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思い出は売らない

昔、世にも奇妙な物語でみた話で忘れられないものがある。
「思い出を売る男」という話で、私が観たのはとんねるずの木梨さんが主演のものだった。

木梨さん演じる主人公の男は、借金まみれで仕事もしてない。妻と娘がいるけど、愛想を尽かされ出ていかれてしまう。
借金を返済して、もう一度家族と暮らそうと思うけど、お金を手に入れる手段がない。
すっかり途方に暮れていると、思い出を高額で買い取ってくれる店を発見して、という話だ。

主人公の彼は、借金を返すために思い出をお金に変える。
昔の友達との思い出、初恋の思い出、売った思い出は、彼の記憶の中から消えてしまう。
だから、友達に会っても、初恋の人に会っても、彼はもう何も思わない。嬉しいも懐かしいも感じない。

物語はハッピーエンドで終わったけれど、私は大切な思い出を忘れていく主人公の姿が悲しくて、大人になった今も覚えている。

うまく言葉にするのが難しいんだけど、人間って個人の思い出の集合体のようなものだと思う。

例えば、外見が私と全く一緒のぽん子2号がいたとしよう。私と2号が並んでいても、見た目だけではどちらが私かはわからない。
その時に、私が私であると証明できるのは、私にしかわからない些細な思い出や、noteに綴っている言葉たちや、そういうものなんじゃないかと思う。

逆に、私がめちゃくちゃ美人でスタイル抜群なスーパーぽん子に全身整形したとする。
だけど、見た目が峰不二子みたいないい女になったとしても、選ぶ言葉や思考などは、どうしようもなく私のままな気がする。

同じ本を読んでも、同じライブに参加していても、一人として自分と全く同じ感想を持つ人間はいない。
似たようなこと考えてる人はいても、完璧に同じってことはないでしょ。

家族や友達、恋人など、共通の思い出をたくさん共有している人はいるけど、その時何を感じたか、何を観たかは、それぞれ違うはずだ。

昔、夫にきいてみたことがある。
もしも、私が死んでしまったとする。私の肉体はもうないけど、私の記憶や思考だけが保存されたチップのようなものは残されている。
そしたら、君はそれを欲しがると思う?

夫の答えは、「欲しい」だった。
人によりけりだと思うけど、私も多分夫と同じ答えだ。
肉体はなくとも、思考や記憶、思い出などが、その人を形作っていると思うから。

忘れてしまいたい辛いことや、黒歴史的な思い出も多々あるけど、そういう嫌な思い出もまた、今の私を作ってくれているんだと思う。

過去に浸ってばかりもよくないかもしれないけど、絶対忘れたくない瞬間の一つや二つ誰にでもあるんじゃないかな。
今は無くても、いつかはそういう瞬間があるかもしれない。

そういう些細な出来事があるから、死ななくて良かったな、と思っている。
だから私は、思い出は売らない。金を積まれても、誰にもあげない。

1ヶ月書くチャレンジ
17日目 一番大切なもの











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