影踏みをしよう

長いこと雨が降り続いていますね
湿った空気に体を絡め取られ、関節部分は錆び始めました
そのせいでなかなか上手に体を動かすことが出来ません
良からぬ空気が私の心臓部へめがけて、重く鈍い打撃を与えてきます
その度に大きく息を吸い、痛みに耐えながらどうにか生きています

それほど長くない人生を生きて来ましたが、数年前から何も変わっていないことを昔の自分が教えてくれました
「お前はここから動くことは出来ない、足踏みをしていることに気が付いていない」
そう言われましたが、正確に言えば進むことを辞めてしまったのです
それから目を逸らすために気が付かないふりをし、足踏みをし続けていました
誰にも迷惑を掛けずに、ひとりになれるのならそれでいいと私は満足していました

ひとり、またひとりと、広く果てのない場所を求めて旅立って行きました
私は祝福の意を込めて大きく手を振り見送りました
小さな船で海を渡る人、ラクダと共に砂漠を越えてゆく人、森林を抜けて街を目指す人、小さな飛行機を飛ばし大空を渡る人
たくさんの人へ目一杯に気持ちを込めて大きく手を振り見送ってきました

とうとうひとりになった時、涙が溢れました
これは私の望んだことなのだと言い聞かせましたが、それを強く拒むかのように、声を上げて泣きました
手の中にあった宝物は砂に変わり、指の隙間からこぼれ落ちていきます

私は誰もいなくなったこの場所から一歩も動くことができません
砂に戻った宝物は地面に埋まっていた種を育て、芽を出し、根を張り、私の足に絡みつきました
この場所から逃れることはできません
それでいいのです
私が望んだことなのですから

明日は晴れるといいですね