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第16話 セット図ってなに?

 あかりが、タイムテーブルの最後の時間を埋め、元の位置に戻ると
冴島アキラは「では、これで全員分のタイムテーブルが決まりましたネ」と満足そうに言う。

「第1次ステージのフェス式審査では、来場者による現場投票とミレバTV視聴者のオンライン投票50%、そして審査員票50%を点数にして順位がつけられます」

 スクリーンには審査員の顔と名前が映し出された。

~第1ステージ 審査員~

冴島アキラ BLUE STAGE統括プロデューサー
郷田毅   ボイストレーナー
ミラク   アイドルグループmonolith+
KR3SH    世界的DJ
楓夏    シンガーソングライター
ゲン也   ロックバンドSunset Avenue ボーカル&ギター

 一人一人が映し出されるたび、参加者からは「おぉおおお!」という歓声や「マジ!?」「すごっ!」という驚きの声が上がった。

 さらに冴島アキラはBLUE FESまでのリハーサルなどのスケジュールを説明し、最後にこう締めくくった。「ステージの大きさなど希望通りにいかなかった人もいるでしょう。しかし、いかなる時も…スターとなるミュージシャンは小さなステージからでも輝きを放つものです」

冴島はmonolith+が小さなイオンのステージで踊っていた姿を思い浮かべていた。

「より大きなステージを食ってしまうような、トリやトップバッターを食ってしまうような、ステージを期待しています!!」

えー最後に、業務連絡。今から配る、セットリストとセット図の提出を明日7月27日23時59分までにお願いします。では解散~」

 解散の合図で会場がざわめき始めた。

「サンアベのゲン也が俺たちのライブ見んの?」
「やべー!」
「まじ、俺死ぬ気で練習するわ」

「KR3SHが審査員にくるなんてありえる?」
「ヤバい、会えたらサイン欲しい!」

 特別審査員の豪華な顔ぶれや、想像以上に大きなFESにみな高まっているようだった。

 しかし、あかりは配られたセット図とセットリストの用紙に気を取られていた。

 <なんだこれ…>

 みんなが出口に向かう流れに沿いながら、つみきちゃんとあかりも歩き出す。

「なんかオーディションらしくなってきたね!」とつみきは目を輝かせ、
「楓夏が審査員…!!わたし、楓夏に憧れて弾き語りを始めたようなもんだからさ!」と興奮ぎみにあかりに話しかける。

 あかりはつみきちゃんに合わせて、「う、うん!審査員もみんなすごい人ばっかりだし…まさか3万人規模のフェスを開催しちゃうなんてね」と答えたが、あかりの心の中では不安が膨れ上がっていた。

 ネットでしか活動してこなかったあかりにとって、25分のライブは何もかもが未知の領域だった。あかりがオーディションと聞いて想像していたのは、1曲審査員の前で歌って良いか、悪いか、ジャッジされるというレベルのものだった。200kmマラソンから始まり、BLUE STAGEは本当に予想外のことばかりだ。

 それに、セットリストと”セット図…?”セットリストは知っているが、セット図という言葉は初耳だった。みんな当たり前のように受け入れているところを見ると、普段ライブをやっている人にとっては当たり前のことなんだろう。自分は何にも知らず、何の経験もないまま、ここまで来てしまった。

「最初、タイムテーブルを見た時は絶望したんだけどさ、楓夏にわたしの歌を聞いてもらえるなんて、俄然燃えてきたよ!」とつみきちゃんはやる気満々だ。

「25分のライブか~。5曲、いや6曲くらいできるかな?」「や~最高の6曲を吟味しないと…!!」
 つみきちゃんはひとりで盛り上がっている。

 あかりはそんなつみきちゃんに「ねぇ、セット図って何…!?」と間抜けなことは聞けないと思い、配られた白紙のセットリストとセット図を見つめた。ググったら書き方が分かるだろうか…。

 あかりの近くにいたバンドは「じゃ、やっぱ最初はNeon Nightsにしない?で、そこから…」「や、最初はオリ曲より人気のカバー持ってきた方がよくね?」「だって俺たちのこと誰も知らないし…」「いや、全曲オリジナルで行こうよ」などとセトリ議論を繰り広げている。

 オリジナル曲…。あかりのオリジナル曲はオーディション応募時にはじめて作った「風車」1曲しかない。そうか…。みんな当たり前にオリジナル曲がちゃんとあるんだ。冴島さんはカバー曲をやってもいいって言ってたけど… 25分で5曲6曲?自分らしいセトリを考えて、このよくわかんないセット図の書き方を調べて…。あとライブって言ったらMC?

あかりの頭の中はいっぱいいっぱいになっていた。

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