誓約の下

車椅子に乗った老人、茶髪の女性、仕事帰りの男性、ベビーカーに乗った子供
大勢の見知らぬ人は私の横を通り過ぎ、会話どころか一瞬のアイコンタクトをとることもなく、流れるようにすれ違ってゆく
緻密に計算された仕組みは迷路の出口へと素直に導き、それがあたかも元から存在し、正しさの権化であること示しているかのようだった
そこに身を任せるようにと生まれた時に誰かに思い込まされ、思い込んでいた
それを私は今でも守り続けている

例えばついさっきすれ違ったのが人のそれではなく、人の皮を被った何かだとする
それでも私たちは気がつくことはない
そして私たちも人のそれではないと言い切ることはできない
中身なんて、真実なんて、誰にも見えちゃいないのだから
細胞がパチパチと弾けながら死んでゆき、骨が鈍い音を立てながら潰れ、髪は白くなり泡のように解け、シワだらけの手を見て初めて歳を取ったことや死を迎え入れるということを知る
それでも私たちは人であったと大声で言えるのか?
逆に言えば人ではない時が一度でもなかったのか?
先生でも知らない答えを求め続けるのは愚かなのかもしれない

生まれるときに配られた地図には終着点があっても、寄り道をしてはいけないと記されているわけではなかった
教科書には点を直線のみで結ぶようにと書いてあるわけではなかった
私の心と体が一つであると誰からも教わることはなかった
私以外の人がその仕組みを全て知っているのだとするならば私は特別なのかもしれない
私は人のそれではないのかもしれない
望まれていなかったのかもしれない