沈丁花も咲いていることですし
誰かに知られたら、俺たち破滅だね
誰がどこで破滅するかはわからないけどね
こんな会話はいまもどこかで繰り広げられているのだろう。
夜ごと紡がれる物語の中に
この台詞が登場しない日はきっとない。
ありきたりな会話
だけど
本人たちにとって切実な問題。
そんなことを考えながら
キリは彼氏との待ち合わせに向かった。
ことの発端は学園祭の打ち上げだった。
いや、もっと前だろうか
設計のエスキスをしている時だったか
あるいは初めて出会った夜に自転車の2人乗りをした時かもしれない
2人でコンペに応募しよう。
そう言われた
その頃、キリは彼氏にフラれて三ヶ月、もう一人でいることに慣れていて
その大村という男友達の設計熱に付き合って
設計に将来の道を見いだしているところだった。
もしかしたら
こいつとビジネスパートナーになれるかもしれない
大村には五年になる彼女がいて
名前は春香
もう高校の頃から付き合っているそうだ
私をコンペに誘った時期に彼らは破局の危機を迎えていた
彼に何の感情も抱いていなかった。
それなのに
大村の腕の中の居心地の良さ
泣いてなんかないもん、と泣きながら暗い部屋で座り込むキリ
TSUTAYAで借りた洋画のDVD
エノテカのワイン
赤と白を一本ずつ選んで買った
大村の彼女の話
ジンジャーで割るとおいしいよ
ほんとうだ
ふたりでひたすら飲み続けた
ねえ膝枕して
膝枕してあげるから
ねえ一緒に写真とろう
これ彼女に見られたらふられるちゃうな
ハグしよう
いいにおいする
添い寝して
俺のセクハラに、もうちょっと付き合ってよ
ねえ大村
添い寝しよう
キスしたい
キスしたい
できなかった
誰かに知られたら
おれたち破滅だね
誰がどこで破滅するのかわからないけど
突然のお姫様だっこ
気がついたら私はベッドで寝ていて
彼は布団で寝ていて
ああ自分のバカ
そう思った
こんなこと他の男としちゃダメだよ
ピンクのグロスは恋のお守り
ピスタチオ
飲みかけのワイングラス
手をつないで眠る
あいつと付き合ってるの?
うん
寝たふりしちゃダメだよ
なんであんなに泣いたの
色々考えちゃって
こうしてても
あなたは別の人のもので
私も別の人のもので
ああ、あったかい
一日中寝てたいな
ね
起きなきゃ
行かなきゃ
きょうはあったかい
沈丁花も咲いていることですし
寂しい
切ない
設計続けなよ
ひたすらなく私を
しずかになだめてくれたきみ
ごめんね
わたしはあなたと結ばれたかったの
あなたの不幸を願ってたの
あなたとあの子がわかれますように
結婚なんかしませんように
わたしのところへおいで
今日はあったかいもの
ベッドの中で2人で聴いた歌
あなたをわたしのものにすることはできない
悲しくて
でも真っ当すぎて
涙も出なかった
昨日はあんなに流れた涙が
今日はどうして
あなたの腕の中で
明るい朝の光の中で
涙など流したくなかったのかな
お姫様だっこなんて
物心ついてからされたことなかったのに
細いね
軽いよ
嘘でも嬉しかった
軽くてびっくりしたって
そっか
あなたとあの子が別れますように
はやく
そして
私のところにきますように
バイトの採用報告
真っ先に私にしてきたね
彼女なんて言ってた?
って聞いたら
まだ言ってない
って
そんな小さいことで喜んでしまう私は
なんなのでしょうか
もう
かみさま
くるしめないでください
すきなのに。
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