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こぼれたコーヒー

「かたっ」

そんな音が古びた静かなカフェの店内に小さく響いた。

あらら、コーヒーがこぼれてしまったようです。

アンティークの机の上にゆったりと立っていたカップは、

今や、すっかり寝転がってしまっています。

コーヒーに「君とは合わないよ」と言わんばかりに。

カップに振られ、成すすべなく、床にこぼれていくしか道は無いコーヒー。

でも彼は、床にこぼれ、拭かれて人生が終わるなんて真っ平ごめんのようです。

なんと、空を飛んだのです。ヒューっと。

コーヒーが空を飛ぶ、こんなこと誰が想像したでしょうか。

彼は、長い間住んでいたこのカフェを抜け出し、旅に出たのです。

目的は分かりません。ただ、彼はひたすら空を駆け巡りました。

居心地のよかったカフェ、良きパートナーであったカップ、彼の全てでした。そこには永遠に戻れないことを、彼は静かに確信しました。

今日も飛ぶ。明日も飛ぶ。明後日も飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶしか彼にはありません。

太陽が応援してくれる時もあれば、雨に邪魔されることもありました。

鳥にからかわれることもありました。

飛び続けてどれだけの日々が経ったでしょう。彼は疲れてしまいました。

もうこのまま、川に溶けてしまおうか。鳥に飲まれてしまおうか。

そんな感情が彼を覆い尽くそうとしていたときです。

ふわふわゆらゆら ふわふわゆらゆら

ふわふわゆらゆら ふわふわゆらゆら

ふわふわゆらゆら ふわふわゆらゆら

何かが近づいてきました。

その子の正体は、牛乳でした。

なんと、彼女は、瓶に振られ、やむなく空を飛び回っていたようです。

彼と同様、長い間飛び続け、もうこのまま雲の一部になってしまおうかと思っていたところでした。

そして、二人はこれまでの空での出来事を共有しあいました。

何日も、何日も、二人は話し続けました。

こんな安らぎの時間はどれほどぶりでしょうか。

そして、二人は、同じ気持ちを抱き始めていました。

これからもずっと一緒にいたい。二人で幸せになりたい。

再び空を飛び始めました。二人で一緒に。

何日も飛び続けました。しかし、不思議と不安や疲れはありません。

そして、ある日、空を飛んでいたところ、地上から美しいピアノの旋律が聞こえてきました。

二人を招待するかのように。

二人は音の鳴る方に向かうと、新しいレンガでできた小さな一軒家に辿り着きました。可愛い、おもちゃのような家です。

ピアノを弾いていたのは、それはそれは小さな少女でした。

赤い髪の似合う、青い目が特徴的な少女です。

ピアノの近くの木製のテーブルには、これまたかわいらしいマグカップがおいてあります。

中身は、空です。

二人はお互いを見て、にこりと頷きました。

二人の"目的地"はここです。

美しいピアノの旋律の音符の上を流れるように二人はその誓いのマグカップに近づき、そして一緒に中に入りました。

赤い髪の似合う、青い目が特徴的な少女

美しいピアノの旋律

かわいいマグカップ

中身はもう空ではありません。幸せで満ち溢れています。

これが、コーヒー牛乳の始まりの物語です。

おわり










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