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あぁ、腕時計〜電池切れは突然に〜


数日前、高3で受験生の娘にある事件が起きた。

大学の入学試験の時のことだった。
「テスト開始します」
と試験監督の声がした時、
娘の腕時計の針は開始予定時刻の10分前を
指していたそうだ。
一瞬、試験官が開始時刻を勘違いしていると
思ったらしい。
でも周囲は平然としていて
そう思っているのは彼女だけのような気配。
その様子を見た彼女は、時間がおかしいのは
試験官の時計ではなく自分の腕時計であること、
そしてその原因はテスト開始10分前に、
腕時計の電池が切れて止まってしまった
ことらしいと気づいたのだという。


よりによって、このタイミングに起きるのか⁈⁈
と相当、焦ったらしい。

そして、時計を振ってみたら動きだしほっとしたものの、やはり、しばらくしてまた止まってしまった。

結局、彼女は1科目の英語試験の100分の間、
わからない時間を気にしつつ、
試験を受けることとなった。

1時間目の英語の試験が終わった休み時間に娘が私に電話をかけてきた。
時計が止まるという緊急事態に陥ったこと、
そして、焦る自分の気持ちを落ち着かせるために。

娘には、とりあえず試験監督に時計が止まったことを話してから売店などに時計を買いに行くよう伝え、いったん電話を切った。


その後すぐに、
彼女は大学生に教えてもらった大学内の
コンビニに走ったが、
なんとそこは閉まっていた。
万事休すかと思われた。

一度は諦めかけたものの、
彼女はふたたび他の学生に、
腕時計を売ってるところはないかと聞き、
今度は生協の売店を教えてもらい、
幸いにもそこで腕時計を買うことが出来た。

娘から無事に買えたとの連絡を受けたとき、
本当にやれやれよかったと、ほっとした。

娘から、
腕時計が止まったとの連絡があってから、
無事に購入出来たと連絡があるまで、
約30分間のことだった。

ともあれれ、娘が時間がわからないまま試験を
受け続ける事態を回避できたのは、
不幸中の幸いとしか言いようがなかった。


一方で、私。
娘が腕時計を必死に探しているそのあいだ、
いざとなれば、すぐにでも持っていけるように
私も出先の駅前周辺で探した。

まず、駅前のコンビニに飛び込んだ。
なぜなら、かつて読んだ「ビリギャル」の本に、
試験当日、時計を忘れた娘のために
父親がコンビニで腕時計を買ったシーンが
あったからだ。
時計で困ったらコンビニだな。
万が一、そんなことがあればそうしようと
なんとなく普段から思っていた。

でも、で、ある。
どのコンビニにも腕時計は置いてなかった。
ビリギャルの本が出版されてから何年も経ち
スマートフォンが普及した現在、
時間を見るためだけに腕時計をコンビニで
買う人が少なくなったからかもしれない。
ほかにも雑貨屋、ドラックストア、お土産店など
その大きな駅の構内と周辺にある店を
冷や汗と、走り回る暑さの汗の両方を同時に
かきながら、息をあげながら探しまわった。

そして、ようやく
駅から少し離れた家電量販店で見つけ、
レジでその代金を払い終わった瞬間、
娘から無事に買えたとの連絡がはいった。

ああ、よかった!!!!!!
買った腕時計の出番がなくてよかった!
心からほっとし、そう思った瞬間だった。

結局、私は具体的に娘の役に立つことなく、
ただただ、駅前をひとりで焦りながら
走り回るという一人芝居のような30分間を
過ごしたのだった。

今思えばたった30分間なのだが、
私がひとりでパニックになった30分間は
妙に長くもあり、
また、その1分1分は無情なほど早く過ぎる
ように感じた不思議な時間だった。

その夜、家に帰ってきた娘に
その日のがんばりをおおいに讃えた。
本番の試験の最中、
突然の予想外の出来事が起きても、
その場で自分ができることをやった娘。
でかした!!がんばった!!!

試験の出来はさておいて、その頑張りに
我が子ながらも拍手喝采したい気持ちだった。

それから、少し落ち着いてから、
互いが買った時計を見せ合った。


ひょっとしたらと思ったが、

机の上には、
カシオのシンプルな文字盤の黒い腕時計が
同じものが2本ならんだ。

次、何か大事な試験があるときは
この腕時計を2本持って行こう。
あの時間を振り返りつつ、そう思う。

いろんなアクシデントは誰にでも起こり得る。
その時々で、どうしたらいいかと焦ることも
あるだろう。
果たして、娘に起きたような突然の出来事が
自分に起きたら私はどうするだろうか。
残念ながら、きっと娘ほど冷静では
いられそうにはない気がする。

でも、そんなとき
今回の娘のことを思い出し、
その場その場の自分のベストを
つくすことが大事だと
その時の自分に言い聞かせよう。

そんなことを、
この腕時計を見ながら、ひとり思う。









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