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【この感動を伝えたい】 その⑫ 八木商店著

「いいえ。合コンですよ」

 花田さんが透かさず言った。

「私、香織さんから合コンするからって誘われたんです」

 俺は驚いて花田さんを見た。

 合コンと言っても、旦那や子供は放っといていいのかよ。

「よく御主人さん、コンパ許して下さいましたね。実は内緒なんですか?」

 俺は素朴な質問をした。

「あらやだ。私、まだ独身ですよ。だからこうして招待されたんじゃないですか」と、照れ笑いを浮かべる花田さんの顔は直視するに耐えられるものではなかった。

「あっ、失礼しました。てっきりもう御結婚されてて、高校生くらいの大きな御子さんがいらっしゃるのかと思ったので」と一応詫びてみたけど、その容貌なら結婚できないのも無理はないと思った。

「何処かに良い人いないかなぁ」

 花田さんは俺にコメントを求めているのが見え見えだった。

「坂上なんかどうです。結構儲けてるみたいだし、社長なんでしょ。来年には北海道で牧場経営するみたいだし、御薦めですよ」

 行き遅れのおばさんには、坂上みたいなギラギラした野心家が丁度良いと思ったので、半分冗談のつもりで言ってみた。この際本気に思ってくれた方が、後々の展開が楽しそうで良い。

「実は実家は北海道で牧場やってるんです。だから牧場の生活は苦にならないんですよね。でも坂上さんには香織さんがいらっしゃるじゃないですか。もう、御冗談はよして下さいよ。山路さんったら。ハハハ」

 年甲斐もなくはにかんだ花田さんが、ペシリと俺の肩を叩いた。その瞬間、俺は反射的に肩をすくめた。花田さんの手が触れた部分から、肉体が腐っていくんじゃないかと本気で思ったからだ。

 そのとき俺は身に迫る恐い物を感じていた。

 この中でこれがコンパだと認識しているのは、もしかして俺と花田さんだけなんじゃないか?

 ということは、当たり前だが花田さんは男を探しにきたってことだよな。

 しかも行き遅れときている。

「山路さんは今お付き合いされてる特定の女性って、あ、いらっしゃらないからここにいらしたんですよね。アハハハ。変なこと訊いて御免なさいね」

 俺は聞こえてないふりをした。腹を空かした猛獣がすぐ傍にいるようで恐い。俺が獲物にされてるのは明らかだ。

「山路さんって、銀行にお勤めなんですよね。安定してて良いですよね」

 俺は尚も聞こえないふりをした。するとわざとらしく、

「何処かに私を貰ってくれる素敵な人いないかしら」

 と夢をほざきはじめた。

 俺は息を潜めて心の中で呟いた。

 奥さんでも良いって言う物好きは、日本に三人くらいはいるんじゃないかな?

 すると花田さん、また変なことを呟いた。

「彼氏ができる御呪いないかしら?」

 そんなもんあるわけないだろう!

 と言いたいところだが、そのとき俺は学生の頃に経験した、或る不思議な体験を思い出していた。それは坂上も経験したことだった。

「御呪いじゃありませんが、恋愛成就のアイテムなら」

 俺はここであの話はしたくなかったのに、何かに突き動かされるかのように勝手に喋っていた。

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