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バス☆ガイドのうきうきスティーブン・キング探訪

こんばんは、バス☆ガイドです。
今回は本当はバスの模型をつくってストップモーションアニメを作る予定でしたがもちろんそんなことはできず、秋のさわやか読書感想文にしました。ごめんなさい。よろしくお願いします。

今回はぱっと思いつくスティーブン・キングの好きな作品、好きなシーンをネタばれだだ漏らしで書きました。精一杯ネタばれなので、そういうの嫌という人はガイドのこと嫌いにならないでください。
キングはよく言われるように書き方に癖のある作家だと思います。以前なんかのネタで、インスタント焼きそばを作る工程をスティーブン・キング風に書いた作品がありましたが、お湯を入れるまでめちゃくちゃじれったく、確かにじれったい、例えが長くてねちょねちょした話が多いです。
まさにホラーにうってつけで、『痛い痛い痛い!』と思うシーンが想像しやすいようにねっちょり長く書かれています。
なのでまずは短編がおすすめです。

争いが終わるとき
(短編、ドランのキャデラック)

超超超天才の弟が、この世から争いを無くすために作った薬を雨にして世界中に降らせた。
世界は瞬く間に平和になり、そして滅んでしまった。

兄のハワードが語る弟ボビーの天才ぶりがリアルで、幼児の段階でおもちゃをばらして簡易的な飛行機を作ったりと説得力がある。ガイドは説得力が大好き!
だからボビーが世界中の人間が穏やかになる薬(これを作る過程もよかった)を作っていろいろ天才的なあれで雨にしてばらまいても、主人公の兄ハワードが『まぁお前ならできるんじゃね』的な反応なのも納得でした。

最後の数ページ、ゆっくり落ちに進むにつれて、弟ボビーからの手紙の文章がめちゃくちゃになってく(漢字が無くなる、支離滅裂になる)ところが怖良い。白石朗先生の翻訳にはいつもぐっとさせられっぱなしです。
『ハウィー、僕は世界中をバカだらけにしてしまった』ということで、弟の作った『人間が穏やかになる薬』は認知症を加速させる薬だったのだ!
世界中がゆっくり優しく崩壊するシーンは他のキング作品にも多い。とても静かで穏やかな描写が特徴だと思う。こんなおわりなら少しだけ良いかもしれないと思わせる穏やかさ。

かくして天才ボビーのドジで世界が崩壊したわけだけど、お兄ちゃんはいつまでもお前のことを愛してるよ!というハートフルな話。

動く指
(短編、いかしたバンドのいる街で)

一番好きなキング作品。いつだかバズってたスティーブン・キングに関するツイートが秀逸で、『毎日かっこ悪く、でも一生懸命生きてるアメリカ人に起きた嫌な奇跡』的な内容だったんだけど、まさに『動く指』がそれに当たるかなと思います。
幸せでも不幸せでもない普通のサラリーマン、安いビール、好きでも嫌いでもない妻、そんな毎日を送ってるハワードがある日洗面台に行くと、排水口から指が出てた。
この指が、排水口から『みっ』と出てる感じがとてもかわいい。もちろんガイドの家には出ないでほしいし、この話を読んで以来手を洗う時に排水口にゴミ受けの十字があるかどうか必ず見るようになった。
この話は落ちは一応あるけど、それはともかく、指を奥さんに見られないため(パニックになられると面倒だからという理由が良い)、混ぜるな危険系の洗剤をいっぱいまぜて排水口に流し込む過程が楽しい。ああ慌ててるとそうなっちゃうよね、世界中どんな国に育っても、慌ててる時の気持ちは一緒だよね、と思う。
もう何度もガイドの脳内で映画化したので正直そろそろ飽きてもいい。でも読んじゃう。

ミザリー
(長編)

これは日本語版の装丁が良すぎてハードカバー版を買った。貧乏なのに。
翻訳版のキング作品の表紙を描いている藤田新策さんの絵がいちいちカッコいい。

キング作品でグロ、痛い痛い描写が一番強いのはこの作品だと思う。次点でドリームキャッチャー。足を斧で切っちゃうシーンの、骨は切れてるけどふくらはぎでまだ繋がってるという描写はしばらく夢に出た。
内容をざっくり説明すると、超人気作家(それこそスティーブン・キングみたいな)がうっかり遭難して、助けてくれたのが完全にいかれた自分のファンだった、という話。いかれたファンのおばさんは映画版ではキャシー・ベイツが演じている。本で読んでた時に脳内で想像してた通りのいかれファンおばさんそのままで本当にびっくりしました。日本だと渡辺えりが近いのかなと思います。
足を斧で切るときも、いかにも『狂気!』という感じじゃなくて「足(斧で)切るの初めてだからうまくいくか心配!」みたいなこと言いながら若干慌てて切ってるのがすごく怖かったです。足切るシーンはそのあとの『消毒』までが最悪なのでぜひ読んでみてぽよ。
原作読んでから映画を見たので、足を切るシーン、電動包丁のシーン、痛み止めを渡さない虐待を受けるシーン(これは地味にきついシーン、ロキソニンを切らすたびに思い出す)、人の良いおじいちゃんを細切れにするシーンが映像で出なくて本当に安心したのを覚えてるけどハンマーも十分痛そうだったね。

死のロングウォーク
(長編)

動く指が短編ベストなら長編ベストはこれかもしれない。この作品がちょろっと有名になったのはバトルロワイヤルの作者が死のロングウォークが元ネタと公言した時ですが、高校生が命をかけて公的に行われるゲームに参加、という以外は特に共通点はないかなと思います。
死のロングウォークの良いところは、みんな『なんでこのゲームに参加しちゃったんだろう』と後悔を重ねつつも、周囲の同世代たちとちょっとづつ友情をはぐくむ点プラス、衆愚の気持ち悪さや怖さが書かれているところだと思います。後者は、スポーツファンが若い選手をプレッシャーで追い込んでく感じがイメージに近いです。

アメリカで年に1度開催されるお祭りロングウォークは、選抜された男の子100人が最後の1人になるまで歩くというゲーム。時速4マイルより遅くなると警告1回、4回目の警告でその場で射殺される。最後まで歩き続けると『なんでも1つ、国が夢を叶えてくれる』。
この設定上、最後まで生き残るのはもちろん主人公なんだけど、ラストシーンまでの過程が良いし、辛いシーンは多いけどグロはないので、中学の推薦図書にしたいですね。
ちなみにしょっぱな緊張で足がつって警告を受けまくるシーンがあるのですが自分のことだと思うとぐっとぐっとこの話を楽しめると思います。こないだのライブでも足がつって大変だった。ガイドすぐ死ぬだろうな。
こう、ぐっと、冷汗が出る感じが100回くらいあって良い本です。

マンハッタンの奇譚クラブ
(長編)

中編で最も好きな作品です。文庫版スタンドバイミーの後に収録されている作品なので、本は持ってるけど読んだことがないという人はめちゃくちゃ多いと思う。スタンドバイミーは確かに名作だけど、このマンハッタンの奇譚クラブ読まないのはもったいないなと思います。

若干構成が複雑で、やや貧乏~中流くらいの男性が、ひょんなことからハイソサエティな人が集まるクラブに加入し、そこで一人一人が高価なお酒を飲みながら語る物語を聞く、という話。なんだけど、メインで展開される話は、そこで元産婦人科医の先生によって話されるある物語の内のひとつ。
メインの元産婦人科の先生の話は、ジェンダーやいろんな問題を提起しつつも、一人の孤独な女性が精一杯生きたことが語られてて、今でもしんどい時に読み直して勇気をもらいます。当時中学生だったガイドにはクラブといえば竹馬クラブや一輪車クラブのことだったのでここに出てくるクラブの意味がわかるまで苦労しました。そしてクラブが何なのか知ってからは憧れたものです。クリスマスには上質なエッグノックがふるまわれ、クラブの図書室には古典や文豪の豪華版全集が揃う。でも暗い廊下を出ると一度迷ったら二度と帰れなさそうなゴシックな雰囲気や、クラブそのものを取り巻くすべてが謎なところがずっと想像してて飽きさせない。
メインの妊婦さんの話は悲しくて泣いちゃうので絵で書くことにします。

ハイスクールパニック
(長編)

十代って最悪だな~と思いながら十代の頃に読んだ本。主人公が先生を殺してから警察の助けが入るまで、みんなで地獄のホームルームをする話。グロはほぼ無し。貧乏な子がちょっと削っただけですぐに折れちゃう鉛筆しか買えないという話をするシーンと、クラスで一番清純でモテる女の子が、初めて処女喪失した時に挿入される前にいっちゃった話をした瞬間に、スクールカースト上位の男子がブチ切れるシーンが印象深いですね。最後は性格悪そうなスクールカースト上位勢が大変なことになるけど、不思議とすっきりはしない。とにかく最後まで辛い、二度と高校時代には戻りたくないと思う話。

メイプルストリートの家
(短編、メイプルストリートの家)

なんかあれこれあったけどうまくいって嫌な大人を消し飛ばせる、というタイプの話がスティーブン・キングにはちょいちょいあると思う、その中の1つ。
最終的に嫌な義父を乗せて家が飛ぶ、という意味不明の落ちだけどその過程にある幼い兄弟のあれやこれがほっこりする。今回オワリズ村で紹介させてもらう中でおそらく唯一のほっこり。

アトランティスの心
(長編)

上下巻の内上巻がアンソニー・ホプキンス主演で映画化してる。確かに謎のおじいちゃんと子供たちのほっこりアドベンチャーで上巻が良いのはわかる。ですが下巻が圧倒的に好きです。
上巻でワイワイしてた子供たちの内の1人が大学生になって賭けカードゲーム(麻雀的な感じかと)にはまりすぎ、人生をすり減らしまくったあげくベトナム戦争に徴兵される。せっかく大学入ったのにぐちゃぐちゃにしてしまうところ、ガイドは自分の人生と重ねてしまい読んでて手の震えが止まりませんでしたね。
その後、ベトナム戦争のトラウマを抱えたままサラリーマンになり、最後高速道路の渋滞にはまってる最中心不全かなんかで死ぬんですが、最期に見る走馬灯というか悪夢の描写が素晴らしすぎて、何度も脳内で映像化しました。『天国のような夜が降ってくる』というサブタイトルも好きです。

キャリー
(長編)

スティーブン・キングのデビュー作ですが、たまたまガイドはキャリーからキング作品を読み始めました。
キャリーを読んだきっかけは映画のポスターがちょっとショッキングだけど、それ以上にポップでめちゃくちゃかわいかったから。地元で一番イケてたレンタルビデオショップカルチャークラブのホラー映画コーナーが出会いでした。怖いのでささーと通り過ぎてしまおうと思ったんですが、キャリーのパッケージの輝きがすごくて引き込まれたのを覚えてます。でもいきなり映画は怖すぎるので本を読むことにしたのが始まりです。
キング先生ありがとう、いつも怖い話書いてくれて。

これは結構グロ描写がありますが、カテゴリー的にはハイスクールパニックと同じで、『十代って本当にやだな』と読んでて今でも思わせてくれる系です。何度読んでも、なんでキング先生は生理用品を使った女子シャワー室でのいじめシーンを思いついたんだろうと思います。
いじめられっ子で毒親の母と2人暮らしのキャリーの描写も辛いけど、周囲のいじめっ子、いじめっ子からキャリーを仕方なくかばう優等生、キャリーのことをめんどくさく思ってる担任の教師など周囲の登場人物の心理描写も読んでてとてもきつい、かなりしんどいです。でもそれがあるから終盤キャリーがいろんな意味で目覚めて街を破壊するのが気持ちいいのかもしれませんね。関係ない人も死んじゃうけど。人だけでなく街そのものを恨んでるというキング先生の思いが伝わる名場面が満載です。

映画の終盤で、自分をめちゃくちゃに虐待してきたお母さんを怒った勢いでナイフで張り付けにしたあと、自分で殺したくせに泣きながら助ける(もう死んでるけど)シーンがあって、初めてキャリーを見た時は「あんなくそばばぁしんでとうぜんでしょキャリー!?」とまったく理解できませんでした。今うっかり教育系の仕事をするなかでいろんな子供に会います。私が出会った、親に虐待されて育った子のほとんどが親のことが超好きです。日々の世話をする施設の職員や親身になる先生以上に、自分を施設に入れた親のことがどんなに大好きか、キラキラした目で話す子たちのことを思う時、このシーンを思い出します。

デッド・ゾーン
(長編)

え?これってトランプ大統領のことでは…?と思わずにいられない話。
事故で長い間昏睡状態だった主人公は未来予知の能力を得たのだ!というあらすじ紹介を読んだ時は「糞つまんなそうだな!」と吐き捨てたものでしたが、未来予知云々よりも事故の後遺症を乗り越え教師として少しずつ生活を取り戻していく主人公が良すぎて一瞬で読み切ったのを覚えています。あと30年位前の作品ですが明らかにトランプ大統領では?と思われる悪役が出てきてさすが反トランプのキング先生、がっつり未来予知しちゃってるなと思いました。そう思ったファンは多くてトランプ大統領が当選するかしないかのとき一部の界隈では「これデッド・ゾーンじゃん!」という記事がたくさんあった気がします。
この作品は映画も良いし、キングファンの中でもデッド・ゾーンファンは多い超名作なので特に言うことがない。

ミスター・メルセデス
(長編)

最近読み終わりました。犬が農薬で殺されるかもしれない、という描写があって、犬が死ぬシーンが読みたくない、だってキング先生のことだから犬がどんだけ苦しんで死ぬか丁寧に丁寧に書くに違いないから私疲れてるんでそういうの今読みたくないです、と思って上巻読んでから2年も放置していました。そろそろいいかと思って先日読み終わりましたが、農薬入りのハンバーグは犬じゃなくて殺人犯のお母さんがうっかり食べたのでした。母さんが苦しんで三角定規みたくなって死ぬ描写は3ページに亘って書いてあり、犬じゃなくて本当に良かったと思いました。殺人犯のお母さんが死ぬ時の痙攣は昨今オワリズム弁慶のライブでも取り入れているのでライブに来られる方はぜひ隅っこで踊るガイドに数秒注目してみてください。

ハーマン・ウォークはいまだ健在
(短編、夏の雷鳴)

2010年以降のスティーブン・キング作品で一番好き、一番心臓に来る話でした。ホラーではないので、グロもなんもないですが、キングがずっと書いてきた貧困とは何か、幸せや不幸せは何なのか、芸術って何なのか、生活って何なのかが、短編の中にぎゅっと詰まっていて、読んだ後しばらく呆然としました。辛くてしばらくは読み直せませんが、今後も大切にしたい物語です。
 


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