いなくなったあの子

もうすぐ春だから小花柄のワンピースが欲しい。作ろっかな。

本が増えすぎちゃったから本棚も作らなきゃ。

あ、でも作業スペースが足りないの。作業台作るのが先だった。

そうやってとりとめもなく話し続ける彼女。

よくものを作っていた。僕にもマフラーを編んでくれたり、スイートポテトを作ってくれたり、いきなりブタのぬいぐるみが家に届いたこともあった。

つきあう前のことだ。

ものを作るのと、旅行をするのが好きだった彼女。

旅行というより旅と言った方が正しいような気がする。

突如いなくなったかと思うと旅先から絵はがきをよこす。

といっても彼女は絵がとても下手だったから、現地で購入したとおぼしき写真入りのポストカードに
『今わたしはどこどこに来ています。ここは暖かくて(あるいは寒くて)、でも楽しいです。何日かしたら帰ります。元気ですか?』
といったような普通の内容が大きい字で書いてあるもの。

そしていつも一人旅だった。だから僕も安心していられた。

出かけたときと同じようにいつのまにか帰ってきた彼女は、よく僕をパソコンの前に呼び寄せて大量の写真を見せながらどこに行ったか語った。

そして旅先でどんな人と知り合ったか話してくれた。彼女はなぜかどこに行っても友達を作って帰ってきた。

自分もいきなり彼女に声をかけられて知り合いになったクチではあるが。

「ねぇ、あの犬さ、絶対帰りたいと思ってるよね。」と。

そして彼女はいなくなった。

どこに行ったのかわからない。

いつものようにショルダーバッグひとつでフラッと出て行ったきり

もう三年経った。

僕と彼女がシェア(同棲などという色気のあるものではなかった。)していた部屋は、三年前にはやった歌の歌詞と同じ。

あの日住んでた小さな部屋は、今は他人が住んでんだ。

もし彼女があの部屋に帰ってきたら、
そう思って一年は住み続けたけれど
自分も就職で環境が変わり、そこには居られなくなった。

たまに思い出す彼女の言葉と振る舞い。

たとえば

私ね、失恋するのが楽しみで恋愛するの。
と言っていた彼女。

彼女は未だかつて失恋というものをしたことがないそうだ。

そして彼女が言うことには
女性は失恋をしたときが一番美しいらしい。

彼女はいまだかつて本気の恋をしたことがなくて

でも心臓がきりきりしたり思い出の音楽を聴くと切なくなったりすることもあるらしい。

誰に対して?と問うと

内緒。とすげなく言われる。

一度ずいぶん酔っている彼女に聞いてみた。めったに酔うことのない彼女がフラフラになっていた。確か世間ではセンター試験の当日で雪の降る夜だった。

思い出すと切なくなる人って誰?

ゆめ

まさか相手が自分の夢とはね。

哀しい瞳が揺れていた。

泣き出すのではないかと思って
普段はあんなに強い彼女が
そんなところは見てはいけないような気がして慌てて目をそらした。

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