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【こどもを見守るババヘラアイス】 おとなになるのがたのしみなおがになるために vol.3

2024年5月、保育所型認定こども園「船越こども園」の新設が予定されています。この連載は、設計を手がける建築家の三浦丈典さんが男鹿の人・もの・暮らしとのであいを通して「未来の男鹿にどうあってほしいか」をテーマに市民の今の願い、思い、小さな声を集めた記録です。(全6回/隔月連載)

人が集まる場所に現れるババヘラアイスはみんなの人気者。まちのこどもたちを定点観測のように見守るババヘラの売り子さん3名にお話を伺いました。ババヘラのパラソルの下から見えるまちのうつりかわりとは。


登壇者
●進藤冷菓 ババヘラ販売員 (写真左から)佐々木直子・登藤トミ子・中田行子
●株式会社スターパイロッツ 三浦 丈典
於/進藤冷菓事務所


退職後に選んだ「ババヘラ」というセカンドキャリア

三浦 進藤冷菓さんは、まちなかでババヘラを販売して、一種の定点観測のようにまちの変遷をご覧になってきたんじゃないかなと思いますし、ご自身もお子さんを育てた経験がお持ちだと伺っています。その観点から、お子さんを取り巻く環境の変化や新しいこども園に期待することなどお伺いできたらうれしいなと思っています。
みなさんは、ババヘラさんとしてアイスを盛るようになってからどれぐらい経つんですか?

中田 私は16年。

登藤 私は19年です。

三浦 えー! お二人とも長い!

佐々木 私は、んだなぁ、登藤さんと同じくらいだべか。

登藤 19年?

佐々木 そのくらいになるんじゃないかな。

登藤 私たちは前の仕事を退職してからババヘラの道に入りました。

三浦 退職後にまだ元気だし、人と色々関わりたいっていう方がババヘラのおばちゃんになっていくんですね。
ちなみに、おじいちゃんは就職できないんですか?

中田 男性だと送迎の運転手になる方はいますね。あとは、昔から店頭に立ってる人もたま~にいます。

三浦 なるほど。今は何名くらいババヘラを盛ってる方がいらっしゃるんですか?

中田 今は14人。昔は40人くらいいたのだけど、最近は新しい人が入ってこなくなってきたの。

三浦 そうなんですね。みなさんを見てると、退職後の時間を有意義に使っていて、とても幸せそうですよね。

佐々木 働く責任感はいい刺激になってますね。社長は場所の特性も、働く人の特性も知り尽くしていて、私たちのことを考えて手を尽くしているのでそれに応えなきゃいけないなって思います。

登藤 んだなぁ、ありがたいなあ。


今と昔の男鹿のこども

三浦 みなさんがこどもの頃はどんな生活でしたか?

登藤 私は小学校まで25分間歩いて通ってました。今は親御さんが送り迎えすることも多いけど、当時はスクールバスも送り迎えもなかったからね。25分間、田んぼ道。学校まで往復歩くのよ。

中田 私が幼い頃は隣近所にたくさん友だちが住んでいて、よく一緒に遊んでました。でも今は、こどもが外で遊んでる光景を見ることが少なくなってきましたね。コロナの影響もあるし、ゲームとか家の中の遊びが充実して、さらには外遊びは危ないからやめなさいって言われることもあるみたいでね。私はこどものうちにいろんなことを経験させるために、やっぱり自然の中で遊ばせたいなって思います。

三浦 なるほど。最近よく、「暗黙知」っていう「言わなくても当然わかること」がわからないこどもが増えているんですって。川は高いところから低いところに流れるとか、葉っぱは秋になると赤くなるとかがわからない、その代わりやたら計算が早いとか読み書きができるとか。
実は、昔のような近所のこどもたちと一緒にいっぱい遊んだとか、おじいちゃんとかおばあちゃんが近くにいていろんなことを話してるとか、そういう経験の中で脳はすごく成長していたらしいんですよね。でもそういうのが少なくなってきていて、当たり前のことを知らない「暗黙知」というのが問題だと言われているみたいです。

登藤 おじいさんおばあさんと生活していれば、いろんなことを教えてくれるんだけどね。

中田 こどもを育てていく上で、お母さんもお父さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、本当はね、先生の一部なんですよ。

三浦 そうか、昔は身近にいろんな先生がいたんですね。

登藤 でも今の子も礼儀正しいんですよ。おとなが喋ってるの聞いているのか、アイスを渡したら、必ず「ありがとう」って言ってくれます。小さい頃から教わってるんでしょうね。私らのこどもの小さい頃のこと考えると、ありがとうってなかなか言えなかったなーって思います。それだけ引っ込み思案だったのよ。

中田 今の子達は堂々と言えるよね。やっぱり教えだよ。おとなたちの。

登藤 私、感動したことがあって。寒い日でも、お子さんたちってアイス食べたいじゃない。だから、遠くにババヘラを見つけるとお母さんたちが「今日は寒いからアイスは買わないよー」ってお子さんに教えてたりするのよね。そうすると、お子さんたちは私たちのところにきて「今日は寒いからまた今度にします!」「頑張ってね!」「風邪ひかないでね!」って声かけてくれるの。おばあさんたちに後で買いにくるからね、なんて言ってくれるのね。私、感動しちゃった。どんなふうに育てるとあんなふうに優しい言葉かけをできるこどもになるかなぁって。

ババヘラの売り子はこどもたちの英雄


三浦
 ババヘラを売る場所は毎回決まってるんですか?変わるんですか?

登藤 毎回変わるの。それも社長が決めるのよ。

三浦 じゃあ顔見知りのあそこのこども、っていうのはあんまりないんですね。

佐々木 ないのよぉ。でも、こどもたちのほうはちゃーんと覚えてくれてて、声をかけてくれます。

登藤 「あー!こないだのおばちゃんだー!」ってね。ちゃーんと分かってるの。

三浦 今は、キャッシュレスとか無人レジとか人と会話しないでものを買うってことがどんどん増えてるなか、わざわざ挨拶して、アイスを盛っているところも見ることができて、ちょっとおしゃべりして、それでまたね、っていう。それのやりとりが自然と生まれるのがババヘラの良さですね。

中田 私最近ね、アイス買いにくるこどもたちにとってババヘラのおばちゃんって英雄なんだなと思って。

三浦 ほぉ、英雄!

中田 本当に心から私たちを尊敬して買いにくるのが伝わるの。だって自分が欲しいものを、きれいに盛って、くれるんだもの。

三浦 たしかに、そのとき、その場で、自分のために作ってくれるって本当に貴重ですよね。

佐々木 幼稚園の年長さんくらいだとね、「私も大きくなったらババヘラのおばちゃんになりたい!」って言うの。それだけほら、好かれてるんだし、私らもそれに応えなきゃいけないし、気合いが入ります。

ババヘラは最先端の福祉?!

中田 でも最近はコロナによってこどもたちと会う機会も少なくなってきて。運動会や学習発表会など、これまでだったらババヘラが出ていたイベントごとも自粛するようになったでしょう。

佐々木 そう、秋田ではね、運動会とか学校行事のときに校門にババヘラがいるんですよ。そこに下校途中の子たちが並ぶんです。お母さんたちは運動会ってばご褒美にアイスをあげるんですよ。

三浦 へぇ! 他県では見たことない光景ですね。

中田 あとね、お墓参りの時期にお寺にいると、帰省した人たちも懐かしくてババヘラを食べたがるんですよ。

登藤 そうね。就職して県外に出て、何十年ぶりに帰ってきたーっていう人もババヘラを食べて「懐かしいなー、運動会のとき並んで食べたよなー」とかって言うのよね。「でもなーあの頃はこういう盛り方しなかったよなー」って。バラの花みたいに盛るの。「花盛り」って言います。

三浦 時代で流行りの盛り方があるんですか?!

登藤 いつからこうなったんだべな。10年以上前だべな、花盛りするようになったのは。

三浦 え?! この10年くらい?!

中田 私が入りたての頃はただ無造作に盛ってたもの。

三浦 へぇ。今は全員花の形に?

佐々木 んだ、ほとんど花盛り。こう盛ればきれいになるなーって試しながら。

中田 私は他の人の盛り方を見て、あ、この人の盛り方きれいだな、この技を盗もうとか考えています。

三浦 常に学び続けているんですね。大学で教えていると、「なんでこんなこと勉強しなきゃいけないんですか」とかってたまに学生から聞かれるんです。たしかに、今勉強していることって将来そのまま使うことは少ないんですけど、いくつになっても学び続けるその習慣みたいなものはとっても大事だな、って、そのために勉強しているんじゃないかな、って僕はよく言っています。結局どうやったら短い間でお客さんと楽しんでコミュニケーション取れるのかな、とか、どうしてあの人は盛るのが上手なのかな、とか、そんなふうに学び続けることが大事ですよね。それに尽きると思います、人生って。

中田 本当にそうですね。学校で習うことは基本ですよ。応用っていうのは社会に出てから。私たちも、ぼーっとしてて天気がいいなーって、ぼーっと座っていればアイスは溶けてしまうし。

三浦 そうですよね。ぼーっとしている間にアイスは溶ける。

中田 朝、自分に割り振られたアイスの缶を見て、自分のところにきたアイスはどんなもんかなって確かめるんです。日によって状態がそれぞれ違うからね。凍り具合を見て、どれくらい時間が経ったらこのアイスは溶けてくれるかな、とか。今日は昼過ぎからしか売れないなーっていう日は缶の蓋をキチッと閉めて陽があたらないようにタオルを濡らしてかけておくとか。そういうふうに頭を使いながらやってるんです。

佐々木 ただ盛ってるだけじゃないのよ~。

三浦 やはり熟年の技が……! 職人ですね。決められた仕事をやるのではなくて、ご自身に決定権が任されてるところがいいんだと思います。やりがいになるし、自分で考えて動くっていうのが楽しいと思うんです。

佐々木 んだなぁ、まだまだボケないべな。

三浦 本当の福祉ってこういうことかなって思いますよね。ぼーっとテレビを見たりお茶を飲んだりするよりも、みんなにありがとうって言われて、頭も使って、楽しくて。ババヘラのような仕事のあり方がもっと全国に広まったらいいのに!

登藤 そうね、この仕事、もうすっごく楽しいのよ~!


こどもでにぎわうまちに


三浦 これからの男鹿はどうなっていくんでしょうね。

中田 私、なまはげ伝承館でアイス売ってたとき、「今のこどもたちはよぉ、やれやれと学校卒業したと思ったら東京の人になってしまって、地元に残ってくれればいいのに」って言ってるお父さんがいましたね。

三浦 ひと昔前は、地方に暮らしていると、こんなまちにいてもしょうがないから東京に行けーって親みんなも言ってたけれど、だんだんその考えも変わってきましたね。

中田 変わってはきたけど、もっと働き場所を作ってもらわないと残れないんだよね。

佐々木 でも私のこどもは東京が嫌だって言って秋田に帰ってきて勤めてるの。田舎暮らしはいいよね、と思う若い人も増えてきたのかな。

中田 そう思う人が増えて、こどもがもっと増えてまちがにぎわってくれればいいなぁ。

佐々木 んだがらなぁ。

三浦 船越こども園(仮称)もこどもでにぎわうまちになるきっかけのひとつになれたらうれしいです。ぜひいつかババヘラで出店しにきてくださいね! 本日はありがとうございました。

三浦丈典 Takenori Miura
建築家、スターパイロッツ代表。1974年東京都生まれ。大小さまざまな設計活動に関わる傍ら、日本各地でまちづくり、行政支援に携わる。著書に『こっそりごっそりまちをかえよう。』『アンビルド・ドローイング 起こらなかった世界についての物語』『いまはまだない仕事にやがてつく君たちへ』(いずれも彰国社)がある。

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