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【この感動を伝えたい】 その⑨ 八木商店著

 坂上は肉体労働が大嫌いで、学生の頃からそんなバイトはしたことなかった。なのに、恐ろしく身の程知らずなことを豪語しているではないか。

 牧場のオーナーだと!

 理想と現実のギャップを強引にカットして、都合よく夢膨らませてんじゃないのか!

 定職にも就かず、何夢語ってんだ!

「僕は今自由に生きてます。皆さんはまだ僕のようなライフスタイルを送ってませんが、でもそれは今のあなたでしょ。来年はどうなってるかわからないじゃありませんか。皆さんの中に来年の今頃は、僕のように自由な生活を送っている方がいらっしゃるかもしれません。皆さん、まさか、そんなの無理よ、なーんて思ってませんか?」

 坂上がまた不敵な笑みで皆んなを見渡した。

「大丈夫ですよ。成功した僕が言ってるんですからね。皆さんは計画を立てて、絶対に決めたことは最後までやりぬくんだという意気込みで、実行していけばいいんです。目標を決めて、兎に角それ一つに全エネルギーを注ぐんです。わからないこと、困ったことがあれば、すぐに僕に相談してくれればいいんです。僕が全てフォローしますから安心してください。

 それに従業員の皆さんは、僕の大切なファミリーですからね。いつまでも面倒みていきますよ。だから何も難しく考える必要はありません。あなたがうちの商品に出逢い、そのときの感動を御客様に伝えればいいんです。家族の誰からも相手にされないでいる可哀相なお年寄りの皆さんにも、この感動を共有できるようにしてあげればいいんです。

 お年寄りは優しく接してあげればそれだけで嬉しいものなんです。そうすることであなたの心も満たされ、懐も暖かくなって行くんですよ。お年よりは皆んなちゃんと持ってるんです。ただお金の使い方がわからないだけなんです。皆さんは優しくその使い方を教えてあげればいいんですよ」

 俺は坂上の演説を聞きながら思った。

 ところで、今日のこれはコンパだったはずじゃあ…?

 俺以外は皆んなうっとりとした眼差しで坂上を見つめている。どうやら坂上の演説に感動しているようだ。

 

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