生きているかどうか

商業施設の夜間工事に入った時のこと。
既に完成していて営業している店舗の改装は、閉店後に行われる。

小さい頃に絵本で読んだ、靴屋の小人みたいだな。といつも思う。
その商業施設は全館リニューアル工事中で、
私が担当した店舗以外にも多くのテナントが改装工事をしていた。
館内全体の工事をしている業者の中に
ひとり、よく現場ですれ違うおじいさんがいることに気がついた。
おそらくどの人も同じ頻度ですれ違っていたのだろうが
そのおじいさんは少し印象的だったので気付いたら「あ、またあの人だ。」と思うようになっていた。
すれ違った後に、なんとなく気になって振り返るとそのおじいさんはその場に立ち止まり
体ごとこちらに向けて、私が視界から見えなくなるまでおそらくずっとこちらを見ていた。
女性が目立つ場所なので、そういう視線を感じる時は時々あるけれど
ここまで露骨にじっと見られることはない。
印象的というより不安な気持ちになる状況が何度か続き
同じ商業施設の別のテナントの工事に入っていた同期(女)にその話をしてみた。
ああ、知ってる。なんか女子通るといっつも見てきてキモいよね。
そんな返事を期待して。
けれど返ってきた言葉は
「そのひと生きてる?私そんなおじいさん知らないよ。」

ぞっとして、そのおじいさんとすれ違っても振り返って確認するのをやめた。
それ以来、その現場が終わって、その職場を辞めてからも
毎日同じ場所で虚空を見つめる老人を見るたびに
「生きてる..?」
「他の人からも、見えてる..?」
とかいう、どうでもいい心配をするようになってしまった。

妖怪とかかもしれない。

しかし、ある日突然いなくなると
それはそれで生きてるかな?と不安になる。

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