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【この感動を伝えたい】 その⑱・完結 八木商店著

婚姻届けを出すのは生まれて初めての経験だ。俺は坂上に代わって出してやった。勿論結婚相手は愛ちゃんだ。保証人は香織と河合さんと白方さんの中から、アミダで香織と白方さんが選出された。この四人がうちの銀行の御客様でよかった。生年月日から住所まで会社の端末で簡単に調べることができた。届け出に必要な四人の印鑑は、100円ショップで三文判を買い揃えた。

 坂上の夢は北海道で牧場主。幸いにも愛ちゃんの実家は北海道で牧場主だ。二人の出逢い、これは偶然ではなく、こうなる運命だったんだろう。

 定めじゃ!

 おまけに愛ちゃんは坂上に憧れている。坂上はあの日のコンパの席で全て僕がフォローすると言った。それに従業員は坂上の家族らしいし、いつまでも面倒みてやるとも豪語した。ってことは愛ちゃんを嫁さんにして、一生面倒みてやるって意味も含まれてるってことだよな。

 それと二股はよくないとも花田さんに言ったそうじゃないか。二兎を追う者は一兎をも得ず、か…。合掌っ! この愛ちゃんとの結婚で、香織とは別れなきゃなんないけど、香織は若いしまたすぐに新しい男に巡り合えるだろう。中古車屋で働いてるから若い男との出逢いも多そうだしな。修羅場を潜り抜けなきゃなんないけど、夢を実現する前には、必ず大きな障害が立ちはだかるものじゃないか。

 まあ、なにはともあれこの結婚は二人にとって互いの夢を現実化する近道になったはずだ。俺はなんて友人想いなんだろう! 二人の気持ちを汲み取って叶えてやったんだもんなぁ。まるであの例の不思議な本、いや縁結びの神様にでもなった気分だ!

 しかし、なんだろう、この全身に湧き上がる躍動感は! すこぶる爽快だ! 今もまだ瞼を閉じれば鮮明に思い描くことができる。俺はこの感動を伝えたい!

 なんて綺麗な人だろう!

 区役所の受付のお姉ぇさ~ん!

 忘れないよ! 君の笑顔!

 

                   了

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