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【地域とつながり、未来へ! 男鹿海洋高校】おとなになるのがたのしみなおがになるために vol.5(最終回)
男鹿市船越に、保育所型認定こども園「船越こども園」の新設が予定されています。この連載は、設計を手がける建築家の三浦丈典さんが男鹿の人・もの・暮らしとのであいを通して「未来の男鹿にどうあってほしいか」をテーマに市民の今の願い、思い、小さな声を集めた記録です。
最終回は県内唯一の水産科を備えた男鹿海洋高校へ。おとなとこどもの中間にいる高校生から見た今の男鹿、未来の男鹿はどう見えているのか、お話しを伺いました。
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登壇者
●秋田県立男鹿海洋高等学校 校長 浅野 博之、食品化学科2年 齊藤 祥、海洋科2年 近藤 亜樹
●株式会社スターパイロッツ 三浦 丈典
於/秋田県立男鹿海洋高等学校
未来をつくる教育を
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三浦 僕たちは船越にできるこども園の設計を担当しているのですが、それが男鹿市のこれからの子育ての大きな拠点となり、ここでこどもを育てたいっていう人が、どんどん増えていくようにと願いを込めて、お仕事させていただいています。
そして、生まれた赤ちゃんから、こども園を経て、小学校、中学校、高校と成長する中で、おとなになるのが楽しみに感じるようなこどもが、増えていってほしいという願いがあってこの連載が始まりました。
これまでは地元で楽しく働いてる方とか、今までになかった暮らし方をしているおとなに話を聞いて、これからのこどもたち「自分も将来の選択肢がたくさんあるんだな」「こんな生き方もあるんだ」という思いを伝える内容だったのですが、今回は初めて学校にお邪魔してこども・おとなの間の高校生のみなさんが、どんな勉強をして、どんなふうに社会に出ていくのか、生の現場でのお話をお伺いできればと思っています。
浅野校長 はい。よろしくお願いします。
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三浦 海洋高校さんって、本当に特徴のある高校ですよね。
浅野校長 そうですね。県内には1校しかないですからね。
三浦 生徒さんは 県外からも集まって来ているんですよね。県外から来る方は、寮があるんですか?
浅野校長 ありますね。でも男子寮なので女性は入れないんです。なので、アパートで暮らしています。
三浦 高校生が1人暮らし! それだけわざわざここに来たいっていう思いがあるってすごいことですよね。
浅野校長 そうですね。県外から来る生徒は、水産に興味があって、やっぱり覚悟を決めてきていると思います。
三浦 県外からもいらっしゃるようになったのはここ数年ですか?
浅野校長 去年からですね。「地域みらい留学」という国内留学の制度がありまして、 その制度から3名の生徒が来て、今、1年生に在籍しています。わざわざ県外からでも強い思いで志望してもらえるのはうれしいですね。
三浦 でも、この高校での3年間を通して入学前よりも海洋に関心が強まるっていう生徒さんもきっといますよね。
浅野校長 そうですね。たくさんいますね。
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三浦 どんな瞬間にそのスイッチが入るんでしょう。
浅野校長 やはり、実習が多いと思いますね。先生が興味付けできるような、いろんなしかけをしながら実習をしていますので、生徒の進路選択のきっかけになるのは実習がメインだと思います。
また、「1級小型船舶」や「ダイビング」といった資格を取得するに従って、「この資格を取って、活かせる仕事に就きたいな」ということも生徒が出てきています。
三浦 たとえば実習でも、サバ缶を1から作って、それが売られて経済になる、そうやってダイレクトに社会とつながる経験は、普通の高校生はなかなかできないですよね。
浅野校長 そうですね。
三浦 身近な問題を解決するっていう動機がないと、何のためにやっているかわからなくなってしまう。やっぱり海の問題、漁業の問題を学んだり、機械が壊れたら直すとか、どうやったらサバ缶が売れるかとか、生徒さんが直面する課題はきっとすごく身近で具体的で。直面するさまざまな問題の解決方法を自分で考えるというのは最先端の教育なんじゃないかなって思いますね。
浅野校長 そう言っていただけると光栄ですね。
社会で 男鹿で 活躍するおとなになるために
三浦 卒業後の進路で、時代の移り変わりというか、10〜20年前に比べて、こういう変化が起きてるな、と感じることはありますか。
浅野校長 おそらく昔の感覚だと、本校を卒業して漁師になる、船乗りになる、といった方々が多かったとは思いますけど、 今はそういう生徒は少なく、水産という体験をして、地元の企業に勤めるというような生徒のほうがむしろ多いと思いますね。
三浦 そうですか。でも 実習して、その課題を自分で解決したり、いろんな人と協働したりという経験を経て卒業する生徒さんは地元の企業さんにとっても頼もしいでしょうね。
浅野校長 そう思ってもらえていたらうれしいですね。地元の企業さんにも採用してていただいていますし、水産加工食品さんや、スーパーさんですとか。あとは、海洋系で言ったら、曳船(えいせん)関係等、タグボート系にも就職の実績があります。
三浦 タグボート?
浅野校長 はい。大きい船が港に帰ってきたときに、周りを小さい船が囲んで引っ張っていますよね。
三浦 ああ!
浅野校長 そういう会社に就職する生徒もおります。あとは、海技士という資格にも合格しています。
三浦 海技士ですか? 初めて聞きました。
浅野校長 海技士は船に乗るための資格ですね。ただの船乗りじゃなくて、ゆくゆくは船長になるような人たちです。
昔はこの学校に専攻科という高校3年間学んだ後に、さらに専門性を深める科が併設されていました。
三浦 それは、えっと、高3の先にあるってことですね。
浅野校長 そうです。本校にまだ大きい実習船もありました。「船川丸」といって、ハワイ沖に実習でマグロを取りに行ってたんですけど。
三浦 ハワイに?!
浅野校長 はい。その海技士の免許を、昔はその専攻科で勉強して取っていたんでしょうけど、 今はもうなくなってしまって。でも、生徒がどうしても、船員になりたい、海技士の資格取りたい、ということで、先生方が放課後に補修のような形で指導して、試験に合格した子が今の3年生に2人います。
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三浦 海に関わる、今までなかったような仕事や新しい働き方というのはあるんですか。
浅野校長 男鹿だと洋上風力関連の仕事はこれから増えてくるかもしれないですね。私たちは学習指導要領のもと授業をする必要があるので、洋上風力に特化した授業ということはできないですが、洋上風力系の船員やメンテナンスするための乗組員の育成に向け、いかにしてそういう職業に対する意識づけをしていくかっていうことが我々の現実的な取り組みになるのかなと思います。
三浦 その職業とか働くことに対する意識づけを高校生たちに伝えるときには、どういったことを大切にされていますか?
浅野校長 代表的なものは講演ですかね。教員だけでは伝えきれない生の声を外部の講師を呼んでお話しいただいています。
三浦 学校外の人の話が聞けるっていいですよね。いろんな方が来てくださるのも、ここの教育に可能性を感じてらっしゃる企業さんが多いということですよね。
浅野校長 たくさんご依頼をいただくので、ありがたいことですね。
地域とつながる文化祭
三浦 普通の高校とここは違う、ということはありますか? 実習以外に、運動会ですとか、イベントですとか。
浅野校長 大きく違うのは、昨年度から文化祭を男鹿市とタイアップして行っている点ですね。男鹿市では「男鹿の逸品コレクション」と銘打ち地域事業者の展示販売やステージのイベントを開催していますが、そこに、海洋高校もどうですかと言っていただきまして。文化祭を学校ではなく逸品コレクションと一緒に男鹿市文化会館で2日間かけて行いました。
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三浦 学校の外に出て文化祭! いいですね、産官学連携ですね。
浅野校長 食品化学科の生徒は缶詰の販売をしたり、普通科の生徒は逸品コレクションにブース出展している事業者さんの売り子のお手伝いをしたり。
三浦 へぇー、おもしろい。
浅野校長 あとは近海でのイカ釣り実習、アナゴ実習等で使う小型船が2隻ありますが、接岸して、市民の方に自由に見ていただけるようにもしています。それも、県内の他の学校には、もちろんないことですよね。
あとはナマハゲ太鼓があげられます。
三浦 ああ、ナマハゲ太鼓!
浅野校長 郷土芸能部のナマハゲ太鼓も有名で、多くのオファーがあるんです。
三浦 やはりたくさんの人たちに愛されているんですね。
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——— ここで、食品化学科の「サバ缶」づくりの実習を見学へ。生徒さんにもお話しを伺いました。
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食品化学科2年 齊藤 祥さん
三浦 手際が良くてすばらしかったです。少しお話を聞いてもいいですか?
齊藤 よろしくお願いします。
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三浦 缶詰を作ってて何が一番楽しいなと思いますか?
齊藤 やっぱり、販売して目の前で買ってもらえるのはうれしかったです。
三浦 すごい勢いで売れるんですよね。
齊藤 売れますね、すぐに完売でした。
三浦 いいですねぇ。実習や授業以外だと、学校生活で何が楽しいですか?
齊藤 部活も楽しいですね。バレーボール部でキャプテンをやってます。
三浦 キャプテンなんだ! じゃあ部活は気合いが入るよね。
齊藤 はい。楽しいですね!
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三浦 高校を卒業したら、どんなふうに進みたいか、イメージはありますか?
齊藤 今は食に関する仕事に就きたいなとは思っています。
三浦 高校に入る前と今とで、食とか、海とかに対するイメージは変わりました?
齊藤 中学生のときは食にはあんまり興味がなかったんですけど、海洋高校に入ってちょっと興味が湧いてきて。
三浦 へぇ。今は自分でも料理するんですか?
齊藤 たまに、します。
三浦 やっぱり魚もさばけるんですか。
齊藤 まだちょっと、練習中ですけど、でも3枚下ろしはできます。
三浦 すごい。
齊藤 内臓を取ったりとか、魚をさばいたりとか、高校に入って初めてやりました。
三浦 それで、食に興味を持って、食関係の仕事に就きたいって思うところまで2年生で来たっていうのはすごいですね。
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三浦 齊藤くんは男鹿生まれ?
齊藤 はい、男鹿生まれ男鹿育ちです。
三浦 卒業後は男鹿で働きたい?
齊藤 そうですね。
三浦 男鹿のまちで好きな場所とかよく行く場所ってあります?
齊藤 そんなに外に出ないですね。お家と学校、たまにスーパーに買い物に行くぐらいです。
三浦 友だちと遊びに行くとしたらどこに行くんですか?
齊藤 電車に乗って秋田(市)まで行きますね。
三浦 そうかぁ。男鹿もとってもすてきなところなので、もっとまちを楽しくしていくのが私たちの使命かもしれないですね。お忙しいところありがとうございました!
齊藤 ありがとうございました。
——— 続いては、編網(へんもう)の実習をする海洋科の教室へ。
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海洋科2年 近藤 亜樹さん
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三浦 近藤さんは男鹿出身ですか?
近藤 はい。
三浦 海洋高校の海洋科を志望したきっかけは?
近藤 もともと海が好きで、男鹿の海もきれいだなって思ってたんですけど、これから海を守るためになんかできることあるかなって考えたときに海に関する知識をつけたいと思ってこの科に入ろうって思いました。
三浦 すばらしい。海が好き、ということは、漁師さんになりたいっていうよりは、もう少し広い意味で海に関わりたいなっていう思いですか?
近藤 はい。
三浦 例えばどんな仕事とか、どんなことに関わりたいとか、目標はありますか?
近藤 1番興味があるのは水族館。あとは行ける気はしないですけど、海上保安庁とか、海の安全を守る仕事にも興味はあります。
三浦 ほう! そしたらたしかに食品科学科じゃなくて海洋科だよね。
近藤 そうですね。
三浦 まだわかんないと思いますが、将来はやっぱり男鹿で暮らしたいって思いますか?
近藤 ですね、やっぱり男鹿で。これだけ海が近い環境で、恵まれているなって思います。
三浦 男鹿の町で好きな場所とか、よく行く場所とか、どこかおすすめの場所はありますか。
近藤 水族館がある戸賀の方面の海がすごくきれいで。どこも男鹿は綺麗なんですけど、あそこだけ別世界って思うくらい海がきれいで好きですね。
私たちもvol.2の取材で戸賀湾におじゃましました
三浦 今、学校の授業で1番好きな授業は何ですか。
近藤 「コウカイケイキ」っていう海洋科の専門教科の授業があるんですけど。
三浦 「コウカイケイキ」? 漢字がわからない。コウカイは海ですか、航海。
近藤 はい。航海に、計算の計に、器。
三浦 「航海計器」、なるほど。それはどんな授業ですか?
近藤 海図の記号の意味だとか読み方だとかを勉強する授業です。
三浦 へぇ、地図記号みたいな記号があるんですね。そういうことを学んだ上で海を見ると、見慣れた海もだいぶまた違って見えるんでしょうね。
近藤 そうですね、飽きないですね。
三浦 高校に入ってみて、これが楽しいなって思うことはありますか?
近藤 うーん、思ってたより楽しかったってことばっかりです。授業とか実習もそうだし、 クラスの人たちもみんなおもしろい人だし。
三浦 いいですねぇ。学校のイベントとかで印象に残っていることとか、部活とか、なにかありますか?
近藤 そうですね、やっぱり文化祭ですかね。 去年と今年とは男鹿の逸品コレクションと一緒に開催して、私たち海洋科は魚釣りゲームを作ってお子さんに遊んでもらいました。 いろんな地域の人と関わることもできて、楽しかったです。
三浦 地域と繋がって学校以外でも学びがあるのは海洋高校の良いところですよね。これからも海のある男鹿のまちを存分に楽しんでください。ありがとうございました!
学びを広げて未来へ!
三浦 素敵な生徒さんたちに出会えました。ありがとうございます。
最後に、男鹿工業高校との統合が予定されているとお聞きしましたが、それも含めて、これから自分たちの学校がこういう風になってほしいなというイメージはございますか?
浅野校長 男鹿工業高校さんと統合の予定なので、工業と水産のお互いの科の特色を生かして横断的な学びができるようになったら、地元や関係企業に、より貢献できる学校になれるのではと思っています。それが使命だと思っていますね。
三浦 統合と聞くとついついネガティブなイメージを持ってしまいますけど、お互いに関係性を築いて新しい学びが生まれると思うとワクワクする出会いですね。
浅野校長 そうですね、この男鹿を盛り上げる大きな材料になるんじゃないですかね。
三浦 まさに。「おとなになるのがたのしみになるようなおが」にしていけるように我々も頑張ります。お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました!
浅野校長 ありがとうございました!
三浦丈典 Takenori Miura
建築家、スターパイロッツ代表。1974年東京都生まれ。大小さまざまな設計活動に関わる傍ら、日本各地でまちづくり、行政支援に携わる。著書に『こっそりごっそりまちをかえよう。』『アンビルド・ドローイング 起こらなかった世界についての物語』『いまはまだない仕事にやがてつく君たちへ』(いずれも彰国社)がある。
この連載は最終回です。ご愛読ありがとうございました!
おとなになるのがたのしみなおがになりますように!
企画制作:See Visions
イラスト:斉藤 弥世
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