『プロメア』に描かれた(描かれなかった)「怒り」について

 6月(*8月じゃなかった)に一度見たきりで、その後いろいろと読みすぎたし、事実誤認があったらスミマセン。差別問題以前に、「怒り」の取り扱い方が私には問題に思えるので、書いてみました。

 『プロメア』の第一の問題はプロットだと思う。そもそもの物語の発端は「社会(満員電車とか、子育てとかだった記憶)においてストレスが限界に達した人がいた」ということだった。それがいつの間にか、「バーニッシュ差別問題」にすり替わり、結局、「社会に生きる人々の怒り」問題には、何のアプローチもないまま終わってしまった……?何の話だったの?というのが外枠の認識。


 第二に、怒りに駆られた人々は、新たに得た能力により反乱を起こすわけだが、以降、「怒りの原因になった問題」が扱われず、問題の根本が「プロメア」であるかのように話が進んでしまう点。「プロメア」は怒りの発露であり、怒りが引き起こした結果としての「行動」にすぎない。単に「怒り」の攻撃性だけをもって否定するのではなく、「怒り」を「有益なもの」とするためには、その根本がどこにあるのか、きちんと対峙することが必要な筈。「怒り」は、とても尊いコミュニケーションとなりうるし、少なくとも「映画における怒り」とはだいたいそのようなものとして描かれるものではないのか。表面的な炎をだけを火消しする行為は、本来「怒り」にそなわっていたはずの意味を無力化する冒涜的行為ではないのか。「プロメアが殴ってきたから悪い。正義で殴り返す」だけの話になっているように見えて、ああ、世界から戦争はなくならないよなあと思えた。
#と思って見ていたら 、「プロメア」の正体が外来生物という話になって、そもそもマジで、「プロメア」に対峙しても、本人たちには全く関係がない設定じゃないか!!なんだこれ!?ははははは、というオチなのであった。

 第三に、彼らから武器を取り上げることをハッピーエンドとして描いているように見えること。(例え話はすべきではないと思うが、敢えて言うと)社会にどうにもならないぐらい追いつめられた人が、頑張って声を上げて、デモやストなど(社会に迷惑をかけることで初めて実現する表現)力を行使して訴えても、「デモやストなんて迷惑。普通に生きている人に対する悪」だと言われて、封じ込められるのを肯定しているみたいだと見えてしまい。『未来を花束にして』の未来に生きているなあと日々思う私には、ちょっと受け入れがたかった。

 などなど、私にとっては、第六、第八ぐらいに差別描写がめちゃくちゃやな!問題が出てくる感じなのであった。

 他者に暴力的な文化を持つ民族とどう向き合うかという問題については、台湾の首狩り族を描いた『セデック・バレ』が素晴らしいです。

 ちなみに、わたしがかんがえたさいきょうのプロメアのラストは、全人類がバーニッシュになる!ですね。炎が怒りの表出であるのなら、全人類、誰の怒りも抑圧されず、否定されない、怒りと怒りをぶつけ合い、燃やしあえ!主張しあえ!と。この世に多様な人々が存在する以上、必ずどこにでも誰にでも軋轢は生じるし、怒りも生まれる。それはとても正しいことだ。だからこそ、自分の怒りを、他人の怒りを、単なる攻撃の炎として見るのではなく、問題を燃やし尽くすための貴重なありがたい熱だと思えればいいのに。しかし、プロメアは「怒り」ではなかった。あの映画には怒りがない……。

 SFだから現代的倫理で断じるのはおかしいじゃないか、というような声もあるみたいだけど、そもそも「プロメア」の設定がSFとしてストーリーに全然馴染んでいない、とってつけたように見えるからこそ、現代的な観点での批評を誘ってしまうのではと思える。設定がSFとしてきちんと機能していて、その世界内で意味を持っていれば、「そういう世界の話」と割り切ってみることが出きるのだが、それが可能なお話になっていないように思う。別の宇宙の生物です!ってびっくりだ!

 そしてやっぱり差別に関する描写は見逃せないと思います。もうちょっとなんとかならんかったかなあと思うのだが、そもそも上記プロットにおける「プロメア」の挿し込み方がおかしいので、どうしたって変な感じになるのではないかなあと思いました。


 今世の中が差別といえば性的マイノリティなんだろうが、むしろアメリカの公民権運動や、日本の植民地時代の同化政策と同列に考えた方が、あの差別の仕方、ラストがどうしてダメなのか、怒りをなかったことにして、抵抗する力を剥ぎ、「同じ」にすることの恐ろしさが、分かりやすいと思う。

 ちなみに、私が今のところ一番大好きなプロット完璧!アニメは『サムライフラメンコ』です(私はものすごく理路整然と作られた2クールアニメだと思っています。なので、『サムライフラメンコ』が破綻していると思われる方とは、多分物語の読み方がちがうかもしれないなあと思います)。

※ちょこちょこ追記しています。

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