在ともなる。すずの親友たる「ヒロちゃん」がすずのアンベイルや素顔での歌唱を止める一方、忍くんは真逆の行動を促すこの対比は、父性や母性という言葉とはまた違う、支援の有り様の多彩さを表しているようにすら感じた。(この文章を書いている自分的にもまだしっかりと言語化できない感じがするので、このあたりはもう一回映画を見て再考したいと思う)

見守りながらも、ときに背中を押すということはリスクが伴うことではあるものの、同様にBelleがすずであることを知りながら見守り続けた5人のコーラス隊員にはできなかったことをやる、という真の理解者然とした姿に、青臭くも涙しそうになってしまったわけだ。

そして大衆が、本来のBelleの姿を受け入れ、すずの姿を前に合唱し、涙するシーンに僕は大きな光明を見出したように思う。自身の本当の魅力は自分では見いだせないとともに、それを受け入れてくれる存在が必ずいるのだ、ということを伝える象徴的なシーンであったと思う。

そういった点もあって、僕は本作に、社会描写の妙と人間関係の妙を感じてしまい、まんまと魅了されてしまったのである。

最後に

僕は本作を見るまで、佐藤健という役者を侮っていた。彼がただのトレンディ俳優ではなく、圧倒的な表現力をも携えた本物の役者であると感じてしまった。

と同時に、賑やかし的に入れられたのかと思っていた幾多りらの表現もまた、初の声優活動だとは思えないほど素晴らしいものだった。彼女の表現力の幅の広さや柔軟性にも感銘を受けたことも事実として書いておこうと思う。

あとはまあ、「自らの正義を振りかざす自警団の存在」や、「竜」に対してネットリンチを繰り広げる大衆に対する嘲りや、一方でSilent Majorityとして実在していた存在に共感の念も持っていたが、まあそこは言を控えておこうと思います。

ちなみに僕はディズニー映画をほとんど見たことがなく、『美女と野獣』も見たことがないので、そのあたりについての考察はできなかったです。

あー、あと、僕は『マクロスF』のような、音楽とアニメーションが見事に融和した作品が大好きってのもまた『竜とそばかすの姫』に感銘を受けた理由の一つであることも明らかですので。

以上でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?