ダイジェスト

間違えることや失うことを恐れながら部屋の隅で小さく呼吸をし、目と耳を塞いできた
それでも地球は回るし、あなたはどこかで生きていて、しばらくすれば暑中見舞いのハガキが届く
蝉の鳴く声がなかなか聞こえないのも、肌寒いと感じるのもそれは誰のせいでもなかった
指の隙間から世界を覗いては目を伏せ、聞き耳を立てては後悔の念に襲われた
それでも全ては同じ速さで回り続けていた

白く細い糸を指でたどっては複雑に絡み合った箇所で留まる
一層のこと断ち切ってしまおうかとも思ったが、そんな決心すら出来ずに時間だけが流れた
解かないことには先に進めないことを分かってはいるものの、打開するための術など持っていなかった
そうして今日も指でたどっては同じところで留まっている

真っ白な丸襟のブラウス
純潔と清楚を体現するようなあなたを見て、これが正しさの結末だとしても受け入れようと思った
揺れる黒髪、柔らかい陽射し、細く長い綺麗な指、整った顔、幼さを残す微笑み
あなたにはこの世の中の真理が全て備わっていた
恨むものもいなければ、妬むものもいない
心が許された気がした
だからこそ、私はあなたにはなれなかった

色を失くしたことに今更気がついた
プラスチックの鎖で繋がれたあなたを見ていた
色がないことが自分なのだと訴えていたことを強く覚えている
そんなあなたが羨ましかった
私はどんな色をしていて、どんな瞳であなたを見つめ、あなたにどう写っている?
鏡の前に立ったところで答えは何も見えるはずもない

同じ世界の違う場所
生まれたものもいれば、死にゆくものもいる
失うものもいれば、何かを得たものもいる
それは、憎らしいことに全て同じ世界の同じ時間に起きていること
世界は手を繋いで同じ一歩を歩むべきだと強要した
だから私は手を繋がなかった

今日も全てが同じ速さで回っている