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地球の淡水は、わずか2.5%

「水の惑星」と呼ばれる地球。表面の3分の2は水で覆われ、およそ14億立方キロメートルの水があるといわれているが、その大部分は海水で淡水はわずか2.5%程度に過ぎない。地球上では、太陽エネルギーによって海水が蒸発し、雨となって河川を流れて海に戻るという自然の水循環が形成されている。しかし、雨量が少なかったり近くに大きな河川が無い地域など、水循環が成り立ちにくく慢性的に真水が不足している地域もあり、海水淡水化装置などが必要になる。海水を淡水化するために、逆浸透膜法や多段フラッシュ法などが用いられている。

逆浸透膜法(RO:Reverse Osmosis)は、加圧した海水を半透膜に供給して淡水を生産する技術で、高いエネルギー効率での運転が可能。エネルギーコストが安価な中東地域では蒸発法が主流だが、逆浸透膜の性能の向上によりROプラントのシェアは拡大している。日本では、福岡や沖縄などで使われている。日立造船グループのOsmoflo(本社はオーストラリア)は、RO技術に特化した海水淡水化・鉱山廃水・産業用水処理企業で、7・14・21千立方メートル毎日のコンテナ型RO海水淡水化プラントを保有している。

多段フラッシュ法(MSF:Multi Stage Flash)は、加熱された海水を減圧された蒸発器で沸騰蒸発させ、蒸気を凝縮して淡水を生産する海水淡水化技術で、発生した蒸気が凝縮する際に放出する熱を回収して効率を上げている。中東地域では、造水と発電の設備が併設される場合が多く、発電の余剰蒸気を造水で利用する大型の設備が多数稼動している。

多重効用法(MED:Multiple Effect Distillation)は、複数の効用缶を連結し、第一効用缶の熱源は発電設備などからの蒸気を使用、第二効用缶以降の熱源には前の効用缶で発生した蒸気を用い、効用缶の数だけ蒸気を繰り返し使用して効率よく淡水を生産する。MEDは、内部に設置された伝熱面の形状により垂直管型(VTE)、水平管型(HTE)、プレート型(MEP)に大別される。

上記の他には、ナノミストテクノロジーズが特許権を保有する「霧化分離法」がある。超音波や静電気を与えることで液体をミスト化し、目的とする物質を分離・精製・濃縮する技術で、従来の蒸発法や逆浸透膜法と比較してエネルギー効率が非常に良く、非加熱であるために安全性を担保しやすいメリットもある。

船上の生活における真水は貴重で、飲み水や調理以外には海水が使われていたが、海水を真水に変える造水装置が普及したことで、大型の貨物船やフェリーでは常に真水を確保できるようになった。造水装置の能力は年々高まり、今では非常時の飲み水確保にとどまらず船上での入浴にも真水を使うケースが増えている(以前は海水風呂が多かった)。船舶用造水装置では蒸留式が9割近くを占め、残りの1割強が逆浸透式だといわれている。ディーゼルエンジンの過熱を防ぐための冷却水を使って海水を熱している造水装置では、排熱が100度に満たないので、装置内部の真空化によって圧力を下げ低温蒸発を起こす。造水装置でつくられる真水にはミネラル成分などが含まれていないため、多くは飲料水以外の用途に使われるが、ミネラルを補うことで飲料水にすることもできる。ヤカンの原理を装置化して船に載せるという発想は江戸時代からあったようで、「ランビキ」と呼ばれる陶器製の器具が残されている。ランビキの起源には諸説あるが、江戸時代には薬油や蒸留酒などをつくるのに用いられたといわれる。

原子力潜水艦は、就役から退役まで燃料の交換が不要で半永久的に潜航できる。海水を蒸発させて真水を作り、それを電気分解することによって酸素も作り出せる。ロシアの原潜にはプールやサウナまで取り付けられているといわれる。原潜を保有する国は2022年2月現在、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インドの6か国。オーストラリアは2021年9月、アメリカ・イギリスと安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を立ち上げ、両国の協力で8隻の原潜を建造することを決め、2030年代後半の配備を計画している。

海水淡水化装置の問題として、施設から海に戻される高濃度の塩水がある。排塩水は海底に沈み、酸素濃度の低下や塩分の急増などをもたらす。また、処理工程で使われる重金属や薬品が含まれた防汚剤は、濃縮し放出されると生態系に有害な影響を与える。2019年1月14日付で発表された論文によると、世界中の淡水化プラントから生じる1日あたりの排塩水の合計は、1億4150万立方メートルに上るという。

※ 見出し画像にはPixabayのフリー素材を利用しています。

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