君が去って、秋が来た

ねえ、俺たち別れようか。

久しぶりのデートで映画を見た帰り道、ネオンに照らされ始めた新宿の街を歩いていると、唐突に耳元でささやかれた。

私は、そんな予感がしていたことを告げ、うん、そうだね、うん、そう言って彼を見た。
そんなに悲しそうな顔すんなよ。
彼もなんとなく悲しそうな顔をしていたけど、それは言わないでおいた。

私たちは三ヶ月と十八日目に手を離した。

そもそも、その日は夏の盛りで、暑がりの私が手をつなぐことを拒否していたのだけど。
一度も、名を呼ぶことはなかった。
私たちは駅のホームで別れた。

そのとき既に私は携帯電話を握りしめていた。
誰に電話しよう。
誰に話を聞いてもらおう。

ゆみ、たっちゃん、ひとみ、なんでみんなただ今電話に出ることができないのよ。

大村、出た!
ねえ、別れた。
え?なにいきなり笑 別れてないよ。
ううん、違うの、別れた。
え、どゆことどゆこと。
だから、私が別れたの。
まじか
寂しかったら話し相手になってあげるよ。
そっか。
うん、それだけ。じゃあね

かっつん。出た。
ねえ、別れちゃった。
え、なんで!なんか残念だなあ。
うん、私も残念だよ。
でもね、しょうがなかったのかなって思う。
うん、そっか。
残念だけど、しょうがないよね。うん。
じゃあね、電話出てくれてありがとね。
うん、元気でね。

それから私は電車に乗って色んな人にメールした。

たっちゃん、電話に出なかったから。
あーちん、私が憂鬱な時はいっつもメールする。
あっちゃん、一昨日、彼氏についての愚痴を聞いてもらったばかり。
ゆみ、あっちゃんと三人で飲んだから。電話に出なかったし。親友。
ふーみん、たまたまメールしてきたから。
ゆうと、こういう時に、一番頼れる。

母親、彼氏にフラれたから飲んで帰るねってメールした。
優しい返事が返ってきて泣きそうだった。

最寄り駅で、予備校時代の友達が飲んでるって聞いたから、そこに混ぜてもらうことにした。
市野くんと鈴木くん。

何でみんなこんなに優しいの。なんでこんなに涙が出るの。
悲しくないのに、早く別れようと思ってたくらいなのに。

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