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02 鉱物採集の法的規制を知っておこう

 鉱山跡が載っている記録を読んだ。
 地図も入手した。
 さて、その次のステップ、フィールドに出る前の基礎知識として、私有地への許可なき侵入は我が国では原則として認められていないことを理解してください。なぜ「原則として」と付くのかも含めて整理してみましょう。

 まず、法律上はどうなっているかというと、刑法第130条に「住居侵入罪」がありますが、これは住居、いわゆる現住の家や敷地への侵入に対する罪状であり、空き地や遠くの山林など現住しない私有地へ侵入しただけの場合には該当しません。「私有地侵入罪」といった私的スペース全般を網羅する入っただけで罪に問われる罪状は我が国にはないのです。
 山で、登山道を外れてしまい、ウロウロしながら彷徨いようやく元の登山道に戻れたときに、知らぬうちに何件もの侵入罪を犯していたなんてことになれば、こんなことは登山ではよくあることだけに不合理以外の何物でもありません。
 ですから、鉱山跡を研究目的や趣味の観察程度で探索するだけならば他人の山に立ち入っても法律上グレーではないかと思います。
 我が国は罪刑法定主義国家ですので、その行為はこの罪に該当します、とすべて予め決まっていて、それら以外の行為では一切罪を問われることはありません。
 その理屈からすれば「他人の山にただ立ち入るだけなら、白」と言えそうですが、「入るだけで何もしない」というのは厳密な意味で不可能です。土地や工作物、当然に植栽、地面、葉っぱ一枚、石ころ一つに到るまで一切の改変が許されませんので、例えば、鉱山跡探しのため歩いただけなのに、雑草だとばかり気にせず踏んだ草が、実は地主の植えた貴重な高山植物だったりすれば、損害賠償請求や原状回復の訴えを提起されても文句は言えないわけです。
 「人の土地で何やってんだ!」というのは地主が注意する一般的フレーズですが、何かするから地主は怒る、ということを良く表していますね。
 ですのでそういうリスクがあること、それと法律上の問題でないのならあとはモラルの問題(法律上の責任は負わないが、道義的な責任は負うこと)なのだと理解した上で、自己の責任と判断で探索してください。

 他人の山に立ち入るだけならグレーではないか、と書きましたが、地主が立入禁止の意志を明示している場合は別です。この場合に勝手に立ち入るのは「黒」です。
 地主による「立ち入り禁止」、「許可なき者の立ち入りを禁ずる」といった立て札や看板が設置されていて、その地主の教示を無視して立ち入った場合には、軽犯罪法第1条32号の「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者」に該当し罪に問われます。
 立て札の立てられた山林は条文の前半「入ることを禁じた場所」に該当します。仮に、地主がその山で鉱物が採れることを知らず(法律上の「不知」)、看板を立てた目的が山菜や松茸の盗難防止だったとしてもダメです。立入禁止に変わりはありません。
 ですので、この場合、許可を受けてから立ち入るか、または許可を受けてないなら立ち入れないの二択です。それら以外の選択肢はありません。

 ヤフオク等で高額取引されているのでご存知の方も多いと思いますが、我が国で最も美しいアメシストの結晶を産出「した」、宮城県白石市雨塚山もネットの産地情報により採集者が殺到し現地が荒れてしまった産地です。
 そのため、2007年に白石市により立ち入りが禁止されその旨現地でハッキリと明示され現在に至っています。
 いまだにこっそり採集を行っている人がいると地元の方が言っていましたが、明確な犯罪行為ですのでそのような犯罪者の真似は絶対にしないでいただきたいと思います。

 また、無断で立ち入るだけでも犯罪なのに、その上勝手に鉱物採集をした場合には、森林法第197条(旧刑法第373条)の森林窃盗罪にも該当し、重ねて厳罰に処されます。これは一般に言われる「他人の山で山菜やタケノコを採ってはいけません」の根拠となっている規定です。
 条文では「森林においてその産物(人工を加えたものを含む)を窃取した者は、森林窃盗とし、3年以下の懲役または30万円以下の罰金に処する」とあり、この場合の「産物」とは、森林から産出される一切の物で、竹や木材、果実、山菜、茸類などの有機物のほか、無機物である鉱物、溶岩、土砂なども含まれると解釈されています。
 ズリは無価値の廃棄物だから持ち去ってもかまわない、との自分勝手な理屈で私有地で無断に鉱物採集する方がいますが、そんな屁理屈は上記森林法の規定の前では何の意味も持たないのは明らかです。
 確率的に自分は見つからないはず、とか、摘発される例はほとんどないだろう、とか、他の人もやってるからきっと大丈夫だろう、とか、なぜ根拠もなく「自分だけは大丈夫」と思ってしまうのでしょうか。
 少し考えれば、自分の行為がたまたま見つかってしまったり、自分が最初の判例になる可能性だってあることを、その程度の想像すらできないのか理解に苦しみます。

 私の元上司で山菜採りの名人と称された方がいたのですが、その方は山菜採りに出かける時はいつでも、ある紙片を何枚も小さく折り畳んで、ズボンのポケットに忍ばせていたとのことです。
 地主に見つかって怒られた瞬間、「これはこれは他人の山とは知らないこととはいえ、大変に失礼なことを・・・ほんとに申し訳ない」と揉み手をしながら詫びを入れつつ相手に近づき、その手に紙片をスッと握らせる。
 という作戦でした。紙片とは千円札です。彼曰く「俺は訴えられたことは一度もない。山菜を売りに行く手間が省けたとむしろ喜ばれてる。ガハハ」というのですが、決してやってはいけないのだと思います、・・・多分。
彼(ちなみに営業職ではありません)のどこか憎めないキャラゆえに成立したとも思えるのですが、金で黙らせるというのは、やはり私の美学には反しますので、皆さんもできれば、このエピソードについては反面教師にしてください。

 ということで、他人の土地を勝手に荒らさない注意深さが必要です。
 私有地に所在する有名鉱物産地が地主の好意で鉱物愛好家に開放されていたのに、大勢が寄ってたかってめちゃくちゃに掘り返し、穴を開けっ放し、樹木が倒壊するまで荒廃させてしまい、怒った地主が山を立ち入り禁止とした後、ネットの有名産地だからと知らずに鉱物採集に行った人が、警察に通報されたという笑えない話も実際に発生しています。
 私有地かどうかを調べるには公図と登記情報を入手し双方の照らし合わせが必要ですが、入手方法等はネットで容易に調べることができますのでここでは述べません。ただし、情報の入手は簡単ですが、山奥の現地での土地特定はGPSを駆使したとしてもかなりの慣れを要します。何しろ山林では境界が見えませんから。
 一方、田畑の場合には、登記情報を頼りにするより周囲の人や近所の方に持ち主を聞くのが最もてっとり早いです。「鉱物採集の許可をもらいたいから」、と目的を正直に言えば変に警戒されることもありません。

 私がこの後、記事で述べる方法は、基本的にこの制約をクリアできるよう(極力他人の土地に入らずに鉱物採集が出来るよう)配慮していますが、クリアできない場合には、地主にお断りして採集をさせていただいたこともほんの数回ですが実際にあります。
 ズリがあるのが分かって、そこが間違いなく私有地である場合などには、きちんと土地所有者に目的をはっきりと告げ、荒らさない約束をして、地主側から条件があれば(割った石は端に片付ける等)それを呑んで鉱物採集を行えばいいだけだと思います。簡単なことです。
 後ろ暗い想いを持ってコソコソ隠れて採集するより、堂々と採集するほうが気持ち良いですよね。
 今まで、土地所有者に駄目出しされたことはありません。むしろ、「良く、俺が所有者だって調べたね。誰かに聞いたの?どうやって調べたの?」とか「あんな雑木林、石取るだけだったら断らなくても良かったのに。」とか「みんな勝手に掘っていくけど、あんたみたいな人初めてだ。」とか様々なリアクションがありました。自身が鉱物のサンプルをコレクションしている方に、自慢の標本を見せてもらったこともあります。

 私の持論ですが、「たかが趣味のこと。他人に迷惑や損害を与えてまでする価値はないものと心得よ。」です。

 次の記事から、実例を挙げながら実証的な探索について紹介していきましょう。

 例によって、この記事により、君もしくは君の仲間が散財しても当局は一切関知しないからそのつもりで。
 なお、この記事は自動的に消滅・・・しない。

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