雑記:波動砲から超重力砲まで~大艦巨砲は男の浪漫~


 波動砲。
 誰もが知ってる一撃必殺の最終兵器。
 敵艦隊悉く粉砕し塵芥とし、この宇宙から殲滅する無敵の大口径砲。
 これさえあれば地球を、いや全宇宙を支配下にして銀河帝国を――――
 

 などという変な電波はとりあえず置いておくとして、所謂MAP兵器として有名な(?)波動砲は、宇宙戦艦ヤマト以降の様々な作品群において名前を替え、原理を替えて使われてきている。ざっと見ただけでも超時空要塞マクロスに登場するマクロスの主砲、機動戦艦ナデシコのグラビティブラスト、機動戦士ガンダムシリーズのハイパーメガ粒子砲はじめとする大口径ビーム兵器、蒼き鋼のアルペジオの超重力砲、その他各種ゲームにおいても「波動砲」と名付けられた、もしくはそれに準じる兵器が登場している。
 1次創作、2次創作に手を染めて、尚且つスペースオペラ的なモノなどを描いたり書いたりする人間にとっては、オリジナルの何かを生み出したことがある方もいらっしゃるだろう。

 さて、これらの兵器には冒頭でも述べた様に、当たれば真っ当な防御策しか持っていない物は消滅する運命にある訳で、使い方を間違えば(演出上も含めて)作中世界のパワーバランスを崩壊させかねない物であるが、そもそも味方陣営(主人公陣営)にそんなものがあるなら、それを束にして使ってしまえば、敵に攻め入られて窮地に立たされるなんて事は無いし、追い詰められた人間が何をするか見てろというシーンもない訳である。

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第1章
そもそも無敵の最終兵器であるか否か

 演出上、作中パワーバランスを崩さずに、こうした大出力兵器を登場させるには、ある程度の枷が必要である。
 無敵の最終兵器であれば、それさえ出せば物語は終わる。
 しかしそうならない以上、何らかの枷がある筈である。
 ここではそのパターンについて考えてみることにした。

ケース1
<発射に時間がかかる>

 波動砲を始めとする大出力兵器における枷。1つ目は発射までの時間。
 通常兵器のようにつるべ撃ちをさせない事で、よりその大出力が強調され、またその乱発を防ぐことにより、作品中におけるパワーバランスを維持する事が出来る。
 また、発射までの時間は艦内の全エネルギーを砲撃に廻すという演出が多いのもこのタイプの特徴である。
 最大にして一番の例が、<宇宙戦艦ヤマト>の<波動砲>である。

ケース2
<環境により使えない場合がある>

 例えば、敵が近すぎる場合、もしくは敵味方入り乱れる乱戦では、その大出力長射程が仇となり、持ち前の火力を生かせないという場面を設定する事で発射を防ぐことが出来る。
 銀河英雄伝説における<イゼルローン要塞>の<トールハンマー>は、作中幾度となく敵味方乱戦の最中にその力を生かせなかったというシーンがある。
 ただし、乱戦における発射制限は、その運用にあたる指揮官の理性による所が大きく、味方の損害も顧みず打つとなるとその前提条件は無くなる事がある。
 
 機動戦士ガンダムSEEDに置いては主人公たちの乗艦、<アークエンジェル>に搭載された<陽電子破城砲ローエングリン>が、地表への放射線による汚染の影響を考えて発射を制限するシーンが見られる(後のシリーズでは地表汚染を抑える改良をされたという)

 また、惑星間戦闘、地上戦闘に関わらず敵の背後に守るべき物、つまり民間人居住区、惑星、宇宙ステーション、とにかく主人公たちが壊したくない物を置く事も効果的である。
 
 
ケース3
<あまりの威力に、実際の使用には制限が掛けられている>

 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコの主人公艦<TA-29ヤマモト・ヨーコ>に搭載されている<統一場粒子兵器ザッパー>、<相転移兵器ブラスター>は、共に乗員のみでの使用は不可能となっており、それぞれ上官の、もしくはその更に上部による承認が必要となる。
 この場合、その上部指揮系統などが主人公たちに非協力的、もしくは問題解決に際しその兵器の必要性を認めていない等の理由から「積んでいるのに使えない」というもどかしさという問題を演出する事が可能になる。
 概してこれらの系統の兵器は破壊力過多で、一度の使用でほぼ戦闘の帰趨は付く。

ケース4
<味方陣営だけの独占兵器では無い>

 非常に高出力かつ一般的に普及しているとなると、もはやそれは作中における最終兵器とは呼べない側面がある。
 たとえば、機動戦艦ナデシコの<グラビティブラスト>は、当初<ナデシコ>のみに搭載されていると思われていた物で、ケース1に近い物があったが、物語が進むにつれて敵陣営や味方にもグラビティブラストが普及して来たため、その威力は若干陰り気味である。
 もっとも、<ナデシコ>の場合はグラビティブラストより更に威力のある<相転移砲>を搭載する事により、一撃必殺兵器を主人公側で保持するというケース1の状態に戻った経緯がある。
 青き鋼のアルペジオや超時空要塞マクロス、機動戦士ガンダムシリーズなど、敵陣営が更に大型、かつ高出力の兵器を持っていることもしばしばある。

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第2章
発射シークエンスについて

 過分に偏見と無知を孕んだ言い草だと我ながら思うが、多くのスーパーロボットにおいて、必殺技とは威勢の良い掛け声と共に、何の脈絡も無しに発射される。
 しかし、宇宙戦艦ヤマトの波動砲を始めとする大口径兵器には、発射シークエンスという物が厳格に決められている。兵器である以上、ある決められた手順を踏まなければ発射できないというのは当然の事ではあるのだが、これは筆者が小学生時代に宇宙戦艦ヤマトのノベライズ版を読んだ時に大きな衝撃を受けた1つである。

 例えば、これが「波動砲発射!」という一言で撃たれるのであれば、そこまで強烈な印象は産まなかったはずなのである。(劇中において省略される事もあるにせよ)

 発射シークエンスとは、荒唐無稽なものが作中世界において理論立てて実用化された兵器としてのリアリティを演出するのにも役立つ場合もあるし、直ぐに発射出来ないという時間を使った演出が可能になる。ここではその発射シークエンスに着いて考えてみたいと思う。



ポイント1
発射管制の役割分担

 波動砲を例にとると、発射だけに限れば、直接関わるのは艦長、戦闘班長、機関長以下機関員である。意外に少ないと思われるかもしれない。
 これは発射体勢に入った時点で操舵を波動砲照準器であるターゲットスコープに移しているため、操舵担当者は発射後まで操舵をしないからである。
 また、発射トリガーを引くのも照準をするのも戦闘班長であるから、他の戦闘班員は発射に関わらない。ヤマトにおいて(少なくとも初放映時)は、機関部の多くの操作を機関員と、ブリッジに詰めている機関長が行うので、このセクションが割と人員が多いことが分かる。
 ただし、この役割分担も時として変わる事があり、宇宙戦艦ヤマト完結編においては、艦長席から直接射撃式が出来るように照準器が設置されていた。

 また、宇宙戦艦ヤマト以外の作品では、艦艇の高度なシステム化が進んでいることが多く、1名、若しくはプログラムによる自動発射など様々な事例がある為、一概に役割分担がなされているとは限らない。

ポイント2
発射後の状態

 大出力兵器の特徴として、艦の全エネルギーを使用するという場合がある。
 この場合、発射前に艦内の全系統のエネルギーを遮断し、砲撃に廻したうえ、発射後全く身動きが取れないという場合がある。
 ポケットモンスターの「はかいこうせん」と似ているが、それは兎も角として全てのものがそうとは言えないが、これも大出力兵器の乱発によるパワーバランスの崩壊を防ぐ枷であると言えるかもしれない。
 また、1度発射すると艦体や砲身にダメージがあり、それ以上発射出来ないという例も散見される。
 ただし、敵陣営などはその発射後硬直の弱点を克服した新兵器を投入してきて、主人公達に差し向けるという場合もある。
 

ポイント3
波動砲と竜斬破

 宇宙戦艦ヤマトの波動砲。
 機動戦艦ナデシコのグラビティブラスト、相転移砲。
 蒼き鋼のアルペジオの超重力砲。
 機動戦士ガンダムシリーズ、特にSEEDシリーズの陽電子砲。
 スーパーロボット大戦系列の戦艦にも同様の大口径砲が搭載されているが、これらの発射時には発射管制官による用語の羅列がある。

 例えば

「○○砲発射準備」
「セーフティロック解除、操艦を射線軸制御に以降」
「機関出力120%、反応炉、臨界へ」
「射線軸線上の味方部隊、退避完了」
「総員、対ショック、対閃光防御」
「敵艦隊、射線軸線上に載りました」
「最終安全装置解除。発射準備、完了」
「○○砲、発射!」

 の様に、発射命令→艦内の発射体制への移行→発射という一連の流れがある。
 演出上においてこれはとても役立つもので、例えば発射指揮官がどうしても撃ちたくない理由があれば、発射指示を求める部下とのやり取りが描けるし、発射指示の後、何故か発射されないというトラブルが発生すれば、それに対処するための描写も出来るし、それによって窮地に陥らせることもできる。
 
 年代とジャンルが替わるが、スレイヤーズに<竜破斬(ドラグ・スレイブ)>という攻撃呪文がある。筆者は発動シーンを見た事があるだけだが、その呪文を覚えているという方も多いと思われる。

『黄昏よりも暗き存在(もの)。血の流れよりも赤き存在(もの)。時間の流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん。我らが前に立ち塞がりし、全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを』

 これを唱えて、初めて魔法が発動される。
 こうして見ると、魔法にも発動に至るまでに決まったシークエンス(というかは定かではないが)がある事が分かる。
 つまり、ロボットアニメやSFにおける大出力兵器の発射シークエンスとは、ファンタジーにおける魔法の呪文の詠唱と同じともいえるのかもしれない。

 似ている例は他にもあると考えている。

 例えば戦隊ヒーロー物における登場シーンの口上であり、水戸黄門における格さんが印籠を出すシーンはこれに近い物があるのではないだろうか。


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総括

 長々と書き連ねて来たが、筆者が伝えたかったのは、ただこの一言かも知れない。

「大艦巨砲は男の浪漫」

 つまるところ、様々な場面において、様々な方法で発射される最終兵器とはロマンであり、戦術、戦略上の特異点となるのである。

 今回例に挙げなかった作品にも、恐らく様々な兵器があり、ここで筆者の上げたパターンに当てはまらない物も多くあるだろう。ここに記したことは全て筆者の貧弱な知識を基にした物であり、これは間違っている、これはこう思うという事は大いに結構な事だと思う。

 自らの手で物語を紡ぐ者として、これらの兵器の使い所と演出には、気を付けていこうと思う所存である。

以上。

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